前頭前皮質の研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/05 20:58 UTC 版)
前頭前皮質の機能に関する影響力の大きい臨床例としてフィネアス・ゲージのものがある。彼の人格は1848年の事故により、片側、もしくは両側の前頭葉が破壊されたことによって一変してしまった。ゲージは正常な記憶、言語、運動能力を保っているが、彼の人格は大きく変化してしまったと一般的に報告されている。彼は以前には見られなかったような怒りっぽく、気分屋で、短気な性格になり、彼の友人はすっかり変わってしまった彼を"もはやゲージではない。"と述べた。彼は以前には優秀な労働者であったが、事故の後には始めた複数の作業を遂行することが不可能になってしまった。しかし、一次資料の綿密な調査によって、ゲージの心理的な変化に関する描写は多くの場合誇張されたものであることが分かっている。彼の死の数年後に記述されている彼の人格の変化の最も顕著な特徴は、彼の生前に報告されたものよりも格段にドラマティックなものになっている。 後に続く前頭前皮質の損傷患者の研究によって、ある状況における最も適切な社会的応答を患者は言語化できることが示されている。しかし、実際に行動する際には、その行動が長期的には自己に不利益になると分かっているにもかかわらず、短期的な満足感へと志向した行動を取ってしまう。 このデータの解釈から示唆されることとして、最終的な成果を比較、理解する能力だけではなく、前頭前皮質には、より報酬を得ることのできる長期的に満足のいく結果を得るために短期的な満足感を先送りにするという選択肢を制御する能力を持っている。この報酬を待つ能力は、ヒトの脳の持つ最適な実行機能を定義する重要な要素の1つである。 神経学的な障害における前頭前皮質の役割を理解するための研究は現在、数多く存在する。統合失調症や双極性障害、ADHDなどの多くの障害や病気が前頭皮質の機能障害と関係していると考えられており、この脳に対する考えから、このような病気の新しい治療法の可能性が生まれている。α2A アドレナリン受容体を介して作用するグアンファシンを含む、前頭前皮質の機能を向上させる作用を持ったいくつかの薬品の臨床試験が始まっている。
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