古典的なサイクロトロン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/31 15:13 UTC 版)
サイクロトロンの基本的な構成は一様磁場中に設置された2つの半円形の電極である。電極は直線になっている側が開放された中空の構造で、開放された端が向かい合うように設置されている。電極は真空に保たれた加速函と称する平たい円形の容器に収められている。 加速を開始するためにはサイクロトロンの中心付近に荷電粒子を入射し、電極に交流電圧を印加する。電極間の電場によって加速された荷電粒子は電極の中の一様電場中で磁場から受けるローレンツ力のみを受けて円形軌道を描き、再びギャップに到達する。この時にちょうど反対の電場が電極間に生じるような磁場、電極間電圧の周波数を選んでやると粒子は再び加速され、もう一つの電極の中を先ほどより半径の大きな円形軌道を描き飛行する。軌道の拡大と粒子の飛行速度の増加が釣り合うため、次に粒子がギャップに到達するまでにかかる時間は先ほどと同じである(等時性)。したがって、一旦加速を始めた粒子はギャップに到達するごとに加速され、大きなエネルギーを比較的容易に達成することができる。粒子が電極の外周の壁に達すると偏向電極で軌道の向きを変えて、ターゲット室に導くか、窓を通して加速函の外に導かれる。 以上は理想的なサイクロトロンに関する記述であるが、実際にはいくつかの制限がある。まず粒子の散逸を防ぎ安定した加速を実現するためには、粒子を収束(フォーカシング)する必要があり、そのためには磁場を一様な状態からずらさなければならないということである。もう一つは、粒子が相対論的速度(光速に近い速度)まで加速されると、もはや上記の等時性は成り立たず、加速を継続することが出来なくなるという点である。 これらの問題点を解消するために歴史的には様々な工夫がなされてきたが、エネルギーフロンティアの開拓はシンクロトロンに道を譲ることとなった。現代のサイクロトロンはセクター型にすることにより上記の問題を部分的に解決し、大強度重イオン加速器として原子核物理学の発展に寄与している。
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