太陽の高さによる緯度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 09:55 UTC 版)
ピュテアスについて語るとき、ストラボンは直接話法で「ピュテアスは……と言う」と記している。しかし、天体観測について語る部分では「ヒッパルコスによれば、ピュテアスは……と述べたとされている」というように間接話法にしている。これはストラボンがピュテアスの著作を直接読んでいないこともあるが、地球の座標(緯度と経度)を1周360度で表すという体系を考案したヒッパルコスに敬意を表しているとも言える。 ストラボンはヒッパルコスに倣って度を使っている。ストラボンもヒッパルコスもピュテアスが度を使っていたとは述べていない。ではどうやってピュテアスが緯度(に相当する値)を得ていたかというと、ストラボンによればピュテアスは三角関数の正接(タンジェント)で天体の高度(仰角)を表しており、gnōmōn と呼ばれる器具(日時計の針)を使っていた。つまり、直角三角形の底辺と垂直な辺の比率で角度を表していた。斜辺が天体を指すように調整し、そのときの底辺(gnōmōnと視点の水平距離)と垂直な辺(gnōmōnの高さ)を測定するのである。 ピュテアスはマッシリアでの太陽の高度(仰角)を夏至の正午に計測した。正接の比率は120(gnōmōnの高さ)と41と5分の4(影の長さ)だった。ヒッパルコスはこの比率がビュザンティオンで同様の計測をしたときと同じだと述べており、マッシリアとビュザンティオンは同緯度だということになる。ナンセンなどは、これを余接(コタンジェント)で209/600のように正接の反対の比率で表すことを好む。いずれにしてもこの場合の角度は45度より大きい。当時は小数がなかったが、このときの正接を小数で表すと約2.87になる。 彼らが正接の値から逆正接値、つまり角度を求めることができたとは思えない。現代なら計算機がなくとも数表があれば角度を知ることができる。ヒッパルコスはいくつかの角度についてそのような数表を作っていたと言われている。このときの角度は70度47分50秒だが、これは緯度ではない。 夏至の日の正午、太陽のつくる影の線は経度の平面(両極とマッシリアを通る大円)上にある。地軸が公道面に対して傾いていなければ、赤道上に垂直に立てた棒には影ができない。棒を赤道よりやや北に立てると南北に影が伸びるようになる。つまり、仰角が90度なら緯度は0度になり、仰角と緯度の総和が常に90度になる。しかし、実際には地軸が太陽に対して傾いているため、そのぶんを補正しなければならない。この傾きを赤道傾斜角と呼び、当時は23度44分40秒だった。したがって、マッシリアの緯度は43度13分ということになる。これはマルセイユの実際の緯度43度18分と比較すると5分しかずれていない。あるいは、ピュテアスが水平線が見えるところで太陽を観測しようとしてマッシリアの南で測定した可能性もある。
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