原典の明示と誤訳の指摘
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/16 06:59 UTC 版)
「ジョージ・マロリー」の記事における「原典の明示と誤訳の指摘」の解説
1999年になって、朝日新聞の天声人語が、Because it's there. の原典が1923年3月18日付けのニューヨーク・タイムズ紙であることを記事にし、その中で、「そして『なぜ、あなたはエベレストに登りたかったのか』という質問に答える。『そこにエベレストがあるからだ』」と記している。この天声人語の執筆者は栗田亘(1940-、当時、論説委員)である。 本多勝一は、2005年に、「「そこに山があるから」登るという世紀の大誤訳」の表題で、「そこに山があるから」が日本における世紀の大誤訳のひとつであろう、と記している。なお、本多勝一は原典不明かつマロリーの発話の文脈が不明の時点の1955年に、「マロリーが答えたのは、『エベレストに登る理由』であって、単に『山に登る』という一般的行為に対する回答ではない。」との論文を書いている。 山口智司は、「名言の正体」において、「歴史に残る名言が誤訳によって生まれることもある。マロリーのこの言葉は、その最たる事例と言えるだろう」、「前後関係からitはエベレストを指すのは明確だ。「そこに山があるから」なら(中略)エベレストを登る意味を尋ねた婦人の質問への回答としても、的外れだ。」としている。 なお、ホルツェルとサルケルドによる『エヴェレスト初登頂の謎』を翻訳した田中昌太郎は、"Because it’s there" を、「それがそこにあるから」と代名詞のまま訳出している。この本の翻訳・出版は1988年7月であり、その時点では、この言葉がどのような文脈で発せられたかを田中は知らなかった。 マロリーは、この記事とほぼ同じころにハーバード大学で講演しているが、そのなかで「エベレストに登る目的は?」と自問して、「山頂の一個の石を欲しがる地質学者を満足させ、人間がどの高さで生きられなくなるかを生理学者に示す以外、何の役にも立たない」と述べている。 なお、マロリーとともにエベレストを歩き、彼をよく知るハワード・サマーヴィルは1964年に、アルパイン・クラブへの告別の辞の中で、この言葉について「いつもわたしの背筋に冷たいものを走らせた。それは少しもジョージ・マロリーらしい匂いがしないのだ。」と書いた。ホルツェル(Tom Holzel )は、しかし、「もし彼自身がそれを口にしなかったとしても、この言い回しは、彼という人間とエヴェレストを征服せんとの彼の情熱的な追求を完璧に要約している。「それがそこにあるから」はマロリーの墓碑銘として永遠に残るだろう。」と書いている。
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