オスによる卵塊保護
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/18 19:58 UTC 版)
卵は長径4.4 mm・短径2.3 mmの大きさで、産卵直後は淡い緑がかった白色だが、次第に白黒の縞模様が出てくる。卵は成長に伴って重くなるほか、孵化が近づくと産卵直後に比べて長さも約1.5倍程度に膨張し、孵化直前には長さ7.5 mm・直径3.5 mm程度まで大きくなる。 タガメは卵の生育のために父親(オスの親成虫)による世話が必要不可欠となる。タガメに限らずコオイムシ科昆虫の卵は十分な酸素・水がないと生育できず、コオイムシ類の場合はオス成虫の背中に産み付けられた卵を水中の酸素濃度が高い場所へ持っていくことで水中の溶存酸素を取り込んで生育できるが、よりサイズが大きいタガメの卵は水中で必要な量の酸素を得ることができない。そのためタガメはコオイムシ類と異なり卵を空気中に産むこととなったが、水生昆虫として進化したタガメの卵は他の空気中に産卵する昆虫の卵と異なり、卵の表面に乾燥を防ぐワックス層が失われている。そのためタガメの卵は仮にオスが世話し続けないと乾燥死してしまうほか、水中でも溺死してしまう。乾燥状態で孵化率が低下するのは「孵化までの給水量が不足して成長できない卵が増えるため」「孵化時に乾燥して硬くなった卵塊から幼虫が脱出しきれないため」が主な理由である。 またメスが後述のように卵塊を破壊しにくる場合があるほか、卵塊はアリなどの捕食者に襲撃されやすいため、オスは卵が孵化するまで「卵への定期的な給水」「卵の生存を脅かす脅威(メス・捕食者)からの保護」を目的に卵を保護し続ける。 メスは産卵後にその場から飛び去るが、オスはそのまま卵のそばに留まり、外敵から卵を守るほか、空気中にある卵が乾燥しないよう孵化するまで卵に水を与えながら育てる。オスが単独で子育てをする昆虫は少なく、コオイムシなど体の一部に卵を付着させる種類を除くと10種類未満である。 オスの親成虫は卵塊が直射日光を浴びない日陰(植物の茂みなど)にある場合は水中に留まっている場合が多いが、卵塊に直射日光が当たる場合は炎天下でも数時間以上卵塊に覆いかぶさることで卵の乾燥を防ぐ。日が暮れるとオスは水中から上がり、卵を通り過ぎたところで向きを変えて卵塊に覆いかぶさり、体表に付着した水を卵につけるほか、自身が飲み込んできた水を吐き出して卵に水分を与える、この時、オス親は時々覆いかぶさる場所を変えて異なる卵に吐き出した水を与えしばらく覆いかぶさってから水中に戻り、一晩に4,5回 - 十数回にわたり卵への給水行動を繰り返す。 しかし孵化前に中干しなどで水田の水がなくなるとオスは卵の保護を放棄してしまい、放置された卵は乾燥死する。飼育下でも産卵後に卵塊をオス親から離して放置すると卵は乾燥死してしまうが、親から引き離してもスポイトなどを用いて1日に4,5回水をかけ続ければ無事に孵化させることができる。 産卵後のメスは再び盛んに餌を食べ、産卵から約10日前後で再び産卵が可能になる一方、オスは卵が孵化するまで次の繁殖行動を行わない。
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