聖書中の逸話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 05:59 UTC 版)
聖書には、親に孝行であった人が幸福を得て、不孝であった人が災難を被る様が何度か描かれるが、中でも「ルツ記」は有名である。それによると、士師の時代、ベツレヘムに飢饉があって、エリメレクとナオミの夫婦はモアブの土地に逃れた。夫婦の二人の息子は、それぞれモアブ人の女、オルパとルツを妻にした。しかし、ナオミの夫はやがて死に、二人の息子も十年のうちに死んでしまう。 ナオミは老けていくうえ、異郷にあっては頼る者もいないので、ベツレヘムの飢饉の終息を耳にしたこともあって、意を決して故郷に戻ることにした。二人の嫁もついてきた。ナオミは、二人の境遇を哀れに思い、言葉を尽くして、実家に帰るように勧めたが、二人は泣いて同行を求めてやまない。 しかし、一緒にベツレヘムに行っても、将来の見込みがあるわけではない。二人の若い身の上が哀れに思ったナオミは強いて帰郷させようとする。オルパは、やっとその言葉に従い、泣く泣く暇乞いして実家へと帰っていった。でも、ルツだけはどうしても離れない。 あなたを見捨て、あなたに背を向けて帰れなどと、そんなひどいことを強いないでください。わたしは、あなたの行かれる所に行き、お泊まりになる所に泊まります。あなたの民はわたしの民、あなたの神はわたしの神。あなたの亡くなる所でわたしも死に、そこに葬られたいのです。死んでお別れするのならともかく、その他のことであなたを離れるようなことをしたなら、主よ、どうかわたしを幾重にも罰してください。ルツ 1・16-17 貧しい、老いた姑に、ついてゆき、どこまでも行こう、どんな難儀でも厭おうとしない。ナオミも、彼女の美しい心に感動し、そのまま連れだって、ベツレヘムへと帰路についた。 二人がベツレヘムに着いたのは、ちょうど大麦の刈り入れの時期であった。当時のユダヤの慣習では、異邦人、寡婦、貧しい人は、刈る人の後から落ち穂を拾ってもいいことになっていた。 よって、ルツは、ナオミの許可を得て、落ち穂拾いへと出かけたが、幸いなことに、その畑主は、エリメレクの親戚にあたるボアズという豪農だった。ボアズは、畑を見回りにいって、ルツの熱心な働きぶりにしみじみと感心した。昼には呼んで他の小作と共に食べさせたり、敢えて麦穂を落として、心おきなく拾わせるたり、いろいろと親切にいたわった。 一方のルツは日暮れまで働いて、一斗あまりの麦を拾い、それと昼飯の余りを持ち帰って義母を喜ばせた。その後も、毎日ボアズの畑へ行って、真面目に働き、一日もナオミに孝養を怠らない。ボアズはルツの心がけの美しさに、心から感服し、ついには、ルツをめとって妻にし、オベデという男子を生んだ。このオベドの子がエッサイであり、その子は有名なダヴィデ王となり、その子孫からイエスが生まれた。 このように「ルツ記」には、自ら逆境を覚悟して不幸な親に仕えた者が、一転して、身に余る幸福を得たストーリーが描かれ、孝行な人は、この世でもあの世でも大きな恵みを受ける、とは決して言いすぎではないと教える。
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