合成抗菌薬の開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 21:45 UTC 版)
抗生物質の発見の前に微生物が他の微生物の増殖を抑制する現象は知られていた。例えば、1887年にはルイ・パスツールらが炭疽菌を他の好気性細菌と一緒に培養すると増殖が抑制される現象を発見している。また、1889年にはジャン・ポール・ヴュイルマン(英語版)が「ある生物が生存のために他の生物を殺す関係性」を抗生と定義している。1890年代には緑膿菌の抽出物が多くの患者に対して使用した報告がなされており、抗生物質の臨床応用に関するおそらく世界初の報告とも言われる。 近代的な抗菌薬の歴史はサルバルサンを開発したポール・エーリッヒと、ペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミングの2人と結びつけられることが多く、まずはエーリッヒらが色素に由来する合成抗菌薬を発見し、選択毒性に基づく感染症の化学療法という概念を初めてもたらした。エーリッヒらは当時重大な副作用の代償にわずかな効果しか得られない無機水銀塩によって治療されていた梅毒の治療薬を開発するため、秦佐八郎らと共に今日でいうところの化合物スクリーニングを1904年に開始した。彼らが1909年に試験した606番目の化合物は、梅毒に罹患したウサギに有効性を示し、後にヘキスト社によってサルバルサンとして販売される。エーリッヒはサルバルサンの開発で成功を収め、改良版であるネオサルバルサンは1940年代まで最も多く処方される治療薬だった。彼らのスクリーニングを用いた治療薬開発の手法は他の合成抗菌薬の開発にも応用され、色素として開発されたプロントジルが感染症治療薬としても有用であることがゲルハルト・ドーマクらによって明らかにされるなど、サルファ剤をはじめとしたさまざまな抗菌薬が発見されていった。プロントジルの抗菌性を見出したドーマクは、1939年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
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