ヒメフラスコモとは? わかりやすく解説

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ヒメフラスコモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/18 08:11 UTC 版)

ヒメフラスコモ
1. 藻体: 小枝は1回だけ分枝している。
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae
(アーケプラスチダ Archaeplastida)
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
階級なし : ストレプト植物 Streptophyta
: シャジクモ植物門 Charophyta
: シャジクモ綱 Charophyceae
: シャジクモ目 Charales
: シャジクモ科 Characeae
: フラスコモ連 Nitelleae
: フラスコモ属 Nitella
: ヒメフラスコモ N. flexilis
学名
Nitella flexilis (L.)C.Agardh1824[1]
シノニム
英名
smooth stonewort[2], few-branched stonewort[1]

ヒメフラスコモ学名: Nitella flexilis)はシャジクモ目フラスコモ属に分類される藻類の1である。種としての Nitella flexilis を「ヒメフラスコモ」とする場合[3][4]と、基変種である Nitella flexilis var. flexilis を「ヒメフラスコモ」とする場合[5][6]がある。比較的大きく、皮層を欠き、小枝は基本的に1回だけ分枝する(図1)。雌雄同株。浅い水域に見られることもあるが、ふつう湖沼の比較的深い場所に生育し、シャジクモ帯の主要な構成要素となることがある。環境省レッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている (2025年現在)。

特徴

大型の種であり、ふつう軸長 20–50 cm ほどであるが、1 m に達することもある[4][7][8][6][3][9](図1)。節間細胞は直径 1 mm 以下(図2a)、長さは 5–15 cm で小枝より長い[6](図1)。主軸や小枝を覆う皮層は形成されず(図2a)、やわらかい[7][3]。節部から6–7本の小枝が輪生し、小枝は長さ 2–4 cm で細く短く、基本的に1回だけ分枝して2–4本の最終枝を伸ばしている[7][3][9](図1, 2a)。最終枝は1細胞からなり、その先端は急に細くなり鋭頭から鈍頭[3][9][10](図2b)。古い枝では、最終枝が脱落して分枝がないように見えることがある[3]

2a. 節部の拡大
2b. 最終枝の先端

雌雄同株であり、生殖器(造精器、生卵器)は小枝の節部に生じる[3](図3)。造精器は単生し、その横に側生する生卵器はしばしば群生する[4][7][3][6](図3a)。造精器は直径 450–500 μm、8個の楯細胞が集まって球状の外壁を作り、内部には造精糸が充満している[4][6](図3)。生卵器は 600–900 × 500–750 µm、管細胞は頂端に向かって膨らむ傾向があり、らせん数は8–9本、小冠細胞の高さは 40–50 μm、幅 70–80 μm[6][10](図3)。卵胞子は暗赤褐色から黒色、表面は粗い粒状または平滑であり[7][4][9]、ほぼ球状で長さ 450–550 μm、幅 400–500 μm、らせん縁は翼状で 5–7本[9][6]

3a. 生卵器(緑)と造精器(褐色)
3b. 生卵器(♀)と造精器(♂)

分布と生態

世界中に広く分布しており、南北アメリカグリーンランドヨーロッパアフリカアジアオーストラリアから報告されている[1]タイプ産地は"ヨーロッパ"、ネオタイプ産地イギリス[1]。日本では沖縄県を除く各地から報告されている[5]

湖沼、緩やかな河川、ため池、水田などに見られる[1][4][7]汽水域からの報告がわずかにある[1]。特に湖沼では、比較的深い場所で群落を形成する[1][4]。湖沼では浅瀬に水草(水生被子植物)が生育し、それよりも深い場所でシャジクモ類が大きな群落を形成することがあり、このような群落はシャジクモ帯とよばれる[7][3]。ヒメフラスコモは、カタシャジクモとともに、世界的にシャジクモ帯の主要な構成種となっている[7]。日本では、弱酸性から弱アルカリ性(pH6.8-8.8)の湖沼に生育しており、繁茂期は初夏から秋であるが、深水域では多年生[1][10][5]

保全状況評価

日本では近年の水質悪化や農業形態の変化などによって減少している[5]。世界的にも、水質悪化や生育環境の消失などによって、いくつかの地域や国で絶滅危惧種となっている[1]

