コンパクト行列量子群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/22 23:15 UTC 版)
「コンパクト量子群(英語版)」も参照 S.L. Woronowicz(英語版) はコンパクト行列量子群を導入した。コンパクト行列量子群はその上の「連続関数」がC*環の元によって与えられるような抽象的構造である。コンパクト行列量子群の幾何学は非可換幾何学の特別な場合である。 コンパクトハウスドルフ位相空間上の複素数値連続関数の全体は可換C*環をなす。ゲルファントの定理(英語版)により、可換C*環はあるコンパクトハウスドルフ位相空間上の複素数値連続関数のC*環に同型であり、その位相空間はC*環によって同相の違いを除いて一意的に決定される。 コンパクト位相群 G に対し、C*環の準同型写像 Δ: C(G) → C(G) ⊗ C(G) (ただし C(G) ⊗ C(G) はC*環のテンソル積、つまり、C(G) と C(G) の代数的なテンソル積の完備化)であって、すべての f ∈ C(G) とすべての x, y ∈ G に対して Δ(f)(x, y) = f(xy)(ただしすべての f, g ∈ C(G) とすべての x, y ∈ G に対して (f ⊗ g)(x, y) = f(x)g(y))であるものが存在する。また、乗法的な線型写像 κ: C(G) → C(G) であって、すべての f ∈ C(G) とすべての x ∈ G に対して κ(f)(x) = f(x−1) となるものが存在する。これは G が有限でない限り真に C(G) をホップ代数にはしない。一方、G の有限次元表現はホップ *-代数でもある C(G) の *-部分代数を生成するのに使うことができる。具体的には、 g ↦ ( u i j ( g ) ) i , j {\displaystyle g\mapsto (u_{ij}(g))_{i,j}} が G の n 次元表現であれば、すべての i, j に対して uij ∈ C(G) であり Δ ( u i j ) = ∑ k u i k ⊗ u k j {\displaystyle \Delta (u_{ij})=\sum _{k}u_{ik}\otimes u_{kj}} である。すべての i, j に対する uij とすべての i, j に対する κ(uij) によって生成された * 代数はホップ * 代数であることが従う:余単位はすべての i, j に対して ε(uij) = δij(ただし δij はクロネッカーのデルタ)によって決定され、antipode は κ で、単位は 1 = ∑ k u 1 k κ ( u k 1 ) = ∑ k κ ( u 1 k ) u k 1 {\displaystyle 1=\sum _{k}u_{1k}\kappa (u_{k1})=\sum _{k}\kappa (u_{1k})u_{k1}} によって与えられる。 一般化として、コンパクト行列量子群は対 (C, fu) として定義される、ただし C は C* 代数で、 u = ( u i j ) i , j = 1 , … , n {\displaystyle u=(u_{ij})_{i,j=1,\dots ,n}} は C の元を成分に持つ行列であって以下を満たす。 u の要素によって生成される C の * 部分代数 C0 は C において稠密である。 余積 Δ: C → C ⊗ C(ただし C ⊗ C は C* 代数のテンソル積、つまり C と C の代数的テンソル積の完備化)と呼ばれる C* 代数準同型であってすべての i, j に対して Δ ( u i j ) = ∑ k u i k ⊗ u k j {\displaystyle \Delta (u_{ij})=\sum _{k}u_{ik}\otimes u_{kj}} を満たすものが存在する。 次のような線型反乗法的写像 κ: C0 → C0(余逆射)が存在する:すべての v ∈ C0 に対して κ(κ(v*)*) = v, および ∑ k κ ( u i k ) u k j = ∑ k u i k κ ( u k j ) = δ i j I , {\displaystyle \sum _{k}\kappa (u_{ik})u_{kj}=\sum _{k}u_{ik}\kappa (u_{kj})=\delta _{ij}I,} ただし I は C の単位元。κ は反乗法的なので、C0 のすべての元 v, w に対して κ(vw) = κ(w) κ(v) である。 連続性の結果として、C 上の余積は余結合的である。 一般に、C は双代数ではなく、C0 はホップ *-環である。 インフォーマルには、C はコンパクト行列量子群上の複素数値連続関数の *-環と見なすことができ、u はコンパクト行列量子群の有限次元表現と見なすことができる。 