94式水際地雷敷設装置
【94式水際地雷敷設装置】(きゅうよんしきすいさいじらいふせつそうち)
陸上自衛隊の施設科(工兵)部隊が装備する水陸両用車。
防衛庁技術研究本部が開発を行い、1994年に制式採用された。
上陸侵攻を目論む敵の揚陸舟艇を阻止するため、海岸部の浅海に水際地雷(機雷)を敷設するのを主任務とする。
車体は船舶と同様の構造をしており、水上では両サイドにフロートを降ろし、スクリューにより6ノットで走ることができる。
また、運転席には羅針盤が設置されているほか、錨や救命具なども装備している。
このため、車両・船舶の両方の登録がなされており、操縦するには「1級小型船舶操縦士」の資格が必要である。
本車は各方面隊施設群の「水際障害中隊」及び施設学校(茨城県・勝田駐屯地所在)の「施設教導隊」に配備されている。
なお、2011年3月11日に発生した東日本大震災では沿岸地域での不明者の捜索に使用された。
スペックデータ
乗員:3人
全長:11.8m
全幅:2.8m(陸上姿勢)/4.0m(水上姿勢)
全高:3.5m
全備重量:16,000kg(空車)
最高速度:50km/h(路上)/6ノット(浮航時)
最大出力:239kW/2,800rpm
製作:日立造船(現ユニバーサル造船)
94式水際地雷敷設装置
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/14 04:57 UTC 版)

94式水際地雷敷設装置(きゅうよんしきすいさいじらいふせつそうち)は、陸上自衛隊の施設科部隊が装備する水際地雷(機雷)の敷設装置である[1][2]。
概要
陸上自衛隊は、敵の着上陸侵攻阻止を防衛ドクトリンの骨子の一つとしており、それに対応して、海岸線の水際に上陸部隊阻止用の地雷原を迅速に構築するために開発された[2]。開発は防衛庁技術研究本部において1987年(昭和62年)度から水際地雷、1989年(平成元年)度から敷設装置の部内研究が開始され[2]、1994年(平成6年)度に制式採用された。
2011年(平成23年)の東日本大震災においては敷設装置を取り外した水陸両用車の荷台にダイバーを乗せ、福島県相馬市の相馬港周辺沿岸における行方不明者の捜索に使用された[3]。
調達と配備
調達価格は約5億円[4]。2005年(平成17年)度で調達は終了している[5]。
装備部隊・機関
東部方面隊を除く[6]施設団直轄、施設群の隷下[4]および施設教導隊隷下に各1個の計5個中隊に装備されている。
北部方面隊:第3施設団
東北方面隊:第2施設団
中部方面隊中部方面隊:第4施設団
- 第304水際障害中隊(和歌山駐屯地):第4施設団直轄
西部方面隊:第5施設団
- 第303水際障害中隊(小郡駐屯地):第5施設団直轄
防衛大臣直轄部隊:施設学校
- 水際障害中隊(勝田駐屯地):施設教導隊
構成
敷設装置と装置を搭載する水陸両用車により構成される[2]。敷設装置を搭載する車両は水陸両用車で艇体構造をしており、陸上走行のみならず、水上航走も可能である。陸上走行時は、車幅制限により、側面フロートを車体上に折りたたんでいるが、水上航走時は航行灯などの機器を装備し、車体側面にフロートを展開、車体後下部のプロペラ2基を用いて最高6ノットで移動する。フロート展開により、荷台部が確保され、そこに水際地雷および敷設用機器をセット、車体後部より水際地雷を投下する。投下軌条は上下2段4条の計8条あり、毎時72個が敷設される[4][7]。位置計測には、電波航法を用いており、2001年(平成13年)からは測定装置をGPSに置き換えた94式水際地雷敷設装置(B)が調達されている[2][4][7]。
また、水陸両用車の陸上から水中への入水時、また水上から陸上へ上陸する際に砂浜を通過する時に、車輪が砂に埋まって行動不能になることを防ぐため、軽金属製の道路マットが用意されており、装備部隊には道路マットの運搬・敷設装置を搭載した3 1/2tトラックが配備されている。
このほか、94式水際地雷ヘリコプター用敷設装置も調達されており、空中から水際地雷の敷設も可能である[4]。
