古池や蛙飛びこむ水の音
作 者 | |
季 語 | |
季 節 | 春 |
出 典 | |
前 書 | |
評 言 | 今さら無謀でおこがましいのですが、俳句の象徴のようなこの句を独断と偏見で少しだけ覗いてみたいと思います。 芭蕉以前の俳句は、貞門派から談林派へと変遷し、芭蕉もその流れにそった変遷をした俳諧師の一人であったのです。芭蕉は掲句を詠まれた(43歳)頃から「蕉風」を確立したと言われています。 里人の渡り候ふか橋の霜 西山宗因 この句は談林派の代表の宗因の句です。能の『景清』にある問答の「いかにこのあたりに里人のわたり候ふか」の本歌取と言われています。このように「談林派」の俳句には古典を引用したり、詠む句材に約束事が多かったりして一部の有識者だけの遊び・嗜みだったのです。 「古池や」の句を例にとれば、この句は最初上五が定まっていなかったと言われています。芭蕉は、門人たちが集まる場で上五に何を置くべきか問いかけたのです。有力門人の其角が「山吹や」ではどうですかと言われたそうです。こうすると和歌的な華やかさを伴い、「蛙」に「山吹」という談林風の俳句にまとまるからだと思います。しかし、芭蕉は「古池」を配し静寂や侘びしさの世界観を提示しました。今までになかった新しい美意識を主張したのです。また、それまでの俳諧の世界では、蛙といえば「鳴き声」を詠むのが常套だったのですが、芭蕉はあえて蛙が飛び込む「水の音」に焦点を絞っているのが斬新です。談林風の俳諧に一線を画す美意識です。「山吹や」の句と「古池や」の句の違いこそがまさに「芭蕉俳句」が生まれた原点であったのかもしれません。 初出:『蛙合』 |
評 者 | |
備 考 |
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