コンパクト行列量子群の表現はホップ * 代数の余表現によって与えられる(余ユニタリ余結合的余代数 A の余表現は成分が A の正方行列 v = ( v i j ) i , j = 1 , … , n {\displaystyle v=(v_{ij})_{i,j=1,\dots ,n}} (よって v は M(n, A) に属する)であってすべての i, j に対して Δ ( v i j ) = ∑ k = 1 n v i k ⊗ v k j {\displaystyle \Delta (v_{ij})=\sum _{k=1}^{n}v_{ik}\otimes v_{kj}} ですべての i, j に対して ε(vij) = δij となるものである)。さらに、表現 v は v の行列がユニタリであるとき(あるいは同じことだがすべての i, j に対して κ(vij) = v*ij であるとき)ユニタリと呼ばれる。 コンパクト行列量子群の例は SUμ(2) である、ただしパラメーター μ は正の実数である。なので SUμ(2) = (C(SUμ(2)), u) である、ただし C(SUμ(2)) は以下を満たす α と γ によって生成された C* 代数である: γ γ ∗ = γ ∗ γ , {\displaystyle \gamma \gamma ^{*}=\gamma ^{*}\gamma ,} α γ = μ γ α , {\displaystyle \alpha \gamma =\mu \gamma \alpha ,} α γ ∗ = μ γ ∗ α , {\displaystyle \alpha \gamma ^{*}=\mu \gamma ^{*}\alpha ,} α α ∗ + μ γ ∗ γ = α ∗ α + μ − 1 γ ∗ γ = I , {\displaystyle \alpha \alpha ^{*}+\mu \gamma ^{*}\gamma =\alpha ^{*}\alpha +\mu ^{-1}\gamma ^{*}\gamma =I,} また、 u = ( α γ − γ ∗ α ∗ ) , {\displaystyle u=\left({\begin{matrix}\alpha &\gamma \\-\gamma ^{*}&\alpha ^{*}\end{matrix}}\right),} よって余積は Δ(α) = α ⊗ α − γ ⊗ γ*, Δ(γ) = α ⊗ γ + γ ⊗ α* によって決定され、余逆は κ(α) = α*, κ(γ) = −μ−1γ, κ(γ*) = −μγ*, κ(α*) = α によって決定される。u は表現であるがユニタリ表現ではないことに注意。u はユニタリ表現 v = ( α μ γ − 1 μ γ ∗ α ∗ ) {\displaystyle v={\begin{pmatrix}\alpha &{\sqrt {\mu }}\,\gamma \\-{\frac {1}{\sqrt {\mu }}}\gamma ^{*}&\alpha ^{*}\end{pmatrix}}} と同値である。 同値であるが、SUμ(2) = (C(SUμ(2)), w) である、ただし C(SUμ(2)) は以下を満たす α と β によって生成される C* 代数である: β β ∗ = β ∗ β , {\displaystyle \beta \beta ^{*}=\beta ^{*}\beta ,} α β = μ β α , {\displaystyle \alpha \beta =\mu \beta \alpha ,} α β ∗ = μ β ∗ α , {\displaystyle \alpha \beta ^{*}=\mu \beta ^{*}\alpha ,} α α ∗ + μ 2 β ∗ β = α ∗ α + β ∗ β = I , {\displaystyle \alpha \alpha ^{*}+\mu ^{2}\beta ^{*}\beta =\alpha ^{*}\alpha +\beta ^{*}\beta =I,} また w = ( α μ β − β ∗ α ∗ ) , {\displaystyle w=\left({\begin{matrix}\alpha &\mu \beta \\-\beta ^{*}&\alpha ^{*}\end{matrix}}\right),} よって余積は Δ(α) = α ⊗ α − μβ ⊗ β*, Δ(β) = α ⊗ β + β ⊗ α* によって決定され、余逆は κ(α) = α*, κ(β) = −μ−1β, κ(β*) = −μβ*, κ(α*) = α によって決定される。w はユニタリ表現であることに注意。2つの実現は方程式 γ = μ β {\displaystyle \gamma ={\sqrt {\mu }}\,\beta } によって同一視できる。 μ = 1 のとき、SUμ(2) は具体的なコンパクト群 SU(2) 上の関数の代数 C(SU(2)) に等しい。
※この「コンパクト行列量子群」の解説は、「量子群」の解説の一部です。
「コンパクト行列量子群」を含む「量子群」の記事については、「量子群」の概要を参照ください。
- コンパクト行列量子群のページへのリンク