メルセデス・ベンツ_W140とは? わかりやすく解説

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メルセデス・ベンツ・W140

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/21 14:53 UTC 版)

メルセデス・ベンツ・Sクラス > メルセデス・ベンツ・W140
メルセデス・ベンツ・Sクラス
W140/V140/x140
300SE 前期型 (1991-1993)
概要
販売期間 1991 - 1998 年
ボディ
乗車定員 4 - 5 人
ボディタイプ 4ドアセダンリムジン
駆動方式 FR
パワートレイン
エンジン 直列6気筒 DOHC 2,799 cc / 3,199 cc
V型8気筒 DOHC 4,196 cc / 4,973 cc
V型12気筒 DOHC 5,987 cc/7,055cc
直列6気筒 OHC ターボディーゼル 2,996 cc / 3,449 cc
変速機 4速AT / 5速AT
前:ダブルウイッシュボーン / 後:マルチリンク
前:ダブルウイッシュボーン / 後:マルチリンク
車両寸法
ホイールベース 標準:3,040 mm / ロング:3,140 mm/プルマン:3,534 mm
全長 標準:5,120 mm / ロング:5,220 mm/プルマン:6,230 mm
全幅 1,885 mm
全高 1,490 mm/1,530mm
車両重量 2,040 - 2,240 kg(防弾車は3,590kg-3,700kg)
その他
トランク容量 525 L
最高速度 215 -250 km/h (リミッター付)200km/h(防弾車リミッター付)
系譜
先代 メルセデス・ベンツ・W126
後継 メルセデス・ベンツ・W220
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メルセデス・ベンツ・W140Mercedes-Benz W140 )は、ドイツ自動車メーカーであるメルセデス・ベンツ・グループメルセデス・ベンツブランドで展開しているSクラスの、3代目モデルである。W140はそのコードネーム。1991年から1998年まで製造・販売された。なお、そのモデル名称は販売期間中に大きく変更されており、注意が必要である(後述)。

派生モデルとしてクーペタイプ(C140)が登場している。なおロングボディ仕様には別途「V140」というコードネームがあるが、通常はそれも含め「W140」と呼ばれる。また、防弾車の「Guard」がある。

概要

W140は、メルセデス・ベンツの有名な「最善か無か」(Das Beste oder nichts. )というスローガンに象徴される、「妥協無き車造りの理念(およびその結果としての高コスト体質・製品の高価格化)のもと車造りをしていた最後のモデル」と評されている。後継のW220からは、品質とコストの狭間での苦悩が見られる。

当初は1988年に登場する予定で1980年から開発が進められていたが、1987年にBMW・7シリーズが戦後ドイツ車初のV型12気筒エンジンを搭載したことで、これに対抗すべくV型12気筒エンジンを搭載するための設計変更が行われ、最終的には1990年まで発表がずれ込んだ。

W140には通例通り、セダンに標準ボディ仕様とロングボディ仕様が設定された。そのボディサイズは先代W126から大幅に拡大され(全長で100 mm、全幅で65 mm、全高で50 - 60 mm)、なおかつデザイン自体にも強い威圧感が与えられている。その巨大さとデザインゆえ、ドイツ本国をはじめとするヨーロッパでは「環境破壊車」、アメリカでは「威圧的すぎる」などと批判を浴び、世界的には販売台数は低迷した。しかし日本では、すでに崩壊が始まっていたとはいえ世間としてはバブル景気の強い上昇志向の空気が続いていたこと、日本人、ことSクラスのユーザーとなりえる階層の人間の自己顕示欲が強い国民性、また環境問題についても先に述べたバブル景気も相俟って一般的に関心が薄かったことから、その押し出しの強さが支持され販売が好調となり、次期型のW220登場後もしばらくは人気が高かった。なお、メルセデス・ベンツはW140のボディ拡大の理由を「人間の平均身長が伸び続けているから」と述べていた。当時、国際総連もW140のS600ロングを納入しようとしたが、「環境破壊車に乗るな」という国際的批判があったため、代わりにS320ロングが採用されることになった。特別仕様車としては、「Guard」と呼ばれる防弾車や、「プルマン」と呼ばれるリムジンが存在し、後者はルーフ高が拡大されている。

