常温における機械的性質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 16:24 UTC 版)
「ステンレス鋼」の記事における「常温における機械的性質」の解説
ステンレス鋼の機械的性質を評価するのに用いられる指標は、0.2%耐力、引張強さ、伸び、絞り、硬さ、衝撃強さなどである。これらの内の0.2%耐力、引張強さ、伸びは引張試験で測定できる代表的な材料特性で、0.2%耐力は材料の降伏点を代表する 0.2 % の塑性ひずみを起こす応力を、引張強さは材料の強さを代表する最終的な破断を起こす応力を、伸びは材料の延性を代表する破断までに材料が伸びる変形の程度を表す。常温におけるステンレス鋼の各代表的鋼種の0.2%耐力、引張強さ、伸びの例を下記に示す。 機械的性質の例大別鋼種・状態0.2%耐力(MPa)引張強さ(MPa)伸び(%)出典オーステナイト系 AISI 304固溶化熱処理 290 579 55 AISI 304圧延率 50 % 冷間加工 1000 1102 10 フェライト系 AISI 430焼なまし 345 517 25 マルテンサイト系 AISI 410焼入れ・648 °C 焼戻し 586 759 23 AISI 410焼入れ・204 °C 焼戻し 1000 1310 15 オーステナイト・フェライト系 UNS S32205固溶化熱処理 450 655 25 析出硬化系 17-4PH496 °C・4時間時効処理 1207 1310 14 ステンレス鋼の中で引張強さ 1000 MPa を超える高強度の鋼種には、マルテンサイト系、析出硬化系、加工硬化させたオーステナイト系の3つがある。マルテンサイト系では、焼入れでマルテンサイト組織となり、強く硬い組織となっている。通常は焼入れ後に焼戻しも行い、マルテンサイト系の最終的な機械的性質は焼戻し温度によって変わる。高炭素鋼種 AISI 440C の例では、2000 MPa 近い引張強さを得ることもできる。析出硬化系は、時効処理によって微細第2相を分散析出させる析出硬化機構によって高い強度・硬度を得ている。マルテンサイト系と比較すると、含有炭素量を減らせるので、耐食性や靭性をそれほど落とさずに済む。オーステナイト系は加工硬化度が大きく、さらに準安定オーステナイト系では塑性変形が加わると加工誘起マルテンサイト変態が起こるため、圧延加工を加えることで高強度・高硬度の特性が得られる。加工硬化で高強度化させた後でも十分な延性・靭性を保っているのも、加工硬化させたオーステナイト系の特徴である。 フェライト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系の3つには、熱処理による硬化性がない。フェイライト系は焼なまし状態で使用され、オーステナイト・フェライト系と加工硬化させない場合のオーステナイト系は固溶化熱処理状態で使用される。低炭素鋼と比較すると、フェライト系の降伏応力と引張り強さは少し高めである。フェライト系と比較すると、オーステナイト系は降伏応力が低めで、引張り強さが高めである。オーステナイト・フェライト系の引張強さと降伏応力は、フェイライト系とオーステナイト系よりも高めである。これは、含有元素の影響と、オーステナイト・フェライト系の結晶粒サイズが微細なため起きる粒界強化によるものである。ステンレス鋼の中では、焼きなまし状態のフェライト系のみが応力-ひずみ曲線上で明確な降伏点を示し、他の鋼種は明確な降伏点を示さない。 ステンレス鋼の延性・靭性については、オーステナイト系が特に優れている。炭素鋼やフェライト系の伸びが 20–30 % 程度であるのに対し、固溶化熱処理状態のオーステナイト系の伸びは 45–55 % という値を示す。靭性の指標である衝撃強さにおいても、オーステナイト系が優れた値を示す。
※この「常温における機械的性質」の解説は、「ステンレス鋼」の解説の一部です。
「常温における機械的性質」を含む「ステンレス鋼」の記事については、「ステンレス鋼」の概要を参照ください。
- 常温における機械的性質のページへのリンク