作風と構成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 05:22 UTC 版)
「ファン・デル・パーレの聖母子」の記事における「作風と構成」の解説
この作品でヤン・ファン・エイクは、それまでの中央、北ヨーロッパで描かれていた墓碑祭壇画の伝統的な様式を完全に無視している。正確な均整美や、それまでの聖会話構成で描かれた絵画の典型的なキリスト教的描写などは放棄されており、多彩な演出と徹底的なまでの写実主義でこの作品を仕上げた。しかしながら多くの演出は、とくに旧約、新約両方の聖書を象徴する、玉座手すりに彫刻された人物像に顕著で、一見するだけでは画面左から連想されるキリスト磔刑と、画面右から連想されるキリスト復活しか見当たらない仕掛けになっている。この作品には全体的に彫刻のような立体描写が見られ、玉座、窓、アーチなどは、ロマネスク建築の様式を模して描かれている。 ヤン・ファン・エイクが1435年ごろに描いた『宰相ロランの聖母』と同じく、『ファン・デル・パーレの聖母子』でも聖なる存在と、絵画依頼主との親密な精神的交流が表現されている。美術史家ジェフリー・スミスは「聖俗を隔てる精神的な壁が絵画表現によって取り払われ」「聖母子に認められている(作品中の)依頼主は、この絵画によって永遠の存在となった」としている。さらにこの親密さは、依頼主たるファン・デル・パーレに投げかけられた聖ゲオルギウスの影や、聖ゲオルギウスがファン・デル・パーレを聖母に紹介しようとしたときに、思わずファン・デル・パーレが着ているサープリスを右足で踏んでしまった様子などの詳細表現によっても強調されている。しかしながら、このような精神的、距離的近さがみられるが、初期フランドル派の絵画の例に漏れず、ファン・デル・パーレは聖人のような理想化された外観ではなく、世俗の社会性、精神性を持つ人物として描かれている。 ヤン・ファン・エイクは、人物、織物の質感、部屋や窓など建築物の絵画表現に高い写実性を持ち込んだ画家である。しかしながら、この作品の構成、内容は依頼主を持ち上げるようなものとなっている。教会の一廓を再現したかのような室内には、通常であれば祭壇画が置かれるはずの場所に聖母マリアが描かれている。この作品で、ヤン・ファン・エイクは当時の慣例どおりに、マリアを祭壇、キリストを聖体と聖餐の象徴として描きだしている。これは初期フランドル派でよく見られる手法であり、祭壇画をミサの典礼に見立てているのである。
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