気体の標準状態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/06 17:12 UTC 版)
実在気体の標準状態は、SSPの下にある純物質の理想気体である。この状態は仮想的な状態である。例えば 298 K における H2O(gas) の標準状態は、1 bar(または 1 atm)でも凝縮しない水蒸気であって、これは完全に仮想的な状態である。それに対して、SSPの下で現実に気体として存在する物質は、理想気体とみなせる場合が多い。 25 ℃ における気体の熱力学量(p° = 1 bar)気体H° − H(p°)/kJ mol−1Cp°/J K−1mol−1Cp(p°)/J K−1mol−1水素 H2 0.00 28.8 28.8 窒素 N2 0.01 29.1 29.2 二酸化炭素 CO2 0.04 37.1 37.4 アンモニア NH3 0.10 35.6 36.8 ブタン C4H10 0.25 98.5 100.6 表から 25 ℃、1 bar におけるアンモニアの生成エンタルピー ΔfH298(p°) が 25 ℃、1 bar における標準生成エンタルピー ΔfH°298 に 0.1 kJ/mol の精度で一致することが分かる。一般に、実在気体は圧力ゼロの極限で理想気体となるので、実在気体の Cp°(T) は Cp(T, p → 0) に等しく、H°(T) は H(T, p → 0) に等しい。四酸化二窒素 N2O4 のように、低圧で分解する分子からなる気体の標準熱力学量は、分光学データと統計力学により計算される。 SSPの下で液体として存在する物質の標準蒸発エンタルピー ΔvapH°(T) は、温度 T における蒸気圧 psat(T) の下での蒸発エンタルピー ΔvapH(T, psat) にほぼ等しい。ただし、蒸気が理想気体とみなせる場合に限る。気相中で二量体を作るギ酸や酢酸などでは、ΔvapH°(T) と ΔvapH(T, psat) は大きく異なる。また、下の表から、気液平衡にあるメタノール蒸気の Cp(psat) が異常に大きいことが分かる。これはメタノール蒸気には CH3OH 分子の他に四量体 (CH3OH)4 が含まれているためである。 25 ℃ における蒸発エンタルピーと蒸気の定圧熱容量(p° = 1 bar)物質psat / barΔvapH°/kJ mol−1ΔvapH(psat)/kJ mol−1Cp°(gas)/J K−1mol−1Cp(gas; psat)/J K−1mol−1水 H2O 0.032 44.0 44.0 33.6 34.4 メタノール CH3OH 0.170 38.1 37.5 44.0 116.0 ペンタン C5H12 0.683 26.7 26.4 120.0 123.0 一般に、気体および蒸気の Cp°(T) と H°(T) は、実在気体の圧力ゼロの極限値に等しい。それに対して、気体のエントロピー S(T, p) は圧力ゼロの極限で無限大に発散する。そのため、気体の標準エントロピーは、SSPの下にある仮想的な理想気体のエントロピーとして定義される。理想気体の熱容量とエンタルピーは圧力に依存しないので、実在気体の圧力ゼロの極限値から求めた Cp°(T) と H°(T) は、SSPの下にある仮想的な理想気体のそれに等しい。 詳細は「標準モルエントロピー」を参照
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