日本の医療 医療制度改革

日本の医療

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/04 08:01 UTC 版)

医療制度改革

背景

日本の人口統計。2009年現在(1872-2009)と将来予測(2010-)
日本の社会的支出(兆円)。緑は医療、赤は年金、紫はその他[48]

先進国においては、医学や医療技術の向上により平均寿命が上昇し、出生率は低下し、人口に占める高齢者の割合が増大し、国民医療費は年々増加している[12]。国民医療費の増大率は国内総生産国民所得の増大率を上回るようになった[12]。国家の経済や財政において、市民の生存権や医療を受ける権利を維持しながら、それに必要な費用をどのように負担していくかが重大な問題になっている。そのような問題を解決するために、医療費の伸びの抑制、医療の効率化、医療保険制度の財政的強化を含めた医療制度改革が必要と考えられているが、有効な解決策を見いだせない状況である。

2000年-2012年における医療費増減 [4]
要因別 種目別
高齢化の影響 6.2兆円 入院 3.3兆円
一人あたりコスト 5.4兆円 外来 1.7兆円
医療費改定 ▲2.5兆円 薬剤 3.9兆円
歯科 0.2兆円
総計 9.1兆円の増加

2009年のOECD対日審査報告では、医療制度改革に一節が割かされている[49]。日本はGDP増加を上回るペースで医療費が増加しており、老人医療費の上昇に対して若者世代の負担を抑えながら対応することが鍵であるとしている[12]。2012年では、医療支出34.6兆円(GDP比7.3%)、介護支出8.4兆円(1.8%)であるが、2025年には、医療支出54兆円(8.9%)、介護支出19兆円(3.2%)となると推定されている[50]

G20各国のGDPに占める保健支出割合の推移

医療財政の建て直しの手段

患者自己負担額の増加

患者の自己負担分が増加した分、公的医療保険制度からの支出が減らせる。また自己負担分が大きければ、受診抑制による医療費の減少、自己の治療に関心を更に持つことができ、故意による濃厚診療などのモラルハザードを防止することができる[25][49]。さらに、受益者負担という視点からはより公平になるといえる。また、国民の健康維持と疾病予防への関心が高まることが期待できる[25]

1969年に秋田県と東京都が高齢者医療費を無料化すると、各地の地方自治体も真似し、1972年時点で2県以外の全国で行われた。東京都の美濃部都政など革新自治体が急増し、これら高齢者医療費無料化を推進した。革新自治体の急増に対する自民党の危機感は強く、1971年時点の「老人の生活と健康を守るために国の施策として一番力をいれてもらいたい」ことを問うた世論調査でも、高齢者医療費無料化(44%)が1位であった。これらを受けて、日本政府は国の施策として、1973年に施行させた。高齢者医療費の無料化で医療費は爆増し、70歳以上の受療率も、1970 年-1975年の5年間で1.8倍となった。これらは高齢者の多い国民健康保険の財政を窮迫した。以後は財政救済のために、何度も自己負担額を増やす制度改正が行われている[51]。受益者負担の問題点としては自己負担分が大きすぎると、医療を必要とする患者が十分な医療を受けられない可能性がある[25]。特に、低所得者への影響がより大きくその対策が必要であるが、ただし日本には#医療費負担の補助制度があり必要な医療は受けられる。

2003年4月には小泉内閣医療改革において現役世代(69歳以下)の自己負担率が21年ぶりに引き上げられ、2割から3割へ引上げられている。70歳以上の高所得者(夫婦世帯で年収約621万円以上)についても2割から現役世代と同じ3割へ上げられた。OECDは負担割合が既に3割に達しているため、3割以上の増額は低所得者への影響が大きいと勧告している[52]

また70-74歳の自己負担率を1割としている特例措置について、2013年の社会保障国民会議では、世代間の公平を図るために廃止すべきと勧告している[53]後期高齢者医療制度(75歳-)では一定以上所得のある高齢者は軽減がなされず、自己負担は3割となる。2015年のOECD勧告においても、75歳以上人口の半数には負担能力があり、かつ日本の自己負担割合はOECD平均以下であるため、70-74歳の負担割合を2割とするよう勧告し、政府の方針を支持している[46]

