正規列
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/24 05:31 UTC 版)
群論において発展した概念の大部分は非可換群に対しても対応できるように考えられている。群がアーベル群からどのくらい離れているのかという群の非可換度を測る概念というのがいくつか存在する。たとえば導来群あるいは交換子群は交換子 [a, b] の全体で生成される部分群であり、また、中心は任意の元と交換可能となるような元全体の成す部分群である。 群 G とその正規部分群 N ⊲ G が与えられたとき、完全列 1 → N → G → H → 1 が得られる。ここで 1 は自明な群で、H は剰余群 G/N である。これは G をふたつのより小さな構成要素へ分解 (decomposition) する手段を与えるものである。これとは逆に、与えられた二つの群 N, H に対して、上記の完全列を満たすような群 G を H の N による拡大と呼ぶ。群 H, N が与えられると多くの異なる群の拡大 G が存在することから、拡大問題(英語版)が持ち上がってくる。どんな群が与えられても、群の拡大として少なくとも一つ、自明な拡大とよばれる外部直積 G = N × H が常に存在するが、通常はもっとほかにも自明でない拡大が存在する。たとえばクラインの四元群は Z2 による Z2 の非自明な拡大である。これはホモロジー代数およびExt関手の一部を垣間見せるものである。 群が有限群であるとか、 p-群(任意の元の位数が素数 p の冪)であるとかいったような、群の多くの性質は群の拡大、部分群をとる操作、剰余群の構成で保たれる。つまり、N と H がその性質をもつならば G もそうであり、また逆も言える。したがってこの種の情報は、それが有効である限りにおいて、完全列の意味での小さな構成要素にも適用して、与えられた群をどんどん分解していくことの道筋と意味を与えてくれる。この操作を繰り返せばそれはいつかは終わり、基本的な群として非自明な正規部分群を持たない群 G という概念に到達する。このような群 G は単純群と呼ばれる。単純という名に反して、単純群は実に複雑な構造を持ちうることに気をつけるべきである。たとえばモンスター群はその位数が約 1054 もある。有限単純群については詳しく調べられていて、有限単純群の分類はすでに終了している。 帰納的に群から正規部分群を(存在すれば)取り出すことを繰り返せば、正規列(英語版) 1 = G0 ⊲ G1 ⊲ ... ⊲ Gn = G が得られる。これは各群 Gi がその次の番号の群 Gi+1 の正規部分群になっているような列である。可解群は、各組成因子 Gi+1/Gi が全てアーベル群となっているような正規列(アーベル的正規列)を持つ群のことである。組成因子 Gi+1 / Gi についてのさらなる可換性の制約を課して中心列(英語版)を考えれば冪零群の概念が導かれる。これらは群の元 gi を任意に選ぶとき [...[[g1, g2], g3], ..., gn] = 1 が成立するという意味でアーベル群を近似するものである。 与えられた群 G に対して異なる種類の正規列が存在しうる。与えられた正規列にさらに正規部分群を追加して正規列の細分を得ることができないとき、その正規列は群 G の組成列であるという。ジョルダン・ヘルダーの定理により、与えられた群の二つの組成列は必ず互いに同値となる。
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