水道方式とは? わかりやすく解説

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すいどう‐ほうしき〔スイダウハウシキ〕【水道方式】

読み方:すいどうほうしき

算数教育における指導方式の一。最も標準的な問題先に学習させ、しだいに特殊な問題解答させていく、筆算中心学習方式。「一般から特殊へ」の方針を、上水道貯水池から給水系統分かれていくことにたとえた呼称昭和33年(1958)ごろから遠山啓(ひらく)らが提唱


水道方式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/25 07:07 UTC 版)

水道方式(すいどうほうしき)とは、計算方法の最も基礎的な概念・手順を効率よく理解させるための理論である。1958年頃に数学者遠山啓銀林浩が中心となり、「暗算よりも筆算を基本的で発展性のある計算方法」として提唱した[2]。水道方式ではタイルという正方形のマスで位取りを理解させる。「タイルを使った位取り指導」には大正新教育運動時代の田籠松三郎[3]鈴木筆太郎[4][5][6]の先行研究[注 1]があり、遠山らもこれらと独立にタイルを採用した[7]。水道方式ではタイルを使うだけでなく「計算の型分けによる効率的なドリル」を提唱した[2]。水道方式の語源は最も基本的な「計算の素過程」を練習した後、最も一般的な型を「水源地」とし、「一般から特殊へ」の原則に基づいて型分けによるドリルを教えていく流れを「水道管の分岐や流れ」に模して遠山らが名付けた[8][注 2]


注釈

  1. ^ 遠山らは海外の算数教育については調査しているが、大正時代のタイル[5]や九九暗記不要論[3]などの先行研究にはまったく言及していないし、反対派との論争にも使っていない[2]
  2. ^ 遠山は「「水道方式」という名は仮の名のつもりだった。強いて本名を付けるとすれば「分析総合方式」とでもしたら良かっただろう。しかし,それではあまりにまともすぎて面白みがないので、仮の名の方が良く使われることになった。ところがその仮の名がいつの間にか広がって本名になってしまったのである」と述べている[9]
  3. ^ タイルという命名は遠山啓によるもので、子どもの身近にあるものとして選ばれた。四角とか正方形とかでは、図形そのものを指しているかどうかまぎらわしいから、あえて命名したという[10]
  4. ^ これに対して戦前の国定教科書編集に携わり、暗算中心の教科書を編集した元文部省図書監修官の塩野直道(1898-1969)は、激しく水道方式に反対した。塩野は国定教科書の暗記主義について「強硬手段によって暗算を詰め込む」ことが必要であると主張して、筆算中心の水道方式に反対した[15]
  5. ^ 遠山が筆算を重視したのは、1935年(昭和10年)から使われた『尋常小学算術(通称緑表紙)が、暗算中心の方式をとった結果、子どもの計算力が低下したという結果を踏まえてのことだった[16]
  6. ^ 遠山は「最近面白い研究が出ている。総九九を教えても、子どもが成長していくと、半九九だけ、つまり3×7=21だけ使って、7×3=21はだんだん使わなくなるという結果になるようです」と述べている[31]
  7. ^ 遠山は「余りのあるものを先にやるというと、とんでもないばかなやり方だというかもしれません」と述べている[38]
  8. ^ 英語のlong divisionは「筆算」を意味し、short divisionが「暗算」を意味するので、日本語の用法とは異なる。日本ではそろばんの伝統があったので、道具を使わない西洋数学はすべて筆算と呼んでいた。
  9. ^ たとえば『啓林』1956年12月号の4ページには、暗算論者の塩野直道の水道方式に反対する論文を載せている[40]
  10. ^ 新居がこのように述べている背景には、遠山が戦前の「暗記偏重の緑表紙の国定教科書」[52]や戦後の「生活単元学習の指導要領や教科書」によって算数の学力低下をまねいたとしてを厳しく批判した[53]結果、1962年(昭和37年)当時の京都市教育委員会の教育長が京都市の小学校長宛に、「水道方式には下記のような問題点があるので各学校においては、その取り扱いについて充分留意されるように」という通知を出したり[54]、「数教協のスタッフたちがたちまちにして日教組や東京都教組の数学分科会を牛耳るようになった」「数学分科会が次第に偏向して悪くなった」などという批判[55]や、「暗算中心の教科書」を作っている出版社や執筆者が「(水道方式に沿った)そういう教科書を出すと文部省の検定では不合格になるぞ」という警告を、遠山らに協力していた教科書会社に出した[56]ことなどがあった。
  11. ^ あらいきみたけ。当時東京都の小学校教員。数学教育協議会と仮説実験授業研究会の会員。
  12. ^ このテキストは当初、遠山らが教科書会社の光村図書から1958年に依頼されて書いた検定教科書だったが、啓林館や文部省の様々な水道方式への妨害で取りやめになり、麦書房から出版したもの[57]

