コッククロフト-ウォルトン回路とは? わかりやすく解説

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コッククロフトウォルトン‐かいろ〔‐クワイロ〕【コッククロフト・ウォルトン回路】


コッククロフト-ウォルトン回路

読み方コッククロフトウォルトンかいろ
別名:多段式整流回路
【英】Cockcroft-Walton circuit

コッククロフト-ウォルトン回路とは、高圧電源を得るために使用される整流回路rectifier)の一種である。

コッククロフト-ウォルトン回路は、コンデンサダイオードを多段式に組み合わせることによって、低電圧交流電源高電圧直流電源変換できる

コッククロフト-ウォルトン回路は、歴史上初め原子核破壊始めて成功した際の加速器使用されたことで知られている。これらの研究によって発明者コッククロフトJohn Douglas Cockcroft)とウォルトンErnest Thomas Sinton Walton)はノーベル物理学賞受賞している。現在では高圧電源として、テレビCRTディスプレイ使用されるブラウン管をはじめX線生成装置コピー機オシロスコープなど、様々な用途においてコッククロフト-ウォルトン回路が利用されている。


参照リンク
Cockcroft Walton Multiplier - Blaze Labs Research - (英文
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コッククロフト・ウォルトン回路

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/12 00:12 UTC 版)

コッククロフト・ウォルトン電圧増倍回路。原子爆弾の開発に利用された初期の粒子加速器の一つに備え付けられていた。1937年にアイントホーフェンフィリップス社により建造された。現在はロンドンサイエンス・ミュージアムに展示されている。

コッククロフト・ウォルトン回路 (: Cockcroft–Walton circuit) もしくは …電圧増倍回路 (: — multiplier) または …高電圧発生装置 (: — generator) とは、低圧の交流電圧もしくはパルス直流電圧を入力として、高圧直流電圧を生成する電気回路

装置名の由来となったのは、イギリス人物理学者ジョン・コッククロフトおよびアイルランド人物理学者アーネスト・ウォルトン(Cockcroft & Walton 1932a)(Cockcroft & Walton 1932b)である。2人はこの装置を電源として粒子加速器を建造し、1932年に史上初めて人工的に加速させた原子核粒子によって原子核壊変を起こしたことで知られる[1]。彼らの研究のほとんどはコッククロフト・ウォルトン回路(以下CW回路)のカスケードを用いており、その成果である「人工的に加速した原子核粒子による原子核変換」に対して1951年のノーベル物理学賞が授与された。コッククロフトとウォルトンの仕事よりも知名度は低いが、スイス人物理学者ハインリヒ・グライナッヘル英語版1919年にすでにこの回路を発明していた。そのため、この種のカスケード増倍回路はグライナッヘル結線 (: Greinacher circuit) や…増倍回路 (: — multiplier)と呼ばれることもある。

近年の高エネルギー物理研究では、よりエネルギーの大きい加速器の前段加速用に用いられている[2][3]。また、X線発生装置英語版ブラウン管テレビコピー機など、高電圧を必要とする日常的な電気機器にもCW電圧増倍回路が用いられている。

設計

2段型コッククロフト・ウォルトン電圧増倍回路。
CW回路から外部コンデンサに対して与えられた出力。

CW回路は一種の電圧増幅器で、電圧レベルが低い交流もしくはパルス入力を高圧の直流電圧に変換する。コンデンサ整流器二極真空管もしくは半導体ダイオード)からなる電圧増幅回路をはしご状に積み重ねた回路である。単純な回路部品しか用いないため、比較的低い入力電圧を大幅に昇圧できるにもかかわらず、変圧器と比べて軽量安価であり、重いコアやポッティング(封止剤)も必要ない。

この種の電圧増幅器の最大の利点は、カスケードの各段に加わる電圧が入力電圧ピーク値の2倍に過ぎないことである。個々の回路部品に加わる電圧が出力に比べて小さいため、比較的低コストの部品を用いることができ、絶縁も容易である。また、それぞれの段から出力を取ることでマルチタップトランスのように使うこともできる。

動作原理

右図に示す2段のCW回路を用いて回路の動作を解説する[4]。電源の交流電圧を Vi 、そのピーク値を Vp とする。出力に負荷をつながず、どのコンデンサも充電されていない状態で入力電圧のスイッチを入れると、以下のようなプロセスが起きる。