2022年10月から75歳以上も年収200万円以上は2割に上がった。

保険料や税の増額

OECD各国税収のタイプ別GDP比(%)。
水色は国家間、青は連邦・中央政府、紫は州、橙は地方、緑は社会保障基金[54]
日本の社会保障拠出負担の推移。
青はGDPに占める比率(%)、橙は総税収に占める比率(%)[55]

社会保険料を値上げすると、公的健保の収入が増える。しかも医療技術の発達などによる医療費の増大にも対応できるため、医療の質を保つという点では大変好ましい。間接的に医療収入が増えて医療機関が潤い、雇用促進につながる。しかし、経済全体が冷え込んでいる不況時に保険料を上げれば他の消費がますます冷え込む可能性がある。現在日本は、先進国の中で対GDP比で医療費は少ない方であるが、国民の間接負担を増やすのは、国民の理解が得がたく政治的に困難である。

また保険料納付率が低下しており、増額したとしても滞納額が増えるだけに終わる可能性もある(2009年の国保未納率は約12%まで上昇[39][38])。診療ごとに支払う自己負担額に対して年間保険料負担が大きいと、保険料を未納のまま放置して症状が出るたびに自由診療を受けた方が結果的に安く付くケースも存在し、そのため自営業者などの多い国保で保険料納付率が著しく下がっている[52]。またサラリーマン層や低所得層を中心に、救命不可能な状態に病状が悪化するまで診察を受けないケースも散見されるようになった[52]。OECDは医療費財政を社会保険に頼ることは、労働コストを上昇させ労働市場に悪影響を及ぼすとしている[56](現在は賃金の8%が保険料であるが、増税なき場合には2035年度の保険料は24%まで上昇するとの試算[56])。

そのため増税によって原資確保し、政府一般会計から公的社会保険に国庫負担金を繰り入れることも考えられている。OECDは2009年に、高齢化を見据えた財源確保および労働コスト上昇回避のため、医療費財源を一般会計へ移行し、その増税は消費税などの間接税がベストな選択だと勧告している[56]。2013年の社会保障国民会議においては、医療・介護の充実のために2015年度には消費税率換算で+1%強、2025年度には+3%弱ほどの財源が必要との最終報告がなされた[57](社会保障と税の一体改革)。2014年4月には消費税が8%に、2019年10月には10%に引上げられている。

診療報酬点数の減額

診療報酬中央社会保険医療協議会の答申により決定されている。減額は受診時の自己負担が減るため医療従事者以外の国民理解を得やすい。医療機関の経営効率化に対する意欲を刺激できる。

しかしOECDは診療報酬公示価格制によって医療費総額を管理することに否定的見解を示しており[24]、医療機関が経営困難となり、医療の質が犠牲になる可能性がある[24]。総合病院における不採算専門科の閉鎖や、病院、診療所の赤字の拡大、病院勤務の待遇悪化による勤務医から開業医への人材流出[24]、製薬業など医療関連産業が衰退する可能性がある。

混合診療を認める

自由診療において、患者の経済力に応じた選択権が与えられる。診療報酬点数を大きく減額しなくてもよく、保険料自体も大きく増税しなくてもよい。また利用者負担が大きくなり高度な医療を適正価格で受けるため公平さも増す。医療機関は自由診療部分で最新医療を提供しようとし競争が活性化する[58]。しかし、医療保険制度の基本である「平等の理念」に抵触する恐れがある。保険対象外となる治療において、患者の経済力の格差が受けられる医療の質に影響する[58]

2004年の規制改革・民間開放推進会議でも混合診療の解禁が議題となったが、この改革案には厚生労働省と日本医師会が主に平等位の面から強く反発し[58]、最終的に混合診療は全面解禁せず、代わりに特定療養費(現在の保険外併用療養費)の範囲を拡大することで政治上の合意がなされた[58][59]

2009年のOECD勧告では、この規制は日本独自のもので英国での同様規制は撤廃されたことを挙げ、混合診療を認める範囲を拡大すべきと勧告している[58]。また、医療製品の認可ラグ(ドラッグ・ラグ)の長さについては、かつて平均して1,417日間(2004年)である状況を他国並みに改善すべきと勧告されていたが[58]、2015年の報告ではスピードアップが図られたとされている[3]

ジェネリック医薬品の推進

左:OECD各国の人口あたり医薬品消費額[1]
右:OECD諸国の医薬品市場における後発医薬品シェア。青は金額比、赤は数量比[60]

