海洋遺伝資源
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/03/20 15:04 UTC 版)
生物多様性条約において、遺伝の機能的な単位を有する植物,動物,微生物その他に由来する素材を遺伝素材といい、現実の又は潜在的な価値を有する遺伝素材を遺伝資源という。遺伝資源の利用は生物多様性の構成要素の利用に当たる。生物多様性条約では「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」をその主要な目的の1つとしており、第10回締約国会議(COP10)においては遺伝資源の利益配分についての「名古屋議定書」も締結している。ただし、生物多様性条約及び名古屋議定書では国の管轄権が及ばない区域(公海、深海底)は適用範囲外であり、公海や深海底にある遺伝資源は対象とはならない。したがって、公海や深海底にある遺伝資源は国際法上の規律が及ばない。 1977年2月にアメリカの深海探査艇アルビン号が熱水噴出孔に多様な生物が生息しているのを発見して以降、海洋の科学的調査の進展により、深海にある海底熱水鉱床、熱水噴出孔、海山、冷水性サンゴ礁などには「極限環境生物」と呼ばれる生物などが多く生息していることがわかってきており、また、それらの生物の遺伝素材は医薬品の開発などに応用できる可能性があり、「海洋遺伝資源」(marine genetic resources:MGR)として注目されている。しかし、バイオプロスペクティングなどにより、そのような海洋遺伝資源にアクセスするには高度な技術を要し、また、公海や深海底は生物多様性条約及び名古屋議定書が適用されないため、海洋遺伝資源から得られる利益は事実上先進諸国による独占状態となる。 これに対し、途上国は海洋遺伝資源は「人類の共通の財産」(Common Heritage of Mankind:CHM)であり海洋遺伝資源から得られる利益は衡平に配分するべきと主張している。他方、先進諸国は海洋遺伝資源の取得は公海自由の原則に基づき自由であるべきと主張し、また、海洋遺伝資源に知的財産権を認めるべきか否かも問題となっている。 海洋遺伝資源へのアクセスの方法として「海洋の科学的調査」と「バイオプロスペクティング」を峻別し、バイオプロスペクティングに対して一般的な海洋の科学的調査とは異なる規制を行うという議論もあるが、両者は外観上はほぼ同様の技術を用いており明確な線引きをするのは至難である。
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