ウィグナーエネルギー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 06:30 UTC 版)
「ウィンズケール原子炉火災事故」の記事における「ウィグナーエネルギー」の解説
原子炉が建設された頃の英国は、アメリカやソ連とは異なり、黒鉛が中性子にさらされた場合にどのように振る舞うかについてほとんど知見を有していなかった。ハンガリー系アメリカ人の物理学者ユージン・ウィグナーは、黒鉛は中性子照射を受けると結晶構造が変化し、ポテンシャルエネルギーを蓄積することを発見した。このエネルギーは、蓄積が進むと強力な熱として急激に放出されることがある。操業認可が下りて運用が始まると、ウィンズケール原子炉2号基に不可解な炉心温度上昇が生じた。これはウィグナーエネルギーの急激な放出に起因するものだった。英国の科学者達がこの現象における危険性を懸念し、蓄積されたウィグナーエネルギーを安全に解放するための手段が求められていた。唯一の有効な解決策は焼きなまし工程の追加で、黒鉛の炉心は核燃料で250°Cに加熱され、炭素原子が結晶構造の所定の位置に戻って、蓄えられたエネルギーを徐々に熱として解放し、そして炉心全体に均一に広がることになった。焼きなましによりウィグナーエネルギーの蓄積を防ぐことには成功したが、監視装置も原子炉そのものも冷却システムなども含めたすべての周辺装置も、焼きなまし工程のためには設計されていなかった。 事故の時には、広く考えられていたように黒鉛減速材にではなく、ウラン燃料に火がついた。 2005年の調査により、黒鉛の損傷は燃えた燃料棒の周囲に留まっていたことが示された。この原子炉の金属ウラン燃料は、現代の原子炉で使用される二酸化ウランとは異なり、酸素の存在下で簡単に燃える性質があった。冷却空気を直接、大気中に排気することは、炉心から放出された放射性物質がフィルターを通過すれば環境中に放出されることを意味した。
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