立体幾何学 — 静的な視点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 03:08 UTC 版)
「キラリティー」の記事における「立体幾何学 — 静的な視点」の解説
メタンは4個の水素原子が正四面体の頂点に位置し炭素原子はその中心に位置するテトラヘドラル対称(Td対称)な分子であり、アキラルである。この水素をひとつずつ別の原子で置き換えてゆくと少しずつ対称性が崩れ、4個の原子全てが異なるものになると、無対称でキラルな分子となる。このとき、元はTd対称の中心であった炭素原子を不斉中心 (asymmetric center/asymmetric centre) またはキラル中心 (chiral center, chiral centre) という。このように、本来は対称的なアキラル分子の構造が変化してキラル分子になったと考えたとき、元の対称的分子の対称中心、対称軸、対称面などが変化して非対称な中心・軸・面になったという見方から、不斉中心・不斉軸・不斉面とよび、これらを不斉源と称する。なお、ここでの対称中心は反転対称の中心という意味ではなく、異なる対称軸の交点(不動点となる)という意味で使っている。不斉中心、不斉軸、不斉面を定義することは命名法の上で必要である。 なお、不斉中心・不斉軸・不斉面の定義としては、「点の周りの空間、直線の周りの空間、面の周りの空間を不斉に占有する」ときのそれらの点・直線・面のことともされている。IUPACではキラル中心、キラル軸の定義を「鏡像と重ならないような空間配置になるように、置換基をその周囲に持つ (a set of ligands is held so that it results in a spatial arrangement which is not superposable on its mirror image)」原子および軸としている。 不斉中心 その4つの単結合の置換基が全て異なる炭素原子を不斉炭素と呼び、不斉炭素を持つ分子はキラルになることが多い。例えば不斉炭素の置換基が全てアキラルであれば、この分子はキラルである。不斉炭素の置換基のうち2個が互いに対掌体であれば、この分子はアキラルである。炭素以外の原子でも置換基がほぼ正四面体に結合すれば同じことであり、炭素に限定しない場合は不斉中心と呼ぶ。 不斉炭素の二つの鏡像 キラル置換基を持つ不斉炭素の二つの鏡像 不斉軸 アレン (allene) 誘導体、単結合周りの回転が止まったビフェニル誘導体やBINAPのように、対称軸となる原子結合鎖に異なる置換基が結合することでキラルとなった場合に、この軸を不斉軸という。これらの分子には不斉中心はないがキラルである。XYC=C=CXYのような分子は不斉軸の周りのらせんによるキラリティーだとも言える。 アレン誘導体 ビフェニル誘導体 BINAP 不斉面 1つのベンゼン環の2個の炭素を原子鎖で結合したシクロファンや2個のヘキサペンタジエニルアニオンが鉄(II)に配位したフェロセンの誘導体では不斉中心がないのにキラルなものがある。これらはベンゼン環平面への置換によりキラルとなったとして、ベンゼン環平面を不斉面と定義する。trans-シクロオクテンもエナンチオマーが単離でき、その二重結合と隣接原子を含む平面が不斉面となる。これらは不斉面に垂直ならせん軸によるキラリティーとも言える。 らせん軸 ヘリセンには不斉中心も不斉軸も不斉面もないがキラルであり、ヘリシティーが右ねじと左ねじのエナンチオマーを持つ。
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