ミンコフスキー内積
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/05 14:25 UTC 版)
「ミンコフスキー空間」の記事における「ミンコフスキー内積」の解説
ミンコフスキー空間における非退化で対称な双線型形式は、通常のユークリッド空間における内積と見かけ上似通ったものだが、正定値性は持たず、通常の意味での内積とは限らない。この双線型形式はミンコフスキー内積、あるいはミンコフスキー計量と呼ばれる。M 上のミンコフスキー内積とは写像 η: M×M→R(つまり、任意の M 上のベクトル V, W の組に対応する実数 η(V, W) を考えることになる)であって、次の3つの条件を満たすもののことである: 双線形性: ∀a, b ∈ R, ∀U, V, W ∈ M についてη(aU+bV, W) = aη(U, W) + bη(V, W) η(W, aU+bV) = aη(W, U) + bη(W, V) 対称性: 任意の V, W ∈ M について η(V, W) = η(W, V) 非退化性: 任意の W∈M について η(V, W) = 0 ならば V = 0 この3条件から正定値性(V≠0 ならば η(V, V)>0)は従わず、これらを満たす写像は通常の意味での内積とは限らないことに注意しなければならない。つまりベクトル V のミンコフスキーノルムの二乗 V2 = η(V, V) は正の数になるとは限らないし、V が零ベクトルでなくても 0 になることがありうる。ここで正定値性はより弱い条件である非退化性に置き換えられており、この内積は不定な内積だといわれる。 ユークリッド空間と同じように、η(V, W) = 0 となっているとき二つのベクトル V, W は直交しているといわれる。しかし、ミンコフスキー空間では二つのベクトルが張る平面の上で η が常に負になるような場合をも考えることになる。この現象は通常の複素平面が持つユークリッド構造に対する変形として考えられる二次元のクリフォード代数 A = R.1 ⊕ R.v, v2 = 1 の類似と見なすことができる。 ベクトル V は V2 = ±1 を満たすとき単位ベクトルとよばれる。互いに直交する単位ベクトルからなる M の基底は正規直交基底とよばれる。シルベスターの慣性律(あるいはグラム・シュミットの正規直交化法)によって、上の3条件を満たす内積は必ず正規直交基底をもち、基底に現れる正の単位ベクトルと負の単位ベクトルの数は基底の取り方によらないことが従う。この、基底に現れるベクトルの正負の数の対は考えている内積の符号とよばれる。正負の数はミンコフスキー空間をユークリッド空間の直積集合として表したときのそれぞれのユークリッド空間の次元に対応する。正規直交基底のうち、位置に依らない単位ベクトルからなる基底は標準基底と呼ばれる。
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