霊性
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ヴィヴェーカーナンダのインド的霊性や鈴木大拙の日本的霊性・東洋的霊性と西欧的霊性とが区別されることもある[5]。また、ニューエイジや精神世界などと呼ばれる文化現象[6][7]または非組織的な宗教現象[注釈 2]に対して霊性の語が適用されることもある。1990年代以降はスピリチュアリティとカタカナ表記される方が優勢であるが[6][注釈 2]、霊性とスピリチュアリティという訳語を同じものとして扱うこともある[8](ここでは便宜的・恣意的に「霊性」と「スピリチュアリティ」の記事を分けているが、記事内容に沿った使い分けを推奨している訳ではない)。
漢語としての霊性
漢語・中国語としての霊性(繁体字: 靈性、簡体字: 灵性、拼音: )には、以下のような語義がある。
1. 聡明な天性[9]、才知、能力[10][11]、事物を感受したり理解する能力[11]。
- この意味での霊性の用法は、韓愈の芍薬歌「嬌痴婢子無靈性,競挽春衫來比並」や紅楼夢[12][9][11]、魯迅[13]、 郁達夫[14][11]などがある。
- この用法は日本では北原白秋の「桐の花」(1913年)[15]で「夜が更け、空が霽れ、蒼褪めはてた経験の貴さと冷たい霊性のなやみを染々と身に嗅ぎわけて、哀傷のけものは今深い闇のそこひからびやうびやうと声を秘そめて鳴き続ける。」「何たる神秘、落ちついた真青な輝き……暗い深夜の秘密に密醸された新鮮な酸素の噎びが雨後の点滴と相連れて、冷たい霊性の火花も今真青に慄わなゝき出した。」「譬へ天真の稚気と信実とが絶えず心の底に昼の蝋燭の様にちろろめいてゐたにもせよ、馴れ過ぎた天の恩寵と世の浅はかな賞讃とが何時しか汝の貴重な霊性を盲目にした。」[1]などがある。
2. 動物が人間によって教えられた知恵[10][16]、動物の利口さ[17]を指す用法もある。
3. 精神、精気[11]。この用例には、南朝宋の顔延之の《庭誥》之二「未能體神,而不疑神無者,以為靈性密微,可以積理,知洪變欻怳,可以大順。」や、 梁の沈約の『釋迦文佛像銘』に「眇求靈性,曠追玄軫,道雖有門,跡無可朕。」がある[11]。
4. 宗教的悟性(理解力)[11]。この用例には、明の陳汝元の『金蓮記•郊遇』に「自家叫做佛印,生來有些靈性,只為了悟一心,因此削光兩鬢。」 とある[11]。
5. 霊魂[11]。この用例には、元の無名氏《朱砂擔》第四摺「我只道你靈性歸天上,卻元來幽魂沉井底。」、清時代の呉騫《扶風傳信録》「妾得寵于君,性尤妒,宮中之人,多被讒害,因此落劫,然靈性不泯,隨即修行,今已閲七世矣!」 などがある[11]。
歴史的宗教文献での用例
平安末から鎌倉初期にかけて活躍した神祇官大副卜部兼友は『神道秘録』の中で神道を「円満虚無霊性を守る道」と言っている[18][19]。
一方、卜部兼友と同時代の道元の「弁道話」(『正法眼蔵』巻頭に収載)には「霊性(レイショウ)」の語がみえるが、これは霊性なるものを永遠不滅の実体とみる考えは仏道から外れた邪説であるという批判的文脈において引き合いに出されたものである[18][19]。
室町時代中期から戦国時代にかけて吉田神道を大成した神道家吉田兼倶は主著『唯一神道名法要集』の中で、カミを「一切霊性の通号」であるとした[19]。
江戸時代の国学者賀茂真淵や本居宣長は、仏教や儒教の影響を除外して古代日本の霊性を表示することを目指した[23]。
また国学者平田篤胤は『密法修事部類稿[24]』で次のように言っている。
「吾が身はこれ産霊神。風・火・金・水・土、五大を聚結し、而してその至善の霊性を分賦し玉へるものなり。身は遂に五大に帰り、ただ霊性のみ、無窮の吾れなり。」[18][19][注釈 3]。
聖書の訳語としての霊性
明治元訳聖書
日本語訳聖書の訳語としての「霊性」は、1876年(明治9年)より順次分冊刊行し、1880年(明治13年)に完訳した[26]北英聖書會社(スコットランド聖書協会)による『新約全書(明治元訳聖書)』の「羅馬書」(ローマ人への手紙)第1章4の「聖善の霊性」に見られる[27][注釈 4]。