39年間メルセデス・ベンツに在籍し、デザイン部門のチーフを務めていたブルーノ・サッコは『Automobile』誌のインタビューの中で、自身の手によるW140のデザインが結果として彼の理想より4 in(約10 cm)全高が高かったとし、痛恨の作だったことを明かしている[1]

グレード名称は、当初はエンジンのおおよその排気量の数字上3桁+モデル名称を示すアルファベットの文字列(Sクラスの“S”+インジェクション仕様の“E”またはディーゼルエンジンの“D”+ロングボディの“L”またはクーペの“C”)から構成される、メルセデス・ベンツの流儀に則った命名法則(300SD、500SEL、600SECなど)であった。

中期モデルからは命名法則が変更され、当時の他のメルセデス同様、モデル名称の“S”+排気量を示す数字3桁の組み合わせ(S320、S500L、S600クーペなど)に改められた。ただし、ロングボディおよびクーペには、前期のようなそれらを示す符号は後部エンブレムに表記されていない(S500もS500LもS500クーペも、エンブレムは全て『S500』で同一)。なお、日本においては420が「死に」と読めるために縁起が悪いという理由から、W124やW210と同様に400として販売されていた。

日本での販売モデル(正規輸入車)

300SE 前期型(1991–1993)
300SE 前期型(1991–1993)
S500L 中期型(1994-1996)
S320 中期型(1994–1996)
S320 後期型(1996–1998)
S320 後期型(1996–1998)
  • 1991年8月
MBJにより販売を開始。
初期のラインナップは300SE/500SE/500SEL/600SEL(いずれも左ハンドル仕様のみ)であった。導入間もなくして後席を2人掛けのセパレートタイプにした「600SEL・4シーターリミテッド」を限定販売。
  • 1992年の小変更
300SE/500SE/500SELに右ハンドル仕様が加わり、右ハンドルのみの400SELも追加された。
同時にアルミホイールが新造形の8穴タイプに変更されている。
  • 1993年5月
クーペモデルである600SECの販売を開始する。しかし、後述する1994年モデルから呼称をS600クーペへと変更しているため、正規輸入車のSECは極めて少ない。
  • 1993年8月
1994年モデルで名称を変更。
300SE→S320、400SEL→S400L、500SE/SEL→S500/S500L、600SEL→S600Lとなり、エントリーモデルのS280(右ハンドルのみ)とノーマルホイールベースのS600(左ハンドルのみ)、S600Lに右ハンドルも追加され、クーペには新たにS500クーペ(右ハンドルのみの設定)が追加された。
このときがW140において正規輸入の車種が一番多くなり、ドイツさながらのバリエーションが揃うことになる。
装備面ではS600/S600L/S600クーペにしか設定のなかったガラススライディングルーフが標準装備され、S320のウッドパネルがゼブラからウォールナットになり、質感のアップがはかられた(S280はゼブラ)。
  • 1994年8月
マイナーチェンジモデル(1995年モデル)の販売を開始。
前後バンパーおよびサイドプロテクトパネル(サッコプレート)が量感あるデザインに変更され、フロントウインカーのレンズがアンバーからホワイトに変わり、アルミホイールも半光沢タイプの物に変更された。
ラインナップも、セダン系はS320/S500/S500L/S600Lと4グレードに削減。同時にS600Lは専用の目の細かいフロントグリル(通称「S600グリル」)が与えられ、シートもクーペ系の本革製スポーツタイプが標準装備となりベロアの設定が落とされた。
このときから正規輸入車ではスライディングルーフがガラス製のみの設定となる(S320のみオプション、その他は標準装備)。
  • 1996年8月
1997年モデルが発表。
クーペが新たにCL500/CL600と名称を変え、新たに設定されたCLクラスに移行。
C140については、同一モデルであっても、販売時期により名称が2度変更される結果となっている。
同時に、ディスチャージヘッドランプを採用。
リアウインカーの色がホワイトになり、ボディ上下でトーニングとなっていたボディカラーが他のメルセデス・レンジに併せてモノトーンとなった。
アルミホイールもセダンが新造形の6穴タイプ、クーペが18インチの5穴タイプに変更されている。
機能面ではナビゲーションシステム対応のモニターが採用された他、サイドエアバッグが追加装備されている。そのため、フタの付いたアームレスト兼用のドアポケットがなくなり、小型のドアポケットが下部につけられた。
W140の特徴的な装備のひとつだったリアガイドロッド(リアフェンダーの左右後端に格納された細いポール。ATをRレンジに入れることで伸び、車両後端の目安になる)が廃止され、600系ではパークトロニックが標準装備された。
機関系における最大の変更点は、熱を起因とする故障の多かった600用M120の点火方式にダイレクトイグニッション式を採用、あわせてガスケットの素材をベークライトからポリアセタールにアルミ板の芯材を入れたものに変更するなど、主に熱対策を中心に大幅な改良を施し信頼性を向上させた。
駆動系ではそれまでの機械式4速ATから電子制御5速ATに変更、最終減速比を引き上げることによって燃費を約15%改善させ、燃料タンク容量を100リットルから90リットルに減らした。
  • 1998年
モデル末期のてこ入れとしてS320/S500/S500Lに本革シートなどを標準装備としたリミテッドモデルを投入し、600系ではセダンにブラックバーズアイ、クーペにチェストナットのウッドパネルをオプションに追加した。
同年秋W220系の販売を開始。約7年という当時のメルセデス・ベンツとしては異例の短いスパンで販売を終えた(クーペのみ1999年5月まで受注販売)。

