固有モードの直交性と正規化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 03:37 UTC 版)
「線形多自由度系の振動」の記事における「固有モードの直交性と正規化」の解説
多自由度系の固有モードには直交性という重要な性質がある。r 次の固有モード ur と s 次の固有モード us について考える。ここで、r と s は任意だが、r ≠ s である。M と K は上記のとおり対称行列とする。このとき、 ur, us, M, K には次のような関係がある。 u r ⊤ M u s = 0 {\displaystyle {\boldsymbol {u}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {M}}{\boldsymbol {u}}_{s}=0} (3.10) u r ⊤ K u s = 0 {\displaystyle {\boldsymbol {u}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {K}}{\boldsymbol {u}}_{s}=0} (3.11) ここで、ur⊤ は ur の転置行列を表している。これらの式は ur と Mus の内積および ur と Mus の内積が零であることを示しており、M と K に関して ur と us が直交していることを意味している。これが質量行列および剛性行列を介した固有モードの直交性である。別の言い回しでは ur と us が一般直交性を有しているともいう。 固有モードの直交性の物理的な意味は、次数の異なる固有モードの振動の間で力学的エネルギーの移動が全く起きないことを表している。ある固有モードの振動において、運動エネルギーと復元力によるポテンシャルエネルギーは時間的に変化しているが、それらの和の力学的エネルギーは時間に依らず一定に保たれている。そのため、自由振動中にある固有モードの振動が他の固有モードに移り変わったり、他の固有モードが新たに誘起されたりすることはない。 一方で、r = s、すなわち同じ次数同士の固有モードの場合は、上記の式でも左辺は 0 とはならず、ある定数となる。これらの定数を Mr と Kr と表せば、 u r ⊤ M u r = M r {\displaystyle {\boldsymbol {u}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {M}}{\boldsymbol {u}}_{r}=M_{r}} (3.12) u r ⊤ K u r = K r {\displaystyle {\boldsymbol {u}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {K}}{\boldsymbol {u}}_{r}=K_{r}} (3.13) と表される。固有モード ur は成分間の比だけを持ち、定まった値を持たないので、Mr と Kr の値もこの段階では定まらない。固有モードの絶対値が決まった後に、Mr と Kr の値も定まる。 定数 Mr と Kr は正の値であり、それぞれを(r 次の)モード質量およびモード剛性という。モード行列を使って式3.12と式3.13を表せば、 U ⊤ M U = ( M 1 0 ⋯ 0 0 M 2 ⋯ 0 ⋮ ⋮ ⋱ ⋮ 0 0 ⋯ M n ) {\displaystyle {\boldsymbol {U}}^{\top }{\boldsymbol {M}}{\boldsymbol {U}}={\begin{pmatrix}M_{1}&0&\cdots &0\\0&M_{2}&\cdots &0\\\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\0&0&\cdots &M_{n}\end{pmatrix}}} (3.14) U ⊤ K U = ( K 1 0 ⋯ 0 0 K 2 ⋯ 0 ⋮ ⋮ ⋱ ⋮ 0 0 ⋯ K n ) {\displaystyle {\boldsymbol {U}}^{\top }{\boldsymbol {K}}{\boldsymbol {U}}={\begin{pmatrix}K_{1}&0&\cdots &0\\0&K_{2}&\cdots &0\\\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\0&0&\cdots &K_{n}\end{pmatrix}}} (3.15) となる。モード質量とモード剛性は、同じ次数の固有角振動数 ωr と下記のような関係がある。 ω r = K r M r {\displaystyle \omega _{r}={\sqrt {\frac {K_{r}}{M_{r}}}}} (3.16) 固有モードは比の関係を定めるベクトルであった。絶対的な大きさを持たない固有モードに大きさを定める方法として、次のような方法がある。 下記のように、式3.12の右辺 Mr の値が 1 となるように定める。ここで、ūr は、等式を満たすに大きさが決定された固有モードを意味している。 u ¯ r ⊤ M u ¯ r = 1 {\displaystyle {\boldsymbol {\overline {u}}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {M}}{\boldsymbol {\overline {u}}}_{r}=1} (3.17) 下記のように、同じ次数の固有モード同士の内積が 1 となるように定める。 u ¯ r ⊤ u ¯ r = 1 {\displaystyle {\boldsymbol {\overline {u}}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {\overline {u}}}_{r}=1} (3.18) 固有モードの成分の内、絶対値が最大のものを 1 とおいて定める。 1番目の自由度に対応する固有モード成分 (u1r) を 1 とおいて定める。 以上のように固有モードの大きさを一意に定めることを正規化と呼び、正規化された固有モード ūr を正規固有モードや正規化モードと呼ぶ。1番目の手法による正規固有モードは、特に質量正規固有モードやM-正規固有モードという名で呼ばれる。式3.17を満たすようにしておくと利点が多く、質量正規固有モードはよく使われる。正規固有モード ūr を並べて作る下記のような行列を、正規モード行列という。 U ¯ = ( u ¯ 1 , u ¯ 2 , ⋯ , u ¯ n ) = ( u ¯ 1 , 1 u ¯ 1 , 2 ⋯ u ¯ 1 , n u ¯ 1 , 2 u ¯ 2 , 2 ⋯ u ¯ 2 , n ⋮ ⋮ ⋱ ⋮ u ¯ 1 , n u ¯ n , 2 ⋯ u ¯ n , n ) {\displaystyle {\boldsymbol {\overline {U}}}=({\boldsymbol {\overline {u}}}_{1},\ {\boldsymbol {\overline {u}}}_{2},\ \cdots ,\ {\boldsymbol {\overline {u}}}_{n})={\begin{pmatrix}{\overline {u}}_{1,1}&{\overline {u}}_{1,2}&\cdots &{\overline {u}}_{1,n}\\{\overline {u}}_{1,2}&{\overline {u}}_{2,2}&\cdots &{\overline {u}}_{2,n}\\\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\{\overline {u}}_{1,n}&{\overline {u}}_{n,2}&\cdots &{\overline {u}}_{n,n}\end{pmatrix}}} (3.19) 質量正規固有モードを採用すると、式3.17に対して剛性行列は固有角振動数と u ¯ r ⊤ K u ¯ r = ω r 2 {\displaystyle {\boldsymbol {\overline {u}}}_{r}^{\top }{\boldsymbol {K}}{\boldsymbol {\overline {u}}}_{r}=\omega _{r}^{2}} (3.20) という関係を持つ。
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