強化機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 15:55 UTC 版)
ベイナイト組織では結晶粒界強化と転位強化、分散強化といった強化機構が働く。 結晶粒界強化においては、ベイナイト組織の微細構造における結晶粒径を如何に定義するかが問題となる。一つの方法は結晶粒径を旧オーステナイト粒径とすることであり、間接的にベイニティックフェライトプレートの長さ及び、ベイナイトラスの集合体であるパケットの大きさと関係がある。エドモンズ(Edmonds)とコクラン(Cochrane)は強度特性と旧オーステナイト粒径の間に関係がなく、パケットの大きさとの間に、 σ L a t t e n ∝ l − 1 {\displaystyle \sigma _{Latten}\propto l^{-1}} の関係があることを発見している。 もう一つの方法は、それぞれのベイニティックフェライトプレートの幅を結晶粒径とすることであり、 σ K g = α 3 ⋅ d − 1 2 {\displaystyle \sigma _{Kg}=\alpha _{3}\cdot d^{-{\frac {1}{2}}}} のホール-ペッチの関係(Hall-Petch relationship)に対応する。これは変態温度の低下に伴って、ベイニティックフェライトプレートが細かくかつ多くなるのと同時に、強度の上昇が認められることに基づく。 変態後のベイニティックフェライトの転位密度は109から1010 cm-2に達する。この転位密度を持つために、変態温度の上昇に伴ってベイニティックフェライトの生成が少なくなり、より高温では、多くの炭化物が存在するようになる。 塑性変形においては、これらの転位のごく一部のみがすべり転位として働く。金属格子中のすべり転位の運動は、金属格子の立体構造の不動転位や溶解した不純物原子、炭化物、結晶粒界、相界面により妨げられる。転位強化の関与は定量的に、 σ v e r s = α 1 ⋅ G ⋅ b ⋅ ρ {\displaystyle \sigma _{vers}=\alpha _{1}\cdot G\cdot b\cdot {\sqrt {\rho }}} として見積もられる。ここでα1は定数、Gは剪断弾性係数、bはバーガースベクトルの大きさ、ρは全体の転位密度である。 すべり転位とそれぞれのすべり面上の侵入型原子或いは置換型原子との間には、 σ M K = α 2 ⋅ G ⋅ C M {\displaystyle \sigma _{MK}=\alpha _{2}\cdot G\cdot C^{M}} の応力分配が成り立つ。ここでα2とMは定数、Cは不純物原子の濃度である。変態温度が低下するとベイニティックフェライトに固溶した炭素が増加するため、固溶強化が大きくなる。 上部ベイナイト中の炭化物はその量に応じて強度特性に影響を与え、亀裂を発生・伝播しやすくする。ここで炭化物はベイニティックフェライトの界面にあるため、結晶粒内のすべり転位との相互作用は働かない。下部ベイナイトにおいては、フェライト中への炭化物析出は時効強化を引き起こし、 σ K = A ⋅ n e ln ( B n e ) {\displaystyle \sigma _{K}=A\cdot n_{e}\ln \left({\frac {B}{n}}_{e}\right)} の応力分配を与える。ここでneは1 mm2あたりの炭化物粒子の数、A及びBは定数である。 いくつかの相(または組織)からなる混合物の強度特性の決定には、 σ = ∑ i = 1 N V i σ i {\displaystyle \sigma =\sum _{i=1}^{N}{V_{i}\sigma _{i}}} の混合則が用いられる。ここでNは全体の相の数、iは相を表わす変数、Viは相iの体積分率、σiは相iの強度パラメーターである。この概算は上部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織に適当である。しかしながら、この式は下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織においては不適当である。残留オーステナイトがマルテンサイトに変態しない限り、残留オーステナイトを有するベイナイト混合組織の強度はこの式に従って評価できる。
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