空間的相互作用とは? わかりやすく解説

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空間的相互作用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/12 01:05 UTC 版)

空間的相互作用(くうかんてきそうごさよう、英語: spatial interaction)とは、地域間における流動[注釈 1]のことをさす地理学の用語である[2]。この用語は、アメリカ合衆国の地理学者のエドワード・アルマンにより用いられはじめた[3]

原理

空間的相互作用には原理が3つ存在し、それぞれ、補完性、介在機会、可動性とよばれる[2]

補完性complementarity)とは、地域間流動は、発地での供給(放出性)と着地での需要(吸引性)が存在することで起こるという考え方である[2]

介在機会intervening opportunity)とは、別の供給地の存在の影響で地域間流動が小さくなるという考え方である[2]

可動性transferability)とは、2地域間の距離の増大に伴い空間的相互作用が弱化する、地域間流動は交通費用が限界値に達しない場合に起こるという概念である[2]

この原理はUllman (1956)により提唱され、当初は経験則であったが、1960年代以降は空間的相互作用モデル群の根拠として利用されていった[2]

空間的相互作用モデル

個の発地と個の着地における流動について、列のO-D行列[注釈 2]を考える[5]。発地から着地への流動量は、行列の成分として表される[5]。空間的相互作用モデルをつくるためには、を説明するモデル式をつくることが求められる[5]

空間的相互作用モデルの式は一般に

(1)

と表される(は定数(調整項)、の放出性、の吸引性、およびは放出性・吸引性に関するパラメータ、は発着地間の距離、は距離逓減関数[注釈 3][7]を定めることでモデル式を決定できる[8]

空間的相互作用モデルは、より一般に、以下の式で表される[5]

(2)

すなわち、空間的相互作用モデルは、2地域間の複雑な流動量を、の3変数のみで説明している[5]。かつ、このモデル式は簡単でわかりやすい式であること、現実の状況への適合性が高いことが評価理由となっている[9]

空間的相互作用モデル族

空間的相互作用モデル族family of spatial interaction models)とは、発生―吸収制約モデル、発生制約モデル、吸収制約モデル、無制約モデルの総称のことである[10]Wilson (1974)により提示された[11]

ここで、発地における発生流動量の総和を、着地における吸収量の総和をとすると、以下の式が成立する[5]

(3)
(4)

4つの空間的相互作用モデルは、式(3)・式(4)の成立の有無より分類される[10]

発生―吸収制約モデル

発生―吸収制約モデルproduction-attraction-constrained model)は、およびともに既知であり、式(3)・式(4)がともに成立する場合である[12]二重制約モデルdoubly constrained model)ともよぶ。よって発生―吸収制約モデルは、均衡因子[注釈 4]を用いて、以下の式で表される[6]

(5)

なお、である[注釈 5][13]

発生―吸収制約モデルは、通勤モデルなどで用いられる[注釈 6][15]

発生制約モデル

発生制約モデルproduction-constrained model)は、は既知であり式(3)は成立するが、は未知である場合である[12]。よって発生制約モデルは、均衡因子を用いて以下の式で表される[16]

(6)

なお、である[注釈 7][16]

発生制約モデルは、買物行動モデルなどで用いられる[注釈 8][17]

吸収制約モデル

吸収制約モデルattraction-constrained model)は、は既知であり式(4)は成立するが、は未知である場合である[12]。よって吸収制約モデルは、均衡因子を用いて、以下の式で表される[16]

(7)

なお、である[注釈 9][16]

吸収制約モデルは、居住立地モデルなどで用いられる[注釈 10][注釈 11][17]

無制約モデル

無制約モデルunconstrained model)は、およびともに未知の場合である[12]。制約条件もない[15]。モデル式は式(2)と同じで、以下の通りである[15]

(8)

無制約モデルの代表例として、古典的な重力モデルが挙げられる[17]

重力モデル

重力モデルgravity model)は、空間的相互作用モデルの中で最古のものであり[21]、地理学では交通流動研究などで用いられてきた[22]。1950年代以降によく注目されるようになったが、多くの問題点も抱えていた[23]

エントロピー最大化モデル

エントロピー最大化モデルentropy maximising models)は、アラン・G・ウィルソン英語版により導出された空間的相互作用モデルである[24]エントロピーの概念を用いて、統計力学的な方法でパーソントリップを分子運動のように捉えることでモデル式が導かれた[24]。また、このモデルが重力モデルの理論的な根拠を説明したことで、重力モデルの問題点の一部の解消につながった[25]

