及川海相の首相一任論と東條陸相の撤兵反対論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 13:58 UTC 版)
「日米交渉」の記事における「及川海相の首相一任論と東條陸相の撤兵反対論」の解説
この時期、日本が日米戦争という破局を避けるには、海軍首脳が避戦の態度を明確にするか、陸軍首脳が中国からの撤兵を勇断するかのどちらかであったが、いずれも現実のものにはならなかった。 前者については、荻外荘会談の前日、武藤軍務局長から富田健治内閣書記官長を介して海軍側に、戦争はできないと明言してほしい、そうすれば陸軍部内の主戦論を抑えるとの要請があった。また、富田も海軍の岡軍務局長と同道して、及川海相に戦争回避、交渉継続の意志を明言するよう下交渉を行っていたが、及川は軍の立場として戦争をできる、できないは言えないとして、あくまで「首相一任」の態度を取り続けたのであった。 後者については、東條陸相の次の発言が注目できる。10月14日の閣議前、東條は近衛首相と会談し、駐兵問題について再考を求められたがこれを拒否し、閣議では持論を「興奮的態度で力説した」という。 「撤兵問題は心臓だ。…米国の主張に其儘服したら支那事変の成果を壊滅するものだ。満州国をも危くする。さらに朝鮮統治も危くなる。帝国は聖戦目的に鑑み非併合、無賠償としてをる。…駐兵により事変の成果を結果つけることは当然であって、世界に対し何等遠慮する必要はない」 「北支蒙疆に不動の態勢をとることを遠慮せば如何になりますか、満州建設は如何になりますか。将来子孫に対し積年の禍根を胎すこととなり、之を回復する為、又々戦争となるのであります。満州事変以前の小日本に還元するなら又何をか言はんやであります。撤兵を看板にすると言ふが之はいけませぬ。撤兵は退却です。帝国は駐兵を明確にする必要かあります。所要の駐兵をして其他の不要なものは時か来れば撤兵するのは当然です。撤兵を看板とすれば軍は志気を失ふ」 「駐兵は心臓てある。主張すべきは主張すべきで、譲歩に譲歩々々々々を加へ、其上に此基本をなす心臓迄譲る必要がありますか。これ迄譲りそれが外交とは何か、降伏です。益々彼をして図にのらせるので何処迄ゆくかわからぬ。…譲ることのみを以て自信ありと言われても、私は之を承け容れるることは出来ぬ」 東條の発言は、この問題を一般閣僚にも知らせる必要があるとの趣旨でなされたが、閣僚は誰も反駁しなかったという。
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