マイケル・マン_(社会学者)とは? わかりやすく解説

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マイケル・マン (社会学者)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/28 14:14 UTC 版)

マイケル・マン(Michael Mann、1942年8月18日 - )は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)社会学部教授。専門は、歴史社会学。

経歴

イギリスマンチェスター生まれ。1971年オックスフォード大学社会学の博士号を取得。エセックス大学講師、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス講師を務める。

1987年、アメリカ合衆国に移住し、現職のカリフォルニア大学ロサンゼルス校の社会学部教授を務める。

IEMPモデル

マンはThe Sources of Social Power (1986-2013,4巻)において、マルクス主義マックス・ヴェーバー機能主義理論家らの「権力」では不十分であるとし、社会的な力 (Social Power)を、イデオロギー的(Ideological)な諸関係、経済的(Economic)な諸関係、軍事的(Military)な諸関係、政治的(Political)な諸関係という四つの源泉同士の相互関係から分析されるべきだとし、 IEMPモデルと呼んだ[1]

イデオロギー的な力

イデオロギー的な力は、社会的な権威の超越的なビジョンを提供し、究極的な意味を担う、共通の本質が人間に備わっていると主張することで、人間を統合する[2]。イデオロギー的な力がいつどこで重要なものとなるかは、社会的アクターが既存の優勢な力の諸組織を、自分たちが望む目標の実現を阻害しているとみたうえで、超越的な社会的協同によって達成可能になるとみるかどうかにかかっている[2]

マルクス主義の超越性は、イデオロギー的な力の世俗的な実例である(「万国の労働者よ、団結せよ!」)[2]

イデオロギー的な力の第二のタイプは、内在性において作用するもので、ピューリタニズムがその例である[2]

経済的な力

経済的な力の手段とは、実践の回路のことであり、経済的な力は、社会活動の次の二つの圏域を統合する。一つは、労働を通じて行う自然への介入で、働く人々の集団を局地的で緊密かつ濃密な協同と搾取に巻き込む。第二は、自然から取り出された品物は加工と消費によって流通し交換される。これらは拡大包括的(広範囲な領域に分散している大人数の人間を最小限度安定的な協同関係へと組織する能力[3])かつ複雑であり、経済的な力は、日常生活のルーティンと民衆による実践の両方に接近し、社会中に分岐している通信輸送回路へ接近している[4]

経済的な力はすべての安定的な権力構造にとって本質的な部分であり、これはマルクスが考えたような「歴史の原動機」ではない[4]。経済的な力は、他の力の源泉によって形成また再形成されてきたし、その拡大発展にあたっては所有と協同をめぐる規範に従ってきた[4]。そうした規範を確立したのは軍事平定およびそれがもたらす強制的協同だった。別の時代や場所においては、イデオロギー的な力がもたらす超越的な規範を通して確立してきた。このように経済的な力と社会階級を再編成するのは、軍事的あるいはイデオロギー的な力の構造であるとマンはいう[4]

軍事的な力

軍事的な力の手段は、一点集中化された強制であり、破壊の論理と戦闘を通して、社会形態を決定する[5]。軍事的な力による社会の再編成は、平時においてもなされ、社会的協同の形態が社会的地理的に集中可能な場所では強制を強めることで産出高をふやす潜在力がある[5]。アッカドのサルゴン、アッシリアとペルシア、ローマの「軍団経済」などの古代帝国に実例があるように、強制的協同が、社会支配の手段であり、個々の労働区域への集中的搾取を強めることで社会の集合的な力を増大させる手段である。この労働区域は、広範な地域にわたる軍事主導型の通信輸送の基盤構造によって結びつけられており、限定的かつ懲罰的な権力を行使することができた。このように軍事主導型の古代社会は社会的経済的発展を育んできたのであり、軍事体制は必ずしも単に破壊的ないし寄生的だったのではないとマンはいう[5]

ヨーロッパの財政記録の分析からは7世紀以上にわたって財政の70-90%が軍事力に費やされており、国家の機能は、経済的・国内的というよりも、圧倒的に軍事的で地政学的なものだった[6]

軍事力は国内の抑圧にも使われるが、その発展を決定づけたのは国際間の戦争であり、近代国家は「軍事革命」といわれるような永続的な軍隊をもつ国家として誕生した[6]常備軍は階級搾取と専制政治の道具だったが、国家成長の決定要因は国内抑圧ではなく国家間の戦争であり、国内抑圧も戦争資金を集めるために生じた[7]。東方ヨーロッパの弱小国家は集中的に課税し、動員し、抑圧手段を強化しなければならなかったが、裕福な交易国家だったイギリスは苛酷な徴収や常備軍なしに、強国の地位を維持できた。このように近代国家の成長は国内的でなく、地政学的観点から説明することができる[7]。ヨーロッパ経済の拡大は軍事征服や土地、市場の掌握との関係を深めるにつれ、諸国家は地政学的軍事的圧力への反応として発展した[8]