人口一人あたりの医薬品購買額について、日本は世界3位であり、OECD平均よりも56%も多い(2012年)[61]。一方でジェネリック医薬品のシェアは28%に過ぎず、OECD平均の44%よりも低い(2013年、量的ベース)[61][注釈 3]。また大多数の患者はジェネリック処方を希望するが、医師の9%しか同意せず、それは医師収入への影響と薬剤品質への懸念が理由であるとOECDは報告している[62]

2009年にOECDは、米国並みにジェネリック医薬品を普及させることで総医療費を7%(GDPで0.5%相当)削減できるとし、2012年までにシェアを最低でも30%とするよう勧告した[62]。厚労省と保険者はジェネリック推進の取り組みを開始しており、2011年には数量比で23%までに普及させた[60]。厚労省の2013年目標では2018年までに普及率60%を目指すとしている[63]。また生活保護における医療扶助について、ジェネリック処方を基本とするよう検討を行っている[64]

2015年にもOECDは、米国並みにシェア84%、かつ価格10%ダウンを達成することができれば、日本は医薬品費用を半減させることができると試算している[61]。政府は2017年までにシェア34%を目指すことで医療費を0.4兆円削減できるとしている[61]

診療報酬に包括払い制度の導入

診療報酬を包括払いにすれば、医療機関が医療を経済的に効率よく行い、公的医療保険からの無駄な支出が減らせる[65]。しかし過診過療を削減した方が収益上有利であるために、十分な医療を行わない可能性もある。OECDは出来高払い制度を廃止することで、一人あたりの医師受診回数がOECD平均の2倍となっている状況を削減できると勧告している[66]。民主党マニュフェストでは包括払いの制定が公約されたが、実現には至らなかった[67]

2003年より特定機能病院における急性期入院医療を対象としてDPC制度が導入されており[65]、平成24年時点では全一般病床の約53.1%を占めている[68]。しかしこれは、DPC払いと出来高払いを組み合わせた一般的でない制度だとOECDは指摘し[65]、また医療機関は「計画的な患者再入院」「アップコーディング不正請求」「入院前の外来検査」などの手法でDPC制度を弄んでいるとOECDは指摘している[65]。OECDはDPC制度が適切に運用されるよう、DPC適用の再入院は減額算定すべき、また外来検査をDPC算定に含めるよう勧告している[65]

国民医療費の総額管理制度の導入

台湾の医療などで導入されている。医療費の年間支出総額を制限することによって、公的医療保険制度からの支出を直接管理でき、財政建て直し効果が大きい[69]。国民所得に連動させれば、所得に応じた医療費を設定することができる。問題点は経済的な要因が優先され、国民の医療需要の変化に十分応じられない可能性がある。また国民所得に連動させると経済が縮小に転じた場合、十分な医療を提供できない可能性がある。

健康づくり

2008年より公的保険にて特定健診・特定保健指導が導入され、生活習慣病の予防が進められている[70]。しかし市町村国保において検診受診率は2008年度で28.3%と低く、さらなる改善が求められている[25]

またOECDはたばこの重税化と低喫煙率には関係性があり[71]たばこ税増税により禁煙を推進すべきと勧告している[71][注釈 4]。また健康増進法では受動喫煙防止措置を求めている(第25条)。

医療供給側の課題

医療供給体制(医療計画)にも問題があり、この問題は医療財政の問題と深く関わっている。

総合診療医の整備

患者は診療所よりも大病院を好み、また診療所の医師を信用していないため、大病院の専門医を頻繁に受診する傾向があり[5][72]、「患者は単なる風邪で長時間待ってでも大学病院を受診することがある」と報告されている[72]。OECD国の多くでは、患者が専門医を受診するには先ずプライマリケアを担当する総合診療医(GP)から紹介を受けなければならないが[72]、日本にはこのような直接受診を防ぐゲートキーパー制度がなく[注釈 5]、そのため患者は総合医・専門医を問わず、医学的に必要があろうとなかろうと、どの医療機関にも自由に全額保険適用で受診できる現状にある(フリーアクセス)[73][72][5]応召義務もあって医師の負荷は高く「3時間待ちの3分診療」を引き起こしている[72][5]