脚注

注釈

  1. ^ 人口移動や、物資・貨幣・情報の流動など[1]
  2. ^ O-D行列とは、2地点間での流動量を表示する地理行列相互作用行列)のことで、旅客や貨物などの流動の表示に使用できる[4]
  3. ^ 距離逓減関数では、パワー形または指数形が使用されることが多い[6]
  4. ^ 均衡因子balancing factor)とは、制約条件を満たす定数のことであり、調整項の代替で用いられる[10]
  5. ^ 式(5)を、式(3)・式(4)に代入して求められる[13]
  6. ^ 地域の住宅から地域の職場への通勤を考え、地域を発地とする通勤者数を、地域を着地とする通勤者数をとおくとき、以下の2つの条件
    を満足するため、通勤モデルは発生―吸収制約モデルと判断できる[14]
  7. ^ 式(6)を式(3)に代入して求められる[16]
  8. ^ 地域の住民が地域の商店で買い物を行う場合を考え、地域の住民の総消費金額を、地域の商店の総販売額をとおくとき、総消費金額は、住民の収入の制約を受けるため上限値があるが、総販売額は固定値をとらないため、買物行動モデルは発生制約モデルと判断できる[17]
  9. ^ 式(7)を式(4)に代入して求められる[16]
  10. ^ 地域での労働者が、就業先周辺の地域に居住する場合を考える[18]。このとき、地域での労働者数には上限があるが、居住地域は労働者が自由に選択でき、地域の人口は固定値をとらないため、この居住立地モデルは吸収制約モデルと判断できる[17]
  11. ^ ただし、この居住立地モデルでは住宅供給を行う側の事情や、住宅環境の地域差による居住地選択の違いを考慮していない[19]。このため、支出可能な住宅価格を制約条件を加えた居住立地モデルも存在し、そのモデルは発生―吸収制約モデルに該当する[20]

出典

  1. ^ 杉浦 1989, p. 85.
  2. ^ a b c d e f 村山 2013, p. 159.
  3. ^ 石川 1988, p. 3.
  4. ^ 村山・駒木 2013, p. 24.
  5. ^ a b c d e f 村山 2013, p. 160.
  6. ^ a b 村山 2013, p. 162.
  7. ^ 村山 2013, pp. 160–161.
  8. ^ 村山 2013, p. 161.
  9. ^ 石川 1988, p. 7.
  10. ^ a b c 石川 1988, p. 29.
  11. ^ 張 2011, p. 4.
  12. ^ a b c d 高阪 1979, p. 3.
  13. ^ a b 村山 2013, pp. 162–163.
  14. ^ 高阪 1979, p. 5.
  15. ^ a b c 村山 2013, p. 164.
  16. ^ a b c d e f 村山 2013, p. 163.
  17. ^ a b c d e 村山 2013, p. 165.
  18. ^ 石川 1988, p. 100.
  19. ^ 石川 1988, p. 102.
  20. ^ 石川 1988, pp. 102–103.
  21. ^ 石川 1988, p. 12.
  22. ^ 村山 2013, p. 166.
  23. ^ 石川 1988, p. 23.
  24. ^ a b 村山 2013, p. 167.
  25. ^ 杉浦 1986, p. 171.

参考文献


空間的相互作用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 14:06 UTC 版)

空間分析」の記事における「空間的相互作用」の解説

詳細は「空間的相互作用」を参照 空間的相互作用や重力モデルは、地理空間位置間において人、材料情報の流れ推定する住宅地通勤者数から土地発展性が、商業地事務所容量から地域の魅力度が、走行距離時間から測定位置間の近接関係などの因数取得できるまた、位相幾何学的または地政学的な地域間の関係は、特に距離と地形間で頻繁に相反する関係を考慮し導出されなければならない例え空間的に近い地域高速道路隔てられている場合有意な関係性見られない場合がある。これらの関係の関数形式指定後、保有している流量データ通常の最小二乗法最尤推定のような標準的技術用いてモデルパラメータを推定できる空間的相互作用モデル研究対象周辺競合要因加える際には、流路上をクラスタリング影響値を取得するニューラルネットワークのような計算方法でも、位置間の空間的関連性推定ノイズが多い定性的データの処理が可能である。

※この「空間的相互作用」の解説は、「空間分析」の解説の一部です。
「空間的相互作用」を含む「空間分析」の記事については、「空間分析」の概要を参照ください。

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