導入当初、法的には運転に際し、車両操縦免許の他、小型船舶操縦士免許も必要としていた[5][7]が、2017年(平成29年)の自衛隊法改正にて、「船舶法などの適用除外」を定めた第109条・第110条が改正され、陸上自衛隊の使用する船舶(水陸両用車両を含む)が「船舶法」・「小型船舶の登録等に関する法律」の対象外となり、当装置およびAAV7を含む水陸両用車両が船舶でなく車両として扱われるようになった。またこれに乗船して操縦に従事する隊員が「船舶職員及び小型船舶操縦者法」の対象外となり、操縦の際の船舶免許が不要となった。
94式水際地雷
敷設するものは94式水際地雷である。地雷との名称が付けられているものの、浅海に敷設することから正確には対上陸用舟艇用の機雷である。係留式と沈底式の2種類があり、沈底式の1型は直径0.45m、重量40kgで円盤型、係留式の2型は全長0.65m・重量45kgの円柱型である[4]。敷設間隔は30m以上離すこととされ、また、2型は水深3m以深のエリアに敷設される[4]。振動および磁気信管であり、感度や作動までの感知回数が設定可能のほか、一定時間経過後は無力化がなされる[7]。
-
水上航行状態
敷設装置および水際地雷を搭載していない状態 -
積載された水際地雷。上部棚の黄色い円盤が水際地雷1型(沈底式)、下棚の黄色い円柱が水際地雷2型(係留式)
-
水際地雷1型(沈底式)
-
水際地雷2型(係留式)
-
水陸両用車後部下面の水上航行用プロペラ
-
道路マットとその運搬・敷設装置を搭載した3 1/2tトラック
後継
後継として「新水際地雷敷設車」が開発されており[8]、その試験車両が2024年(令和6年)に製造・納入されている[9]。
諸元・性能
- 出典[1]
- 全長:11,800mm
- 全幅:2,800mm(陸上姿勢)、4,000mm(水上姿勢)
- 全高:3,500mm
- 重量:16,000kg(空車)
- 乗員:3名
- 最高速度:50km/h(陸上走行時)、11km/h〔6kt〕(水中プロペラ推進時)
- 機関:水冷6気筒ディーゼルエンジン[7]
- 最大出力:239kW/2,800rpm
製作
- 日立造船(現・JMUディフェンスシステムズ株式会社)
脚注・出典
- ^ a b 自衛隊装備年鑑 2006-2007 朝雲新聞社 P99 ISBN 4-7509-1027-9
- ^ a b c d e “(6) 新水際地雷システム p42-43” (PDF). 技術研究本部50年史. 防衛省技術研究本部. pp. 12-13. 2013年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月27日閲覧。
- ^ “福島県沿岸部での捜索活動のようす”. 災害派遣一覧. 第13旅団ホームページ. 2016年2月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月31日閲覧。
- ^ a b c d e f g 「日本の防衛力」(9)師団の海岸地域防衛戦力・多目的誘導弾&10式新戦車 軍事情報研究会 「軍事研究」2010年11月号 P123-146 株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー
- ^ a b “装備品紹介「94式水際地雷敷設装置」” (PDF). 近畿中部防衛局広報誌 2012年9月号. 防衛省. p. 7. 2013年1月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月27日閲覧。
- ^ 編成当初、第303水際障害中隊が第4施設群隷下として東部方面隊(第1施設団)に属していたが、2008年に第9施設群(西部方面隊第5施設団)に管理替えされた。
- ^ a b c d e PANZER 臨時増刊 陸上自衛隊の車輌と装備2012-2013 2013年1月号,アルゴノート社,P107
- ^ “事業分野 | JMUディフェンスシステムズ 株式会社”. www.jmuc.co.jp. 2025年9月14日閲覧。
- ^ “テクニカルレビュー No.18 水陸両用車向けアルミ溶接工法の技術調査”. ジャパン マリンユナイテッド (2025年9月). 2025年9月14日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 94式水際地雷敷設装置のページへのリンク