  • 入力電圧 Vi が負の値を取るとき、コンデンサC1が負電位になるためダイオードD1を通して電流が流れる。その結果C1は最大で電圧 Vp にまで充電される。
  • Vi の向きが反転して正の値を取ると、C1の右側極板には電源とC1の電圧が加算されただけの電位が生じる。この状態では逆バイアスとなるD1には電流が流れず、順バイアスとなるD2を通ってC2に向けて電流が流れる。C2はある電圧にまで充電される。
  • 再度 Vi が反転すると、C2からD3を通って電流が流れ、C3を充電する。
  • さらに Vi が反転すると、C3からD4を通って電流が流れ、C4を充電する。
  • これ以後、入力が反転するごとに、偶数番もしくは奇数番のダイオードがいっせいに順バイアスとなって電流が流れ、コンデンサ列は順々に充電されていく。

やがてすべてのコンデンサが最大まで充電され、電流は流れなくなる。このときコンデンサC1の電圧は前述のとおりVp である。コンデンサC2はサイクルの途中で電源およびC1に対して並列となるので、C2が持つ電圧は、電源のピーク値およびC1の電圧値の和 2Vp に等しい。さらに、C3はC2と、C4はC3と並列になるため、それぞれ 2Vp の電圧を持つ。出力から接地点までの間にはC2とC4が直列に接続されていることから、無負荷条件での出力電圧は Vo = 4Vp となる。

理論上はCW回路の段数はいくらでも増やすことができる。出力電圧 Vo はピーク入力電圧 Vp の2倍に段数 N をかけたもので与えられる。あるいは、入力電圧のピークピーク値 Vp-p に段数をかけたものとも言える。

3段の全波整流型CW増幅器。

CW回路にはいくつか実際上の欠点もある。出力から負荷電流を取っている場合には、サイクルごとに電荷がコンデンサに流出入するためリップル電圧と電圧降下が生じる。変動の程度は、1サイクル当たりに流れる電荷量やコンデンサの充電量に依存し、段数が増えるとともに急激に強まる[4]。負荷電流がなかったとしても、回路内の浮遊容量を流れる電流によってコンデンサの電圧は脈動する。そのため特にカスケードの高段で電圧の降下が起きる[4]。以上のような事情により、CW増幅器の段数を増やせるのは出力電流が比較的小さくて済む場合に限られる。これらの効果を軽減するには、カスケード低段のキャパシタンスを増加させたり、入力周波数を増加させたり、方形波もしくは三角波の入力電源を使用する方法がある。インバータを用いたり、インバータと高圧トランスを組み合わせるなどして電源を高周波にすると、CW装置全体のサイズと重量を大きく低減することができる。

電圧脈動を低減するために考案された全波整流型対称型とも)CW回路を右図に示す[4]。これに対し従来のCW回路は半波整流型と呼べる。全波整流型の装置では左右の2本のコラムに対して逆位相の交流電圧が与えられる。そのため実質的にサイクルの周波数は2倍になる。また回路が完全に対称であれば、負荷電圧を取り出す場合でも、ポンプ電流は左右のコラムの間でやり取りされるのみで、中央コラムのコンデンサは充放電を行わない。これらの機構により、前節で述べたリップルや電圧降下が抑えられている[4]

以下の表はCW回路の出力に生じる電圧変動である。ここで I は負荷電流、f は周波数、C は各段のコンデンサのキャパシタンス(すべて等しいとする)を表す。

CW回路の電圧変動[2]
半波整流型 全波整流型
電圧降下
1.2 MVの6段コッククロフト・ウォルトン加速器。1948年、オックスフォード大学クラレンドン研究所。
3 MVのコッククロフト・ウォルトン加速器。1937年、ベルリンのカイザー・ヴィルヘルム物理学研究所。当時は世界最強と言われていた。2組の4段CW回路はそれぞれが逆の極性の電圧を発生させていた。
左図の装置の操作パネル。
半導体ダイオードを用いた3段カスケード増幅器(緑)。ブラウン管テレビの陽極に取り付けられていたもの。

脚注

参考文献

関連項目

  • スイッチトキャパシタ - 昇圧ではなく電流・電圧の制限のためにコンデンサとスイッチを用いる。
  • チャージポンプ - 当該回路はスイッチングにダイオードを用いたチャージポンプの一種と言える。
  • マルクス発生器英語版 - 同様のはしご型構造を持つパルス発生回路。抵抗器、コンデンサ、スパークギャップから構成される。

外部リンク




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