無は不安定である
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 04:07 UTC 版)
「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか」の記事における「無は不安定である」の解説
詳細は「自発的対称性の破れ」、「偽の真空」、および「量子宇宙論」を参照 量子宇宙論によれば、偽の真空(false vacuum)の量子ゆらぎからこの宇宙が始まったとされる。そしてこの「偽の真空」はしばしば「無」と表現される。そしてこの理論により「無からの創造」として存在の問題が説明された、などとする場合がある。実際この量子宇宙論により、本稿の問いに対してもう説明されるべきことは何も無くなった、とする哲学者もいるが、しかし哲学者たちの多くはこの考えには満足していない。その理由は偽の真空が「無」とは言いがたい明確な内的構造を持つためである。ある哲学者は、物理学者の言う(偽の)真空は、無ではなく物理的対象である、と表現する。また、ある神学者は「物理学者の言う真空は、無と言うよりも混沌(ケイオス)と言ったほうが適切である」と指摘する。つまり「なぜ何もなかったのではなく、量子力学の法則にしたがってゆらぐ(偽の)真空があったのか」という形に問いが置き換わるだけで、問題は依然として残存するだろう、と指摘される。 この点はある程度は学問分野による問題の定式化の仕方の違いに吸収される。現代の宇宙論における議論においては、科学者は一般に、自然法則というものを、物質や物理状態といったものより、もっと基盤的なもの、またはより外部にある原理として捉えている。そのため本稿の問いを単に「なぜ物質があるのか?」という形で解釈する限りは、「自然法則がこうなっているからだ」という形で答えることは科学者として妥当な方法だとも言える。しかしこの場合、存在の問いは単に自然法則や物理定数に対する問いへと形を変えるだけである。 インフレーション理論の提唱者の一人として知られるアメリカの理論物理学者アラン・グースはこう述べている。 無から宇宙の出現を記述する試みは推測の域にとどまっている部分が大きいにしても、科学の領域を拡張する刺激的な営みだ。いつの日か、このプログラムを完了することができたら、宇宙の存在と歴史が、根本的な自然法則で説明できることになる。つまり、物理法則から宇宙の存在が導き出されるということだ。そのとき、私たちは、なぜ何もないのではなく、何かがあるのかを理解するという目覚ましい目標を達成したことになる。なぜなら、このアプローチが正しければ、永遠に続く「無」(nothing)はありえないからだ。宇宙の創造が量子過程で記述できれば、一つの深い謎が残る。何が物理法則を決定したのか。 — アラン・グース (1997年) 『なぜビッグバンは起こったか』 林一ら[訳] (強調引用者) イギリスの理論物理学者ステファン・ホーキングはこう述べている。 仮にたったひとつの統一理論があったとしても、それはただの方程式の集まりでしかない。いったい何が、これらの方程式に火を吹き入れ、そしてそれによって記述されるような宇宙を作ったのか? — スティーヴン・ホーキング (1988年) 『ホーキング、宇宙を語る』 林一[訳]
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