出典

  1. ^ 小野健司 2005b, p. 66-67.
  2. ^ a b c 遠山啓 1980.
  3. ^ a b 小野健司 2020.
  4. ^ 小野健司 2005a.
  5. ^ a b 小野健司 2005b.
  6. ^ 小野健司 2005c.
  7. ^ 小野健司 2005a, pp. 41–42.
  8. ^ a b c 遠山啓 1980, pp. 136–137.
  9. ^ 遠山・銀林 1960, p. 11.
  10. ^ 遠山啓 1979, p. 276.
  11. ^ 遠山啓 1981, p. 17.
  12. ^ 遠山啓 1980, pp. 31–32.
  13. ^ 遠山啓 1980, p. 29.
  14. ^ 遠山啓 1980, pp. 38–39.
  15. ^ 遠山啓 1981, pp. 129–135.
  16. ^ 遠山啓 1981, p. 16.
  17. ^ 遠山啓 1980, pp. 32–33.
  18. ^ 遠山啓 1980, p. 38.
  19. ^ 遠山啓 1981, p. 11-12.
  20. ^ 遠山啓 1980, pp. 40–41.
  21. ^ a b 遠山啓 1980, pp. 144–151.
  22. ^ 遠山啓 1980, p. 33.
  23. ^ 遠山啓 1980, pp. 134–136.
  24. ^ 遠山啓 1980, p. 59.
  25. ^ 遠山啓 1980, p. 134.
  26. ^ 遠山啓 1980, p. 117.
  27. ^ 遠山啓 1980, pp. 152–161.
  28. ^ a b 遠山・銀林 1960, p. 19.
  29. ^ 遠山啓 1980, pp. 162–171.
  30. ^ 遠山啓 1980, p. 164.
  31. ^ 遠山啓 1980, p. 167.
  32. ^ 遠山啓 1980, p. 169.
  33. ^ a b 森下友昭 2010, p. 41.
  34. ^ 森下友昭 2010, p. 38.
  35. ^ 遠山啓 1980, pp. 174–175.
  36. ^ 遠山啓 1980, p. 174.
  37. ^ 遠山啓 1980, p. 175.
  38. ^ a b c 遠山啓 1980, p. 176.
  39. ^ 遠山啓 1980, pp. 172–181.
  40. ^ 遠山啓 1981, p. 129-133.
  41. ^ 新居信正 1976, pp. 82–83.
  42. ^ 遠山啓 1980, p. 196.
  43. ^ a b 遠山啓 1980, p. 197.
  44. ^ 遠山啓 1980, p. 199.
  45. ^ 新居信正 1970, pp. 143–150.
  46. ^ 遠山啓 1980, p. 41.
  47. ^ 板倉聖宣 1988, p. 379.
  48. ^ 遠山啓 1981, p. 13.
  49. ^ 遠山啓 1979, p. 277.
  50. ^ 新居信正 1970.
  51. ^ 新居信正 1970, p. 144.
  52. ^ 遠山啓 1981, p. 74-77.
  53. ^ 遠山啓 1981, p. 65-67.
  54. ^ 遠山啓 1981, p. 125.
  55. ^ 遠山啓 1981, p. 146.
  56. ^ 遠山啓 1981, p. 92.
  57. ^ 遠山啓 1981, pp. 77–83.



水道方式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 02:34 UTC 版)

数学教育協議会」の記事における「水道方式」の解説

銀林浩助力得て遠山提唱した「水道方式」と呼ばれる計算体系1959年以来学校授業実践され驚異的な成果上げたその内容は『水道方式による計算体系』(1960年昭和35年)でまとめられた。また、数教協小学校教諭岡田進は水道方式の原理に基づく漢字教育発展させ、その成果は『これなら楽しくできる漢字教え方 ― 量と水道方式の発想による ―』(太郎次郎社1979年昭和54年)にまとめられている(.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:linear-gradient(transparent,transparent),url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:linear-gradient(transparent,transparent),url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:linear-gradient(transparent,transparent),url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-subscription,.mw-parser-output .cs1-registration{color:#555}.mw-parser-output .cs1-subscription span,.mw-parser-output .cs1-registration span{border-bottom:1px dotted;cursor:help}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:linear-gradient(transparent,transparent),url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output code.cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;font-size:100%}.mw-parser-output .cs1-visible-error{font-size:100%}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#33aa33;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left,.mw-parser-output .cs1-kern-wl-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right,.mw-parser-output .cs1-kern-wl-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}NCID BN01368199)。

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