特徴

  • 複層ドアガラス(二重構造)、オートドアクロージャー、OBDCAN プロトコル)が装備されている。
  • ワイパーは、当時のメルセデス・ベンツ各車が採用していたパノラマワイパー(伸縮する1本のワイパー。伸び縮みすることで、左右上端の拭き残しを減らす)に加え、助手席側にもう1本の補助ワイパーを追加している。これは、通常の1本ワイパーだとワイパーブレードが長くなりすぎ、ワイパー作動時の周囲への飛沫が問題となるから、というのが主な理由とされた。
  • 質実剛健だった先代W126と比べ、過剰装備を指向していた。一例として、ルームミラーの調節すら電動化されていた。

車種・シャシ・エンジンコード

S600クーペ V12エンジン
  • S280(直列6気筒 DOHC 2,799cc)
  • 300SE/300SEL/S320/S320L(直列6気筒 DOHC 3,199cc)
  • 400SE/400SEL/S420/S420L/S420クーペ/CL420(V型8気筒 DOHC 4,196cc)
  • 500SE/500SEL/500SEC/S500/S500L/S500クーペ/CL500(V型8気筒 DOHC 4,973cc)
  • 600SE/600SEL/600SEC/S600/S600L/S600クーペ/CL600(V型12気筒 DOHC 5,987cc)
  • 350SD/350SDL (直列6気筒 OHC ターボディーゼル 3,449cc)
ボディ シャシコード 生産時期 モデル エンジン エンジンタイプ 生産台数
セダン W140.135/W140.134 1996-1998年 S300 2,996cc OM606型 直6 ターボディーゼル 7,583台
1991-1996年 300SD / S350 3,449cc OM603型 直6 2万0,518台
W140.028 1993-1998年 300SE 2.8 / S280 2,799cc M104型 直6 ガソリン 2万2,784台
W140.032 1991-1993年 300SE 3,199cc M104型 直6 18万3,441台
1991-1993年 300SEL
1993-1999年 S320
W140.042 1991-1993年 400SE 4,196cc M119型 V8 4万9,468台
W140.043 1991-1993年 400SEL 4,196cc M119型 V8|
1993-1998年 S420
W140.051 1991-1993年 500SEL 4,973cc M119型 V8 8万7,006台
1993-1999年 S500
W140.057 1992-1993年 600SEL 5,987cc M120型 V12 3万5,910台
1993-1999年 S600
クーペ W140.063 1994-1998年 S420 / CL420 4,196cc M119型 V8 2,496台
W140.070 1992-1993年 500SEC 4,973cc M119型 V8 1万4,953台
1993-1999年 S500 / CL500
W140.076 1992-1993年 600SEC 5,987cc M120型 V12 8,573台
1993-1999年 S600 / CL600