また病院診療所の機能分化が不十分である[49]。例えば、病院の外来治療費が診療所より安い事、診療所に専門検査機器が無いため病院に検査紹介され患者としては二度手間になる事などにより病院へ外来患者が集中し易くなっている。元来の医療計画において、病院は急性期医療と高度医療を受け持っているのだが、経過観察が必要な慢性期医療の患者も多く受診し、病状による区別が不明確になっている[注釈 6]。不必要な専門医受診を防ぐゲートキーパー制度を導入し、また総合診療医の数を増やし、かつ専門医の役割を明確にするようOECDは勧告している[72][74]

2013年には社会保障国民会議が、紹介状なしの大病院受診に対して初診料自己負担を課すことで機能分化を誘導するよう勧告し[53]保険外併用療養費制度が設定された。これは保険より給付されない自己負担である。2014年の診療報酬改定では主治医機能に対しての算定が新設され(地域包括診療)[73]、さらに医療法改定にて「国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない(第6条の2)」と定められた。2021年医療法改正では、紹介患者の受診を基本とする「紹介受診重点医療機関」制度が定められた[73]骨太の方針2022では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが明記された[73]

病床への長期入院を減らす

OECD各国の急性期病棟の平均入院日数

日本の医療は平均入院日数の長さが指摘され、急性病棟ではOECD平均の2倍(OECD中で1位)[75]、トータルではOECD平均の4倍で、共にOECD中で最長であった[19]。医療上の必要がなく入院し、病院を事実上の介護施設とすることは「社会的入院」と呼ばれている[5][76]。OECDは「患者を入院させたままにすることは病院収入を増やす簡単な方法である」と指摘し[76]、患者の入院区分を正確に分類し、かつ料金スケジュールを見直すことで、病床への長期入院を減らすよう勧告している[76]。2013年の社会保障国民会議の最終報告では、急性病床への平均入院日数を12-16日にまで短縮し、代わりに介護における居住系サービスの充実化(約3割増加)および在宅系サービスの充実化を提案している[57]

また小規模病院は空床の活用に苦労しているが患者は大規模病院を好む傾向にあるため、OECDは小規模病院に介護療養に参加するインセンティブを与えるべきだと勧告している[76]。厚労省は医療費適正化計画を策定し、療養病床について老人保健施設や居住系サービス施設への転換を推進している[70]

2015年にも再びOECDより、最も優先度が高い課題は、先進国平均の4倍も長い長期入院の削減であると勧告されている[19]。2014年医療法改正では病床機能報告制度が設けられ、病棟について高度急性期、急性期、回復期、慢性期のうち、どの医療機能を担うかを毎年都道府県知事に報告する義務が定められた[77]

医療機関の統合集約化

日本の医療機関はOECD各国と比較して「人口あたりの病床数は最多、病床あたりの医師数は最小」に特徴づけられ[78]、病棟従事者を疲弊させている[5]。このような医療機関の散在は、医療財政と医療の質の面でマイナスであるとOECDは報告している[79]。たとえば自治体病院の75%では2007年は赤字決算であり、自治体財政に重い負担をかけている[79]。2013年の社会保障国民会議の最終報告では、急性期病床を4割〜8減削減し、代わりに急性期の医療従事者数を58〜116%増員させる提案がなされている[57]

またOECD調査によれば、大病院のほうが医師・病院ともによいパフォーマンスを上げているが、民間病院は小規模で質が低いとしている[79]。民間病院・診療所の株式による資金調達を解禁し[80]、M&Aにより医療機関の大規模化を進めるようOECDは勧告している[79]。また医療機関は医師により経営されなければならないとする規制を緩和することで、より高度なマネジメントがなされ経営が改善されるとOECDは勧告している[79]

医療マネジメントの未熟さ

医療機関のマネジメント手法が未熟である[74]。従来医療機関の収入は公的医療保険制度で十分に確保されてきたが、医療費抑制政策や医薬分業政策などで経営が厳しくなっている[74]。最近では患者による選択が拡大しているが(インフォームド・コンセント)、そのための情報開示、治療の標準化(EBM)、IT化(電子カルテ、オーダリングシステム、PACSグループウェアなどがよく検討されている。)が不十分である。風聞だけでなく、臨床指数(年間手術件数、治療成績など)、医療スタッフの専門性や技術力に関する情報、医療機関の経営状態などを検証するための医療情報システムの構築が必要である[79]。ランセット誌には、日本は都道府県知事の医療計画に対する権限を強化すべきであるとした論文が掲載された[74]。民主党マニュフェストではクリニカルパスの制定が公約されたが、実現には至らなかった[67]

