国家補償の谷間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/06 23:16 UTC 版)
理論的にみると国家賠償と損失補償のいずれかに割り切ることが困難な境界領域があり、これら二つの制度ではカバーできない問題(国家補償の谷間)があることが指摘されている。 公権力の行使としての公務員の行為が違法ではあるが無過失の場合国家賠償の場合には公務員の過失の存在を要件としており、他方、損失補償も従来の観念では適法行為に限定されている。個別的な立法による対応も行われているが、国家賠償法で一般的に無過失責任を認めるべきかという点もあり将来の課題となっている。 営造物の設置又は管理について瑕疵がない場合。日本の国家賠償法第2条は公の営造物の設置又は管理に瑕疵があった場合の国の無過失責任を定めているが、瑕疵のない場合にも責任を負うということにはならない。立法論としても営造物から生じる損害について無条件に全額を税金で負担することが妥当かという問題がある。保険制度を含めた災害防止や危険負担についての総合的な対策が図られるべきとされている。 強制的国家活動について法が認めているが、それによって生じた被害をそのまま放置することが正義に反する状況となる場合法の定めるところに従い強制予防接種が行われ、注意義務を怠らなかったにもかかわらず、後遺症が発生したような場合である。 日本では、小樽種痘予防接種禍事件で、最高裁が「予防接種によって右後遺障害が発生した場合には、禁忌者を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当すると認められる事由を発見することができなかったこと、被接種者が右個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定するのが相当である。」と判示している(最判平成3・4・19民集45巻4号367頁)。 なお、予防接種法第15条以下は定期の予防接種等による健康被害の救済措置について定めている。 公務災害や戦争災害のように被害者の置かれた包括的環境が危険である場合危険状態が一般的になるほど補償を一義的に定めることは困難になるという問題がある。 日本では立法として国家公務員災害補償法や警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律などが定められている。
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