移動運動とは? わかりやすく解説

移動運動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/02 13:07 UTC 版)

移動運動 (locomotion) とは、動物体のある地点から別の地点への移動目的とする運動である。

概要

移動運動はその様式から

などに分類される。

また移動方向に基づいて

  • 直進
  • 後退
  • 方向転換 (steering)

などに分類される。

移動運動の神経メカニズム

移動運動は身体が左右で規則的に動くことで実現される[1]。例えば魚類の遊泳では、体を左右交互に振ることによって前進が実現する。ヒトの歩行では、脚を左右交互に踏み出すことによって前進が実現する。この規則的な動き、つまりリズムは神経によって生成されると考えられている。

脊髄の移動運動リズム生成回路

移動運動の際、大きく分けて2つのリズムが発生している。

  • 左右リズム (left–right pattern)
  • 屈筋-伸筋リズム (flexor–extensor pattern)

左右リズムは魚が体を左右にうねらせながら泳いだり、人が左右の足を交互に踏み出すために用いられる。屈筋-伸筋リズムは肢の中で屈筋と伸筋が相反性に働いてスムーズに肢を動かすために用いられる。

左右リズム (left–right pattern)

脊髄の左右を跨いで投射するニューロン (commissural neurons. CNs) が左右の協調に必要不可欠であると考えられている。

マウスのCNsは次のように分類できる。

  • V0 CNs
    • V0d CNs
    • V0v CNs
  • V3 CNs

リズムの生成とパターンの生成を分けて考える場合もある。

屈筋-伸筋リズム (flexor–extensor pattern)

屈筋-伸筋リズムは四肢動物で主にみられる。これは1つの肢に屈筋と伸筋という逆の作用をする筋肉がついており肢を動かすには片方のみを活動させる必要があるからである。

これに重要な働きをすると考えられるニューロンは reciprocal-Ia-inhibitory neurons (rIa-INs)である。rIa-INsは筋紡錘に終末が存在する感覚ニューロンである。

移動運動の種類

マウスの移動運動は4種類に分類される[2]

  • walk:
  • trot:
  • gallop: 左右の前肢ペアがシンクロして出る、が、少しずれている。後肢も同様[3]
  • bound: 左右の前肢ペアが同時に出る。後肢ペアも同時[4]

正常なマウスでは低速でwalk、高速なるほどboundの移動様式をとる。

モデル動物

移動運動の神経メカニズムを解明するために様々なモデル動物が利用される[5]

ゼブラフィッシュの移動運動

ゼブラフィッシュ幼生の移動運動 (遊泳) リズムには少なくとも2種類のニューロンが関わっている[6]

  • MCoD: larval VeLD, multipolar commissural descending interneuron[7]
  • CiD: Chx10 positive, mouse V2a-like[8]

その他

エビが逃げる際に後退する動き。
ホタテの移動
  • 蟹歩き(crabwise) - カニが正面に歩かず横に歩行する[9]。また、その様に横に移動する行動[10]。ただし、すべてのカニが横に移動するわけでもなく、アサヒガニ、ミナミコメツキガニ、ケガニ、ヒラコウカイカムリなどは前に移動する[11][12]
  • 跳躍(ジャンプ) - 飛び跳ねる行動。

参考文献

  • The Basal Ganglia Over 500 Million Years[13]
  • Dopamine and the Brainstem Locomotor Networks: From Lamprey to Human[14]
  • Kiehn O. Decoding the organization of spinal circuits that control locomotion. Nat Rev Neurosci. 2016;17(4):224-38. doi: 10.1038/nrn.2016.9
  • Human Spinal Motor Control. doi: 10.1146/annurev-neuro-070815-013913
  • The neural control of interlimb coordination during mammalian locomotion[15]
  • Distinct neural circuits for control of movement vs. holding still[16]
  • Uniqueness of Human Running Coordination: The Integration of Modern and Ancient Evolutionary Innovations [17]
  • Sensory Activation of Command Cells for Locomotion and Modulatory Mechanisms: Lessons from Lampreys.[18]
  • 中枢パターン生成器-脳科学辞典

