兄弟理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 15:45 UTC 版)
アメリカで防犯環境設計が産声を上げたころ、イギリスでは、似て非なる犯罪機会論が芽を吹いた。「状況的犯罪予防」(英: Situational Crime Prevention)である。その舞台となったのは、イギリス内務省である。 少年院から逃走した少年の性格について、その特徴を明らかにしようとする調査研究が行われたが、逃走を予測できるような精神的特徴は、発見されなかった。ところが、この研究は思わぬ副産物をもたらした。逃走率が少年院ごとに異なるのは、施設の物理的環境や管理体制に違いがあるからということが分かったのである。この研究結果は、1971年に内務省の報告書『少年院からの逃走』にまとめられた。 犯罪者の性格よりも、犯行の場所に注目した方が、犯罪発生の条件を洗い出しやすいことに気づいた研究官たちは、そのアプローチで様々な犯罪問題に取り組むようになる。その中心にいたのが、後にラトガース大学の教授となるロナルド・クラークである。クラークらの研究は、1976年に内務省の報告書『機会としての犯罪』として実を結んだ。これが「状況的犯罪予防」の発端と言われている。 状況的犯罪予防の理論的な基礎は、アメリカのノーベル賞経済学者ゲーリー・ベッカーらの「合理的選択理論」(英: Rational Choice Theory)である。そこでは、「いかなる意思決定においても、人は自らの満足度が最大になるように行動を決定する」と考える。したがって犯罪についても、犯行による利益と損失を計算し、その結果に基づいて合理的に選んだ選択肢が犯罪、ということになる。 これは、犯罪を個人の自由な選択の所産と見なした古典学派のリバイバルとも言える。こうした視点からクラークらは、犯行のコストやリスクを高めたり、犯行のメリットを少なくしたりする方策の体系化に取り組んだ。その成果が、1980年に出版された内務省の報告書『デザインによる防犯』である。 この報告書の中で、8つの状況的犯罪予防の手法が紹介された。もっとも、その後の研究の進展に伴って状況的犯罪予防は精密さを増し、2003年には25の手法にまで増えた。 こうした状況的犯罪予防は、広義の防犯環境設計には含まれるが、狭義の防犯環境設計には含まれない。なぜなら、防犯環境設計は、基本的には、マクロの理論であり、状況的犯罪予防は、ミクロの理論だからである。
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