多宝塔と宝塔
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/25 15:27 UTC 版)
現代の寺院建築用語では初重平面が方形、上重平面が円形の二層塔を多宝塔と称するが、さらに狭義には初重が方三間(1辺に柱が4本立ち柱間が3間あるの意)のものを多宝塔と称し、方五間のものを「大塔」と称する。このような形式の塔を「多宝塔」と呼称するのは近世以降のことであり、慶長13年(1608年)の平内政信の奥書がある『匠明』がその初出とみられる。天台系には初重・上重とも平面方形の二重塔があるがこれは単に「二重塔」と呼称している。多宝塔の初重内部は須弥壇を設け、仏像を安置するのが原則で、石山寺多宝塔のように大日如来を本尊として安置する例が多い。木造のもののほか室内に安置される金属製のもの、屋外に置かれる石造のものがある。 一方、「宝塔」は歴史的用語としては「塔」の美称であり、特定の建築形式を指すものではないが、現代の寺院建築用語では、円筒形の塔身に宝形造(四角錐形)の屋根を載せた形の塔を「宝塔」と呼ぶ。この形式の「宝塔」は徳川将軍家の霊廟などにも用いられ、銅製や石造のものをしばしば見るが、木造の塔でこの形式のものは少ない。このような平面円形の「宝塔」形式の塔の塔身(円筒部)に庇(裳階)を設けたものが多宝塔の原型とされている。多宝塔では初重と二重の間に「亀腹」と称する漆喰塗り(まれに板張り)の円形部分があり、円筒形の塔身の名残りを見せている。ただし、現存する近世以前の木造多宝塔の場合、構造的には円筒形の塔身に庇(裳階)を付したものではなく、方形平面の初重の上に平面円形の上層部を乗せた二層塔である。 多宝塔の基本的な形式は、初重は方三間、上重は12本の柱を円形をなすように配置するものである。ただし根来寺大塔は特異な形式で、初重を方五間とし、初重内部には12本の身舎柱が円形をなすように配置され、その内側に四天柱が立つ。身舎柱を円形に配するということは、多宝塔の原形が、円筒形の塔身に裳階を付したものであることを示唆している。ただし、根来寺大塔の場合も、構造的には他の多宝塔と同様の二層塔である。 石造塔の場合は、宝塔形式のものが多いのに対し、石造多宝塔の遺例は少ない。
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