脚注

  1. ^ Appropriate locomotion requires the coordination of muscle activities on the left and right sides of the body. > https://doi.org/10.1038/nrn.2016.9
  2. ^ Wild-type mice display four basic gaits: two alternating gaits, walk and trot; one synchronous gait, bound; and an intermediate gait, gallop. > https://doi.org/10.1038/nrn.2016.9
  3. ^ during gallop the pairs of hindlimbs and forelimbs are slightly out of phase. > https://doi.org/10.1038/nrn.2016.9
  4. ^ During bound, pairs of hindlimbs and pairs of forelimbs are moved in synchrony > https://doi.org/10.1038/nrn.2016.9
  5. ^ Vertebrate locomotion is now studied in several vertebrate models. > https://doi.org/10.1038/nrn.2016.9
  6. ^ In zebrafish larvae, two groups of excitatory neurons have been shown to be involved in rhythm generation and the excitatory drive in locomotor circuits: the MCoD neurons (which belong to the V0V group of neurons and the circumferential ipsilaterally descending (CiD) neurons > https://doi.org/10.1038/nrn.2016.9
  7. ^ https://zfin.org/ZFA:0005232
  8. ^ https://zfin.org/ZFA:0005233
  9. ^ カニはどうして横に歩くの”. 学研キッズネット. 2023年10月15日閲覧。
  10. ^ 蟹歩きhttps://kotobank.jp/word/%E8%9F%B9%E6%AD%A9%E3%81%8D 
  11. ^ 前に歩くカニっているのですか?(どうぶつ奇想天外)”. www.tbs.co.jp. TBS. 2025年4月2日閲覧。
  12. ^ 前に歩くカニがいるって本当ですか?”. 沖縄美ら海水族館. 2025年4月2日閲覧。
  13. ^ http://tm3xa4ur3u.search.serialssolutions.com/?url_ver=Z39.88-2004&url_ctx_fmt=info:ofi/fmt:kev:mtx:ctx&rft_val_fmt=info:ofi/fmt:kev:mtx:journal&rft.atitle=The%20Basal%20Ganglia%20Over%20500%20Million%20Years&rft.aufirst=Sten&rft.aulast=Grillner&rft.date=2016&rft.eissn=1879-0445&rft.epage=R1100&rft.genre=article&rft.issn=0960-9822&rft.issue=20&rft.jtitle=CURRENT%20BIOLOGY&rft.pages=R1088-R1100&rft.spage=R1088&rft.stitle=CURR%20BIOL&rft.volume=26&rfr_id=info:sid/www.isinet.com:WoK:WOS&rft.au=Robertson%2C%20Brita&rft_id=info:pmid/27780050&rft_id=info:doi/10%2E1016%2Fj%2Ecub%2E2016%2E06%2E041
  14. ^ https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2017.00295/full
  15. ^ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28298308
  16. ^ http://jn.physiology.org/content/117/4/1431
  17. ^ https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2016.00262/full
  18. ^ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27047342

関連項目

  • 魚の移動運動英語版
  • 水生移動運動英語版
  • 動物の水面移動英語版
  • 陸上移動運動英語版
  • 蛇行滑走英語版
  • 直線式滑走英語版
  • サイドワインダ式滑走英語版
  • 飛翔する動物と滑空する動物英語版 ‐ 鳥のほか、ヘビやムササビは樹上から、トビウオ、イカも水中から飛び出し滑空する。
  • バルーニング (動物) - クモなどが糸を垂らし、風に乗って移動する方法。
  • 便乗英語版 ‐ 他の動物にくっつくことで、移動する片利共生の形。
  • 渡り回遊

移動運動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/12 08:40 UTC 版)

プラテカルプス」の記事における「移動運動」の解説

モササウルス科ウナギのように体をくねらせる動き水中前進した伝統的に考えられてきた一方プラテカルプス上下長いビレを持つことからサメのように遊泳していたことが示唆されている。プラテカルプスの下へ向いた尾椎三日月形の尾ビレ存在したことが示されている。尾ビレが始まる位置では椎体短く円盤状であり、椎体小型化していることで、遊泳時に莫大な負荷がかかる部位柔軟性もたらされている可能性がある。これら椎骨神経棘に靭帯挿入するための溝が存在し背側結合組織は尾ビレ側方への運動補助していた。靭帯コラーゲン繊維構成され、おそらくエネルギー蓄えられた後にバネとして尾を後方へ動かす役割担っていた。靭帯同様の働き現生種の魚類にも見られ、尾を繰り返し曲げ伸ばしする際のエネルギー節約するために用いられている。プラテカルプスの尾ビレうねっても尾の根元安定していた。この運動形態は carangiform locomotion として知られるプラテカルプスウロコ構造海洋での生活様式への別の適応である可能性がある。ウロコ小さく、そして全身通して同様の形状であり、体幹頑強にして側方運動への抵抗性高めていたと推測されている。この頑強性により体に纏わる水流改善され流体力学効率向上した示唆されている。初期モササウルス上科であるヴァレキロサウルス (Vallecillosaurus) もまた体のウロコ保存されているが、ヴァレキロサウルスのウロコはさらに大型形状多様であり、尾だけというよりも前進波打たせることに頼っていたことが示唆されている。プロトサウルスプラテカルプスよりも派生的なモササウルス科爬虫類であり、より小型ウロコが体を纏い、より効率的な移動運動を水中行っていたことが示唆されている。

※この「移動運動」の解説は、「プラテカルプス」の解説の一部です。
「移動運動」を含む「プラテカルプス」の記事については、「プラテカルプス」の概要を参照ください。

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