中国絵画と西洋絵画の表現方法の相違
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 09:09 UTC 版)
「中国の絵画」の記事における「中国絵画と西洋絵画の表現方法の相違」の解説
中国絵画は、空間や光の捉え方、表現方法の点で、西洋絵画とは根本的な相違がある(本節でいう「中国絵画」「西洋絵画」とは、19世紀以前の伝統的な画法によるそれらを指す)。西洋のルネサンス以降の絵画は、透視図法と明暗法に基礎があった。透視図法(線遠近法)は、画家の視点を一点に定め、画面の中の特定の一点(消失点)に向けてすべての線が収斂し、近くのものは大きく、遠くのものは小さく描く技法である。明暗法とは、画中の事物を照らす光源(たとえば窓から入る陽光)を特定し、光の当たる面は明るい色で、陰になる部分は暗い色で描く技法である。一方、中国の画家たちは、人物や自然を観察して、それを画面に表すという点では西洋の画家と同じだが、表現のしかたが異なっていた。中国絵画にも遠近表現はあり、北宋の画家・郭煕(かくき)はそれを「三遠の法」といった。「三遠」とは高遠(仰角視)、平遠(水平視)、深遠(俯瞰視)の3つをいうが、中国の山水画では、近景の岩は俯瞰視、遠景の山は仰角視で描くなど、同じ1枚の絵の中に複数の異なった視点が共存することが珍しくない。西洋絵画では、海、川、湖などの水面を描く場合、水面に映る樹木、山、船などの投影像を目に見えたとおりに描くのが普通である。しかし、中国絵画ではこうした水面への反映を描き込むことはまれである。中国絵画では影を描く習慣がなく、事物の色彩は固有色をもって表され、事物の光の当たっていない側を暗い色で描くという習慣もなかった。西洋絵画で夜景を描く場合、照明の当たっている部分以外は暗く描くのが普通だが、中国絵画の夜景は昼間の光景と同じ色(固有色)で表され、それが夜景であるということは夜を示す事物、たとえば、月、燈火、ろうそくの火などを画中に描き込むことによって表現した。中国の画家にとって、絵画とは、自然を目に見えたそのままに再現することではなく、対象の本質を描くことであった。元時代の文人画家・黄公望は「画は意を表現するものだ」と言ったが、この「意」とは、対象の本質にほかならない。画家は、水面に映る投影が実態のないものであり、本質的でないと考えれば、あえてそれを描かなかったのである。人物画については「伝神」ということが言われる。この「神」はGodの意味ではなく、人物の内面的性格、精神という意味であり、人物画は人物の外見を似せて描く(写貌)だけでなく、その内面を写す(伝神)ものでなければならないとされる。 (西洋絵画)ヤーコプ・ファン・ロイスダール(17世紀、オランダ)の風景画 樹木、舟などの水面への反映は忠実に描写されている (中国絵画)呉鎮『蘆灘釣艇図巻』 舟の水面への反映は描かれない (西洋絵画)カラヴァッジョ『聖マタイの召命』 光源は明確で、光の当たる部分は明るく、当たらない部分は黒っぽく描かれている。 (中国絵画)伝・顧閎中『韓熙載夜宴図』(部分) 夜の室内という設定だが、光源は不明。陰影や明暗の表現はなく、人物・事物は固有色で描かれる。
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