指導の実行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/11 02:25 UTC 版)
指導者一人では民族指導の目的は実現できないため、その補助をする存在が必要であった。そのための存在がナチ党であり、党は民族指導を安定して実現する前提条件を創造するための存在であると定義された。その中でも特に高い地位を持つ者が、指導者に直属する最高政治指導者から末端の組織指導者に至る「位階制」をとる政治指導部であった。 政治指導部を構成する政治指導者は党の中での激しい権力闘争が行われることにより生み出される。権力闘争を勝ち抜く者は優れた能力を持つ者であり、優れた能力を持つということは優れた人種であるということになる。彼らはドイツ民族だけではなく、世界の運命を指導する新たな貴族階級となるべき存在であった。彼らは指導者との「人格的合一」を根拠に、指導者から民族指導のために必要な権限を授けられ、その権限の範囲内において「指導の実行」を行った。しかしその地位は指導者との人格的な距離の大小によるものであり、指導者の一言で排除される存在であった。 指導の実行においては法令の解釈や文言そのものではなく、「固有の責任を負う協働者」として「指導者の意思」を実行することが問題であるとされた。このため党や各指導者が背後関係を公にしたくない場合には、明確で詳細な命令を出さず、部下が忖度して行動するような指示を行うこともあった。例としては、大使館員エルンスト・フォム・ラートがユダヤ人少年に殺害された際、宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの口頭指示を受け取った党指導者がその意図をくみとり、水晶の夜と呼ばれるユダヤ人迫害活動を行ったことが、党最高裁判所の報告に残っている。党最高裁判所はこのような方式が規律を乱すことにつながりかねないとして憂慮する旨を記しているが、ヒトラー自身はこのような自由裁量の必要性を認めていた。また、その行動が指導者の意思に沿うものである限り、常に合法的であるとみなされた。
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