政治的な力

政治的な力の第一の手段は、領域的な中央集権化である[5]

また、マンは「拡大包括的な力」と「内向集中的な力」という言い方をしており、拡大包括的な力は広範囲な領域に分散している大人数の人間を最小限度安定的な協同関係へと組織する能力を指し、内向集中的な力は地域や人数とかかわりなく、堅固な組織によって所属メンバーを高いレヴェルで動員したり献身させたりする能力をいう[3]

力を高めた発明

先史から1760年までを扱った『ソーシャル・パワ』1巻で、力が発揮する能力を決定的に高めた発明として以下を列挙している[9]

  1. 動物飼養農耕青銅冶金技術先史時代
  2. 灌漑円筒印章国家前3000年
  3. 筆記体楔形文字、軍事兵站部、強制労働前2500年-前2000年
  4. 筆記された法典アルファベットスポーク付き車輪固定車軸への取付け - 前2000年-1500年
  5. 鉄の精錬、貨幣の鋳造、軍船の建造 - 前1000-600年
  6. 重装歩兵密集方陣(ファランクス)ポリス読み書き能力伝播、階級意識階級闘争前700年-300年
  7. マリウスの竿を装備した軍団(レギオン)救済宗教前200年-後200年
  8. 湿潤土壌の犂耕重装騎兵城壁600年-1200年
  9. 調整的・領域的な国家、大洋航海印刷術軍事革命商品生産 - 1200-1600年

栄典

マンはこれまでに多くの表彰を受けている[10]

著書

単著

  • Workers on the Move: the Sociology of Relocation, (Cambridge University Press, 1973).
  • Consciousness and Action among the Western Working Class, (Macmillan, 1973).
  • The Sources of Social Power vol. 1: A History of Power from the Beginning to A. D. 1760, (Cambridge University Press, 1986).
森本醇・君塚直隆訳『ソーシャル・パワー――社会的な<力>の世界歴史(1)先史からヨーロッパ文明の形成へ』(NTT出版, 2002年)
  • States, War and Capitalism: Studies in Political Sociology, (Blackwell, 1988).
  • The Sources of Social Power vol. 2: the Rise of Classes and Nation-States, 1760-1914, (Cambridge University Press, 1993).
森本醇・君塚直隆訳『ソーシャル・パワー――社会的な<力>の世界歴史(2)階層と国民国家の「長い19世紀」(上・下)』(NTT出版, 2005年)
  • Incoherent Empire, (Verso, 2003).
岡本至訳『論理なき帝国』(NTT出版, 2004年)
  • Fascists, (Cambridge University Press, 2004).
  • The Dark Side of Democracy: Explaining Ethnic Cleansing, (Cambridge University Press, 2004).
  • The Sources of Social Power vol. 3: Global empires and revolution, 1890-1945, Cambridge University Press, 2012.
  • The Sources of Social Power vol. 4: Globalizations, 1945-2011, Cambridge University Press, 2013.

共著

  • The Working Class in the Labour Market, with R. M. Blackburn, (Macmillan, 1979).

編著

  • The Macmillan Student Encyclopedia of Sociology, (Macmillan, 1983).
  • The Rise and Decline of the Nation State, (Blackwell, 1990).

共編著

  • Gender and Stratification, co-edited with Rosemary Crompton, (Polity Press, 1986).
  • Europe and the Rise of Capitalism, co-edited with Jean Baechler and John A. Hall, (Blackwell, 1987).

脚注

注釈

出典

  1. ^ マン 2002, p. 5-6.
  2. ^ a b c d マン 2002, p. 561.
  3. ^ a b マン 2002, p. 11.
  4. ^ a b c d マン 2002, p. 562.
  5. ^ a b c d マン 2002, p. 563.
  6. ^ a b マン 2002, p. 552.
  7. ^ a b マン 2002, p. 532.
  8. ^ マン 2002, p. 553.
  9. ^ マン 2002, p. 567-8.
  10. ^ https://www.sscnet.ucla.edu/soc/faculty/mann/CV.pdf , accessed 31 October 2023.
  11. ^ News: Michael Mann awarded Honorary Doctorate” (2016年5月26日). 2025年4月19日閲覧。

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