デソモルヒネ
英語:Desomorphine
薬物の一種。モルヒネの数倍に上る強い鎮痛作用があるとされる。非合法ドラッグとしても用いられ、通称「クロコダイル」とも呼ばれている。
デソモルヒネは他のドラッグに比べて安く入手でき、個人が合成することも比較的容易であるため、とりわけ貧困層の多い地域で流通することが多いとされる。しかしその成分や合成過程は多分に粗悪であり、総じて人体に対する毒性が極めて強い。
クロコダイルという呼び名の由来は常習者の皮膚が甚だしく荒れ、まるでワニのように爛れて変色するためだという説がある。クロコダイルは静脈注射で投与されるが、強毒性の物質が注入されることで注射部分を中心に皮膚や血管が強い炎症を起こす。毒性が全身の細胞組織を破壊すると共に、血流を阻害することで、壊疽を生じさせる。
デソモルヒネ中毒者の多くが数年のうちに四肢切断等の深刻な健康被害あるいは死に至っているという。
デソモルヒネは特に東欧で社会問題となっている。CNNによれば、2011年時点でロシアで10万人、ウクライナで2万人がデソモルヒネを服用したという。
関連サイト:
人体を内側からむしばむ薬物「クロコダイル」 米国に流入か - CNN.co.jp 2013.10.17
デソモルヒネ
(ジヒドロデオキシモルヒネ から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/28 16:11 UTC 版)
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IUPAC命名法による物質名 | |
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臨床データ | |
法的規制 |
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識別 | |
CAS番号 |
427-00-9 ![]() |
ATCコード | none |
PubChem | CID: 5362456 |
ChemSpider | 4515044 ![]() |
UNII | 7OP86J5E33 ![]() |
KEGG | D12670 ![]() |
別名 | Desomorphine, Dihydrodesoxymorphine, Permonid |
化学的データ | |
化学式 | C17H21NO2 |
分子量 | 271.354 |
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デソモルヒネ(Desomorphine, ジヒドロデオキシモルヒネ、Dihydrodesoxymorphine, Permonid)はオピオイド系の合成麻薬であり、1932年にロシュ社が開発した鎮痛剤の一種。他のオピオイド系薬物より即効性があり、吐き気を催すことも少ない。非常に強力な鎮痛及び鎮静作用をもつ薬物であり、それはモルヒネの8倍から10倍とされる[1][2][3][4]。日本においては「麻薬及び向精神薬取締法」で定められた麻薬として指定されている[5]。スイスでは「ペルモイド」という名称で販売されていた。
また、入手が比較的容易な鎮痛剤であるコデインを材料にした粗悪な合成デソモルヒネ、通称クロコダイル(ロシア語: крокодил、クラカヂール)がロシアをはじめとする北中欧の貧困層に出回っており、強力な依存と、極めて凄惨な副作用を伴うにもかかわらず、中毒患者が年々増加して深刻な社会問題となっている。
クロコダイル
ロシアでは1998年にデソモルヒネが違法な鎮静薬に指定されている。しかし2010年頃から密造された粗悪なデソモルヒネの蔓延が問題になりはじめている。ロシアではコデインを含む鎮静薬が2012年6月まで処方箋なしで購入可能であり、使用者は100万人を超えていたと推定されている。
わずか100ルーブル程度(数百円)のコデインを含む市販のせき止め薬を材料として、素人でも自宅で簡単に合成できる製造方法がインターネット上で広まったことが蔓延の原因として挙げられている。コデイン、ヨウ素、リンから密造されることは[6]、プソイドエフェドリンからメタンフェタミンを密造する過程に似ているが、密造されたデソモルヒネはさらにガソリンを使用するなど劣悪な環境で製造されるため、毒物及び腐食性がある不純物を含んでいる。
ロシアでは密造されたデソモルヒネは「クラカジール(クロコダイル)」と呼ばれているが、これは乱用で皮膚がびらんして黒や緑に変色し、ワニの皮のような外観を示すことからその名前が付いたとも言う[7]。「クラカジール」を常習的に使用すると、注射部位の血管が破壊され、血流が停止して周囲の筋肉・細胞組織の壊死をもたらす。長期に使用すれば注射していた部位の壊疽を引き起こして骨が露出し、凄惨な症状を示すため「flesh eater drug(生身を喰いあらす薬物)」、「cannibal drug(人食い薬物)」[8]の異名を持つ。高確率で死亡にいたる致命的な結果を招き、常習者の平均余命は2-3年を下回るといい[9][10][11]、回復しても四肢の切断など、重大な後遺症をもたらす。
密造デソモルヒネの乱用は、2002年にシベリア東部で報告されたが、以来ロシアと旧ソビエト連邦地域で汚染が広がっている。2011年10月には、「クラカジール」の乱用がドイツにも広がっていることが判明し、いくつかの報道機関によると、すでに多くの死者が出ているとの主張もある。[12]

出典
- ^ Casy, Alan F.; Parfitt, Robert T. (1986). Opioid analgesics: chemistry and receptors. New York: Plenum Press. p. 32. ISBN 978-0-306-42130-3
- ^ Bognar, R; Makleit, S (1958). “Neue Methode für die Vorbereitung von dihydro-6-desoxymorphine [New method for the preparation of dihydro-6-desoxymorphine]” (German). Arzneimittel-Forschung 8 (6): 323–5. PMID 13546093.
- ^ Janssen, Paul A. J. (1962). “A Review of the Chemical Features Associated with Strong Morphine-Like Activity”. British Journal of Anaesthesia 34 (4): 260–8. doi:10.1093/bja/34.4.260. PMID 14451235.
- ^ Sargent, Lewis J.; May, Everette L. (1970). “Agonists-antagonists derived from desomorphine and metopon”. Journal of Medicinal Chemistry 13 (6): 1061–3. doi:10.1021/jm00300a009. PMID 4098039.
- ^ 日本法医学会 法医中毒学ワーキンググループ 4.規制薬物一覧
- ^ Savchuk, S. A.; Barsegyan, S. S.; Barsegyan, I. B.; Kolesov, G. M. (2011). “Chromatographic study of expert and biological samples containing desomorphine”. Journal of Analytical Chemistry 63 (4): 361–70. doi:10.1134/S1061934808040096.
- ^ Priymak, Arthur (June 23, 2011). “Desomorphine, drug for the poor, kills all of its victims”. プラウダ
- ^ “Krokodil: The sisters who are the first proof that Russian flesh-eating 'cannibal' drug Krokodil IS in the U.S.”. The Daily mail. (October 15, 2013)
- ^ Walker, Shaun (June 22, 2011). “Krokodil: The drug that eats junkies”. The Independent
- ^ Shuster, Simon. “The Curse of the Crocodile: Russia's Deadly Designer Drug”. Time June 20, 2011閲覧。.
- ^ “Дезоморфин последствия – фото” [Desomorphine consequences - photo] (Russian) (February 9, 2011). November 24, 2011閲覧。
- ^ “Deutschland kämpft gegen neue todesdroge [Germany fights new death-drug]” (German). ビルト. (October 14, 2011) 2011年11月10日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 自家製麻薬「クロコダイル」がロシアを蝕む―原料費数百円に貧困層が飛びつく(2012年1月10日) - WEDGE Infinity [リンク切れ]
- ジヒドロデオキシモルヒネのページへのリンク