理論と実験の融合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/04 04:21 UTC 版)
先述のように、19世紀の流体力学による理論研究は、実験や経験から成果をあげている実用水理学とはかけ離れたものとなったが、実用性の観点から次第に粘性を持つ実在流体に対応する必要性が出てきた。 これに対応するものとして、アンリ・ナビエとジョージ・ガブリエル・ストークスはそれぞれ独自に、ニュートン流体に関する厳密な運動方程式であるナビエ・ストークス方程式を導いた。このナビエ・ストークス方程式の厳密解を導くことは一般的に不可能であるが、これによる知見からストークスは粘性流体中を降下する球の速度に関するストークスの公式を発見した。また、オズボーン・レイノルズはマンチェスター大学で実験を行い、流れが層流と乱流とに区別できることを発見し、レイノルズ数を考案した。これにより、ポテンシャル流理論では再現できなかった流れが理解された。さらに、ジョセフ・バレンティン・ブシネスク(英語版)は乱流について渦動粘性数によるモデルを提案した。 そして、この理論と現実との大きなギャップを一気に縮めたものが、1904年にルートヴィヒ・プラントルが発表した「境界層理論」である。この境界層理論により、物体付近の粘性の効く境界層とそうでないポテンシャル流による展開が可能な領域が区別されることになった。禰津家久は、この2つの学問のギャップを一気に埋めたという意味でプラントルを「近代流体力学の父」と評価している。その後、境界層理論は、プラントルの弟子であるセオドア・フォン・カルマン、パウル・リヒャルト・ハインリッヒ・ブラジウス(英語版)、ヨセフ・ニクラーゼ(英語版)、ヴァルテル・トルミーン(英語版)、ヘルマン・シュリヒティング(英語版)など「ゲッティンゲン学派」によって研究され、シュヒティングによる『Boundary Layer Theory』(境界層理論)によって集大成された。 さらに乱流についても、カルマンやジェフェリー・イングラム・テイラーによる乱流の等方性理論、アンドレイ・コルモゴロフによる局所等方性理論が発表され、実際から大きくかけ離れていた流体力学の理論は実在流体に適用できるものとなった(なお、カルマンは1911年に有名なカルマン渦列を発見している)。
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