環境省レッドリストでは、第4次までは絶滅危惧I類であったが、第5次では絶滅危惧II類に指定されている(2025年現在)[5]

絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト

栃木県埼玉県神奈川県福井県長野県兵庫県では絶滅危惧I類、愛媛県では絶滅危惧II類、千葉県では最重要・重要保護生物、秋田県広島県では準絶滅危惧、京都府では要注目種、青森県東京都では情報不足に指定されている[1]

人間との関わり

アクアリウムにおいて観賞用に栽培されることがあり、「ニテラ・フレクシリス」[11]または単に「ニテラ」[12][13]とよばれる。低光量でも生育可能であり、弱酸性の軟水でば旺盛な成長を示す[13]。急激な水質変化や肥料不足によってしばしば溶けるように枯死するが、環境に慣れると育成は容易で成長も速い[11][13]。水槽内のレイアウト用ではなく、もっぱら魚の産卵床などとして利用されることが多い[12]

分類

変種であるチュウゼンジフラスコモNitella flexilis var. bifurcata H.Kasaki, 1964)は、小枝がしばしば2回分枝する[6][14]

変種とされるオウフラスコモNitella flexilis var. longifolia (Migula) R.D.Wood, 1948[1])は、節間細胞が直径 1 mm ほどと太く、また小枝よりも短い点で区別される[6][9]。ただし、品種とされることや、分類学的に分けないこともある[1]

カラスフラスコモ(Nitella opaca)やタチフラスコモ (Nitella paucicostata) は小枝が1回だけ分枝する点でオトメフラスコモに類似するが、これらの種は小型で雌雄異株である点で異なる[6][9]

脚注

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Nitella flexilis (Linnaeus) C.Agardh 1824”. AlgaeBase. 2025年10月15日閲覧。
  2. ^ Botanical Society of Britain and Ireland (2007) BSBI List 2007. 2015年2月25日時点でのアーカイブ.
  3. ^ a b c d e f g h i 笠井文絵・石本美和 (2011). “ヒメフラスコモ”. しゃじくもフィールドガイド. 独立行政法人国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生物資源保存研究推進室 微生物系統保存施設. p. 8. https://mcc.nies.go.jp/Chara2006/chara_fieldguide.htm 
  4. ^ a b c d e f g 牧野富太郎 他 (1989). “ヒメフラスコも”. 改訂増補牧野新日本植物図鑑. 北隆館. p. 1199. ISBN 978-4832600102 
  5. ^ a b c d e ヒメフラスコモ”. いきものログ. 環境省. 2025年10月18日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j 廣瀬弘幸・山岸高旺 (編) (1977). “ヒメフラスコモ”. 日本淡水藻図鑑. 内田老鶴圃. p. 781. ISBN 978-4753640515 
  7. ^ a b c d e f g h レッドデータブックとちぎ ヒメフラスコモ.
  8. ^ Guiry, M.D., John, D.M., Rindi, F. & McCarthy, T.K. (eds) (2007). New Survey of Clare Island. Volume 6: The Freshwater and Terrestrial Algae. Royal Irish Academy. ISBN 978-1-904890-31-7 
  9. ^ a b c d e f g ヒメフラスコモ. 西宮の湿生・水生植物. (2020年3月20日閲覧)
  10. ^ a b c 千葉県 (2009). 千葉県の保護上重要な野生生物-千葉県レッドデータブック -植物・菌類編 (2009年改訂版). p. 396. http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb_index-p.html 
  11. ^ a b 吉野敏 (2005). 世界の水草728種図鑑 ―アクアリウム & ビオトープ. エムピージェー. p. 16 
  12. ^ a b 小林道信 (1993). アクアリウムシリーズ ザ・水草. 誠文堂新光社. ISBN 978-4416793268 
  13. ^ a b c 山田洋 (1985). “ニテラ”. 水草図鑑: アクアリウム・プランツ・フォー・アクアート. ハロウ出版社. p. 6. ISBN 978-4795230057 
  14. ^ Sakayama, H., Kai, A., Nishiyama, M., Watanabe, M. M., Kato, S., Ito, M., ... & Kawai, H. (2015). “Taxonomy, morphology, and genetic variation of Nitella flexilis var. bifurcata (Charales, Characeae) from Japan”. Phycological Research 63 (3): 159-166. 

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