その他に下記のシャシコードも存在していた。

ボディ シャシコード 生産時期 モデル エンジン エンジンタイプ 生産台数
セダン W140.033 1991-1998年 300SEL / S320 L 3,199cc M104型 直6 ガソリン
W140.050 1991-1993年 500SE 4,973cc M119型 V8
1993-1998年 S500
W140.056 1992-1993年 600SE 5,987cc M120型 V12
1993-1999年 S600

メルセデスベンツ初となるV12気筒、2020年まで唯一だった直列6気筒が特徴。

日本における価格設定の変遷

発売当初(1991年)と、呼称変更を含めた小変更後(1994年)における主なモデルの正規販売価格は次の通り。

(1991年)

  • 600SEL: 2,100万円 →
  • 500SE: 1,400万円 →
  • 300SE: 1,000万円 →

(1994年)

  • S600L: 1,620万円
  • S500: 1,180万円
  • S320: 820万円

1991年に発表された600SELの値札は2100万円であった。これは前モデル(W126)のフラグシップ560SELの最終価格が1355万円だったこともあり世間を驚かせたが、実際は値引きされ1800万円ほどで販売されていた[注釈 1]

1994年の価格改定は、実質的におよそ180-500万円もの値下げであった。いずれもバブル景気終末期までに策定された強引な価格政策の失敗によるものと同時に、バブル崩壊後の急激な円高進行の差益還元とも言えるだろう。この時期の大幅値下げの類例には、1994年のレンジローバーにおける価格改定(1000万→700万円と約300万円の値下げ)があり、クライスラー・ネオンサターンなど低価格な輸入車が相次いで発売された。

各モデルの画像

防弾仕様車

W140には、Guard(ガード)という防弾車が存在した。これはメルセデス・ベンツによる正式なモデルであり、地雷、爆撃にも耐える1ーB5レベルの防弾レベルを持つ。

この車は北朝鮮金正日国防委員長や、初代ロシア連邦大統領ボリス・エリツィンら各国元首が挙って採用した。ジョージアでも大統領専用車に採用され、エドゥアルド・シェワルナゼが使用したが、1998年に度々起きていた暗殺工作のひとつ「公用車爆破事件」により、その公用車は爆破された。しかし爆破防護レベルvr7(当時最高レベル)であり、大統領は軽傷で済んだ。また、金正日は生前(映像から予測するに1993年4月頃)父の金日成に初期型の600SEL Guardをプレゼントしており、その車は「恐竜自動車」の愛称で今も錦繍山太陽宮殿に展示されている。また、15インチの通常より分厚い小径ホイールを採用していた。タイヤはミシュラン製ガード専用ランフラットタイヤ、『ミシュランPAXタイヤ』を履いていた。

防弾車のW140 Guardであることは、通常より明らかに小さいホイールやトラックのように分厚いタイヤ、ムーンルーフがないこと、窓枠が極端なまでに厚いことをチェックすることで判別可能である。

ボディタイプには通常の長さと、約全長6.2mのプルマンリムジンの2種類が存在した。日本ではトルコ大使館が600SEL Guard、公安警察がS600 Pullman Guardをそれぞれ一台ずつ購入した。

脚注

注釈

  1. ^ なお直後に発表されたベントレー・ブルックランズのコーンズ正規輸入車が1950万円だった。

出典

関連項目


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