改良型の原子爆弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 00:45 UTC 版)
D-T強化方式 詳細は「ブースト型核分裂兵器」を参照 D-T強化方式の原子爆弾(Boosted fission weapon)は爆縮方式の性能向上型であり、基本となる核分裂反応を利用した原子爆弾の中に、核分裂反応での分裂効率を高める目的で核融合反応の要素を加えたものである。 原子爆弾は核反応を起こすべき核物質が全量エネルギーを開放するように作ることは21世紀現在も行えず、他の化学反応による爆発を利用した通常爆弾と異なり、多くの核物質は核分裂反応に寄与せずに飛散してしまう。飛散する前により多くの核分裂反応をプルトニウムに行わせることが出来ればそれだけ多量のエネルギーを生み出すことができる。 D-T強化方式ではプルトニウムを使用した爆縮方式での球状のコアの中央に空洞部を作って重水素(デューテリウム、D、2H)と三重水素(トリチウム、T、3H)のガスを50%ずつ、計5グラムほど注入しておく。爆縮によってプルトニウムが圧縮されながら核分裂を始め1億度近くになった時点でこれらのガスはD-T核融合反応を起こし、プルトニウムによる核分裂時に生じるものの7倍ほど高速の中性子を1つ放ってヘリウムに変化する。D-T反応による高速中性子は通常ならばプルトニウムの核分裂反応断面積が小さくなってしまって分裂効率が悪くなるが、爆縮によって密度が増したプルトニウムの原子核では核分裂反応断面積は充分に補われて、DT反応由来の高速中性子が効果的にプルトニウム原子核を分裂させる。また、中性子の速度が増すと核分裂で生じる中性子の数は増加し、プルトニウム自身の核分裂反応由来の中性子による核分裂では中性子が2-3個ほどしか生じないのに対し、DT反応由来の高速中性子による核分裂では平均5個ほどの中性子が生じる。これによって核分裂の効率が高まり短時間で核分裂反応が進む。長崎型ファットマンでは分裂効率が14%だったとされるが、D-T強化型では30%にできるとされる。 なお、核兵器についての民間の書籍などではこのD-T強化方式の説明や構造模式図が「水爆の構造」として記述されていることがある。しかし、D-T強化方式はあくまで原子爆弾の一種であり、これ自体は水素爆弾には分類されないが、D-T強化方式の原爆は水爆の起爆装置として水爆の構造には組み込まれている。
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