稠密に定義された作用素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/21 01:14 UTC 版)
数学の、特に作用素論の分野における稠密に定義された作用素(ちゅうみつにていぎされたさようそ、英語: densely defined operator)とは、部分的に定義されたある種の関数のことで、位相的な意味では「ほとんど至る所」定義された線形作用素のことである。稠密に定義された作用素は、関数解析学の分野において、先天的に「意味を持つ」ような対象よりもより広いクラスへと応用されるような作用素として登場する。
定義
ある位相ベクトル空間 X から別の位相ベクトル空間 Y への線形作用素 T が稠密に定義されているとは、T の定義域が X の稠密部分集合であり、値域が Y に含まれていることを言う。
例
- 単位区間 [0, 1] 上で定義される実数値連続関数からなる空間 C0([0, 1]; R) を考える。C1([0, 1]; R) を連続的微分可能な関数からなるその部分空間とする。上限ノルム ||·||∞ を空間 C0([0, 1]; R) に備えることで、その空間は実バナッハ空間となる。D を微分作用素
- としたとき、これは C0([0, 1]; R) からそれ自身への稠密に定義された作用素で、その定義域は稠密な部分空間 C1([0, 1]; R) である。そのような作用素 D は非有界作用素の例であることにも注意されたい。実際
- に対して
- が成立するため、D は非有界作用素である。この非有界性は、作用素 D を何らかの連続的な方法で C0([0, 1]; R) へと拡張しようとする際に、困難をもたらす。
- 一方、ペイリー-ウィナー積分は稠密に定義された作用素の連続的な拡張の例である。任意の抽象的ウィナー空間 i : H → E とその共役 j = i∗ : E∗ → H において、j(E∗) から L2(E, γ; R) への自然な連続線形作用素(実際それは包含(inclusion)で等長)が存在し、j(f) ∈ j(E∗) ⊆ H は L2(E, γ; R) における f の同値類 (equivalence class) [f] へと向かう。j(E∗) が H において稠密であることを示すことは難しくない。上述のような包含は連続であるため、j(E∗) → L2(E, γ; R) の H 全体への連続線型拡張 I : H → L2(E, γ; R) が唯一つ存在する。この拡張がペイリー-ウィナー写像である。
参考文献
- Renardy, Michael; Rogers, Robert C. (2004). An introduction to partial differential equations. Texts in Applied Mathematics 13 (Second edition ed.). New York: Springer-Verlag. pp. xiv+434. ISBN 0-387-00444-0. MR2028503
稠密に定義された作用素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 00:55 UTC 版)
「量子力学の数学的定式化」の記事における「稠密に定義された作用素」の解説
オブザーバブルは状態空間の全域で定義されているとは限らないが、状態空間の稠密部分集合上では定義が可能である。そこでまず、稠密に定義された作用素の概念を導入する。 定義 (稠密に定義された作用素) ― H 1 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}} 、 H 2 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{2}} をヒルベルト空間とする。 H 1 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}} の部分集合Dom(T)で定義された線形作用素 T : D o m ( T ) → H 2 {\displaystyle T~:~\mathrm {Dom} (T)\to {\mathcal {H}}_{2}} が H 1 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}} で稠密に定義されているとは、Dom(T)が H 1 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}} の稠密部分集合である事をいい新井(p71)、以下のように書き表す。 T : H 1 → H 2 {\displaystyle T~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}} (稠密に定義されている) 紛れがなければ H 1 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}} 上稠密に定義された作用素を単に T : H 1 → H 2 {\displaystyle T~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}} と書く 特に D o m ( T ) = H 1 {\displaystyle \mathrm {Dom} (T)={\mathcal {H}}_{1}} が成立しているとき、Tは H 1 {\displaystyle {\mathcal {H}}_{1}} の全域で定義されているという。 稠密に定義された作用素に対し以下の拡大の概念を定義できる: 定義 (稠密に定義された線形作用素の拡大) ― 稠密に定義された2つの線形作用素 S , T : H 1 → H 2 {\displaystyle S,T~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}} が、 Dom(S) ⊂ Dom(T) かつT|Dom(S) = Sを満たすとき、TはSの拡大であるといい、以下のように書き表す: S ⊂ T 有界作用素に関しては、次の重用な性質が知られている: 定理 (BLT定理) ― 稠密に定義された作用素 Tがその定義域において有界な線形作用素であれば、Tを全域に一意に拡張可能である。すなわち、全域で定義された T ¯ : H 1 → H 2 {\displaystyle {\bar {T}}~:~{\mathcal {H}}_{1}\to {\mathcal {H}}_{2}} が一意に存在し、 T ¯ | D o m ( T ) = T {\displaystyle {\bar {T}}|_{\mathrm {Dom} (T)}=T} である新井(p71) したがって有界作用素に限定すれば、稠密に定義されている事は全域で定義されている事と実質的な差がない。しかし量子力学で用いる作用その多くは有界ではないので、この定理を用いる事ができない。
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