保険者側の課題

いくつかの国では公的保険の保険者を自由に選択することができ、保険者間の管理競争が行われている(オランダの医療ドイツの医療など)。

保険者の統合集約化

被用者保険は、小規模な健康保険組合が多数存在する状況で財政が悪化しており[79]、さらに前期高齢者医療制度と後期高齢者医療制度拠出金が負担を重くしている。OECDは保険者の効率性を高めるため、保険者を統合し総数を減らすよう勧告している[79]。2006年の健康保険法改正では都道府県単位となる地域型健保組合制度が創設され、保険者の統合集約化を図っている。

国民健康保険も同様で、加入者における無職者・低所得者・高齢者の比率が高まっており[5]、2009年には国保の約半数が赤字となっている[39]。OECDは国保制度を市町村別から都道府県別に移行し、規模の拡大を図るよう勧告している[79][74]。2013年の社会保障国民会議においても同様に勧告された[53]。これらの流れを受け、2018年4月より国民健康保険は都道府県と市町村が共同で保険者となる仕組み(都道府県が財政運営・調整を担い、市町村が実際の保険給付・保険料の徴収を担う)に改められた。

請求審査機能の強化

保険者による医療報酬請求の審査機能を強化することで、過剰診療および不正請求を削減し医療費の増大を防ぐことができる[79]。こういった請求審査の効率化には事務電子化が欠かせず[81]、OECDは事務コスト削減および医療の質(EBM)向上のため、保険事務の電子化を推進するよう勧告している[79]。だが完全義務化について、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会は反対声明を出し[82]、2009年には反対する医師グループにより集団訴訟が行われた[83]民主党政策集(INDEX2009)では完全義務化から原則化に改めると公約され[67]、政権交代によって全施設への導入は撤回されたため[84]、訴訟は取り下げられたという経緯がある[85]。しかし2013年には、レセプト電子化率は社会保険診療報酬支払基金によれば医科で96%、歯科で60%、調剤で99%まで浸透した[86]

また被用者保険の支払審査を行う社会保険診療報酬支払基金について、複数による競争原理を導入すべきとOECDは勧告している[79]協会けんぽでは2009年より保険料を全国一律から都道府県別に移行し、競争力を高めようとしている[79]

療養費の受領委任払いの廃止

会計検査院の調査によれば、接骨院・整骨院によるレセプト請求の過半数において、接骨院・整骨院では保険適用できない慢性的な肩こり・腰痛・関節痛・リウマチ等に対してマッサージ等の施術を行い、傷病名を急性の「捻挫」「打撲」と偽り保険療養費請求する行為が行われており、平成21年に会計検査院から厚労省に対し改善要求が出されている[87][88]健保連大阪連合会は厚生労働省近畿厚生局に対して、療養費支給適正化の観点から「不正・不当請求が後を絶たない」として「受領委任払いの廃止」「領収書発行の義務付け」「療養費支給申請書の記載厳格化」を政府に要請している[89][90][91]


注釈

  1. ^ 法制上の建前は「療養の給付」以外の保険給付はすべて現金給付であるが、その多くで実際には現物給付としての運用がなされている。
  2. ^ 社会福祉法第2条第3項第9号 - “生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業” (第二種社会福祉事業)
  3. ^ 2008年では、ジェネリック購買額シェアでは、北米で52%、欧州5か国で30%、日本は3%であった。数量比シェアも、米国は59%、日本は19%であった。製品価格面でも、米国では先発薬の20-30%であるが日本ではおおよそ半額ほどに留まる(OECD 2009, pp. 115–116)。
  4. ^ 日本医療政策機構の調査では現在一箱あたり300円前後の課税を少なくとも600円まで増税することに74%が賛成している(OECD 2009, pp. 116–117)
  5. ^ かつての1959年に厚生大臣へ提出された医療保障委員会最終答申では、イギリスの医療ベヴァリッジ報告書)を参考にGP医制度の実現を強く求めていた。これを日本医師会は「医療の国営化、人頭割制度につながる」として反対した(新村拓 2011, pp. 193–194)
  6. ^ 1970年代に日本医師会会長武見太郎は、開業医が病床を持つことに反対し、開業医は外来・往診・予防医療などの家庭医に専従すべきだとしていた(新村拓 2011, pp. 73–74)。

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