安全な場の確保
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/25 14:24 UTC 版)
「ナラティブセラピー」の記事における「安全な場の確保」の解説
上記のように、外傷被害者は押し寄せる日々のさまざまな刺激に圧倒されて、症状に打ちのめされている。周囲の親密な他者からのケアでさえ、敵意に満ちた攻撃と考え、自らの内なる攻撃性を強めてしまう。その攻撃性が最も向けられるのは自分自身であり、その結果リストカット、摂食障害、アルコールや薬物の乱用といった嗜癖行動、鬱病、自殺などを招く。 このように自責性(攻撃性が自分に向けられていくこと)が高まってくると、ストレスや刺激のない平穏な時間こそ、最も危険な時間へと変わる。なぜならば、自己との対面を強いられ、おのれの無力感と空虚感にさらされるからである。こういうときには上記の述べた自傷行為への欲求が高まり、自殺念慮が強まる。 こういう状態で治療につながったクライエントに施す第一の処理は、彼らの内面に立ち入ることではない。不眠、食欲不振、過食、鬱、パニック発作など現在進行形で悩んでいる症状の緩和や、自分の部屋から追い立てられている、家族の者に虐待されている、などの現実的な生活課題の処理に手を貸すことである。 補助的に向精神薬などの投与も必要な場合も多いが、こうした初期の患者に必要なのは、彼らの持っている社会的コンテクストに即して、治療を進めることができる「安全な場」へ移すことであり、また、患者本人も「ここは今までとは違う安全な場なのだ」と感じられるようにすることである。 たとえば配偶者からの暴力におびえている外傷被害者であれば、「もうここまでは絶対に配偶者は追ってこない」と補償できるシェルターへ移送することがこの過程に相当する。それは、ひとり治療者のみならず広くソーシャル・ワークの仕事となる。 この種のソーシャル・ワークの中で、公的な援助資源に関する情報を与えたり、被虐待者のためのシェルター(shelter)や代弁者や支援者(advocate)を紹介したりする必要も生じてくることがある。代弁者は、とくに被虐待者が年少であるなど、本人の被害を言語化するのに能力が及ばないときに、本人の言わんとすることを公に通用する言語(たとえば法廷で通用する陳述など)に変換する仕事を請け負う者だが、日本においては、他の先進国と比べるとその数はまだたいへん少ない。
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