クエーサーとガン・ピーターソンの谷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/14 14:59 UTC 版)
「宇宙の再電離」の記事における「クエーサーとガン・ピーターソンの谷」の解説
宇宙の再電離を調べる手段の一つは、遠方のクエーサーのスペクトルを用いるものである。クエーサーは並外れた量のエネルギーを放出しており、宇宙で最も明るい天体のひとつである。そのため、いくつかのクエーサーは再電離の時期ほどの過去のものであっても検出可能である。またクエーサーは空での位置や地球からの距離に関係なく比較的一様なスペクトルの特徴を持つ。そのため、それぞれのクエーサーのスペクトルの間に見られる大きな違いは、クエーサーからの放射がその視線方向にある原子と相互作用を起こした結果であると解釈することができる。水素のライマン系列のひとつにあるエネルギーを持つ波長は散乱断面積が大きいため、銀河間物質中にある中性水素の割合が極めて少ない場合であってもその波長での吸収は大いに発生しうる。 近傍にある天体の場合、原子の遷移に十分なエネルギーを持った光子のみが遷移を引き起こすことができるため、スペクトル中の吸収線は非常に鋭くなる。しかしクエーサーとそれを検出する望遠鏡の間の距離は非常に大きいため、光は宇宙の膨張にともなう顕著な赤方偏移を起こす。このことは、クエーサーからの光が銀河間物質中を通過して、また赤方偏移を受けることにより、ライマンα線限界未満であった波長が引き伸ばされて実質的にライマン吸収帯を埋め始めることを意味する。そのため、大きく広がった中性水素の領域を通過してきたクエーサーからのスペクトルは、鋭い吸収線が発生するかわりにガン・ピーターソンの谷(英語版)と呼ばれるスペクトル上の特徴を示すようになる。 ある特定のクエーサーの赤方偏移からは、宇宙の再電離の時期に関する情報を得ることができる。ある天体が示す赤方偏移はその天体が光を放射した瞬間に対応しているため、いつ再電離が終わったのかを決定することが可能となる。ある赤方偏移未満の (時間・空間的に近い) クエーサーのスペクトルにはガン・ピーターソンの谷が見られない (ライマンαの森が見られる可能性はある)。一方で再電離よりも前に光を放出しているクエーサーはガン・ピーターソンの谷を示す。2001年にスローン・デジタル・スカイサーベイによって、赤方偏移が z = 5.82 から z = 6.28 の範囲にある4つのクエーサーが検出された。これらのうち z = 6 以上のクエーサーはガン・ピーターソンの谷を示し、この時点では銀河間物質が少なくとも部分的には中性であったことが示唆された。一方でこれを下回る赤方偏移のクエーサーのスペクトルはガン・ピーターソンの谷を持たず、水素は電離されていたことを意味する。再電離は比較的短い時間スケールで発生すると考えられているため、この観測結果は宇宙は z = 6 で再電離期の終わりに近づいていたことを示唆する。またこのことは、z > 10 では宇宙は依然としてほぼ完全に中性であったことを意味している。
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