また1881年(明治14年)に米國聖書會社が訳した『新約全書』でも同様に「聖善の霊性」である[28]。
なお、明治35年の日本正教会訳『我主イイススハリストスの新約』では「聖善の霊性」は「聖徳の神(しん)」[29]、1917年(大正6年)の『大正改訳聖書』では「潔き靈」と訳された[30]。1950年の日本聖書協会訳『新約聖書』でも「潔き靈」と訳された。
この「聖善の霊性」として日本語に翻訳された原語は、カトリック教会の標準ラテン語訳聖書ヴルガータでは spiritum sanctificationis[31][注釈 5]、ギリシア語訳では
- 漢訳聖書
また日本語訳聖書に先立って翻訳された1813年のロバート・モリソン(Robert Morrison, 馬禮遜)とウイリアム・ミルンによる漢訳聖書『新遺詔書[36][37]』では「聖風」と訳された[38]。
メドハースト代表委員会訳として1852年に『新約全書』、1854年に『旧約全書』が出版された[37]が、その後に作られた1863年のブリッジマン・カルバートソン版『新約全書』(美華書局、上海)では「聖徳之霊」と訳された[39]。
日本語訳聖書明治元訳を作成するにあたって使われたのはこの上海美華書館発行の1863年ブリッジマン・カルバートソン版であり、明治元訳聖書には漢訳聖書の表記の多くが引き継がれている[37]。その後、1919年の和合本では「聖善的靈」、1968年の思高聖経では「聖的神性」(聖なる神性)、1999年の牧霊聖経では「神圣的神性」(神聖な神性)と中国語訳されている。
注釈
- ^ 『日本国語大辞典』ではこの「肉体に対して霊」の用例として『引照新約全書』(1880年)、菊池幽芳『己が罪』(1899-1900年)が挙げられている。
- ^ a b c d 伊藤雅之、J.A.ベックフォードによる(『宗教学事典』丸善、平成22年、20-21頁)。
- ^ 村岡典嗣は、人間に至善の霊性を賦与する産霊神という平田篤胤の思想にキリスト教からの影響を認めうると指摘した[25]。
- ^ 『日本国語大辞典』第二版(小学館 2002年)の「霊性」項目では『引照新約全書』(1880年)と書かれているが、1880年に刊行されたのは翻訳委員社中『新約全書』北英聖書會社(スコットランド聖書協会)である。『引照 新約全書』は1887年米国聖書會社による刊行。『引照 新約全書』横浜:米国聖書會社、1887年、四百廿三頁。
- ^ sanctificationisはラテン語動詞sanctificare(Sanctus 聖性をあずかる、与えられる)に基づく形容詞。英語ではSanctification。聖霊の働きによって人間が罪から救われ、神の聖性にあずかり、聖なるもののこと(デジタル大辞泉)。プロテスタントでは聖化、カトリックでは聖別という。
- ^ 『新スタンダード仏和辞典』(大修館書店)によれば spiritualité には「霊的生活」の意味がある。
- ^ 「地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。」(創世記1-2、『聖書[口語]』日本聖書協会、1955年)
「時に彼はわたしに言われた、「人の子よ、息に預言せよ、息に預言して言え。主なる神はこう言われる、息よ、四方から吹いて来て、この殺された者たちの上に吹き、彼らを生かせ。そこでわたしが命じられたように預言すると、息はこれにはいった。すると彼らは生き、その足で立ち、はなはだ大いなる群衆となった。」(エゼキエル書37:9-10、『聖書[口語]』日本聖書協会、1955年) - ^ ここでの υ は長母音 ῡ であり、「プシューケー」ともカナ表記される[54]。
- ^ ギリシア語原文:
日本語訳:καὶ ἐπλήσθησαν ἅπαντες Πνεύματος ἁγίου, καὶ ἤρξαντο λαλεῖν ἑτέραις γλώσσαις καθὼς τὸ Πνεῦμα ἐδίδου αὐτοῖς ἀποφθέγγεσθαι. Πράξεις τῶν Ἀποστόλων, 2-4
英語訳聖書のこの箇所 (Acts of the Apostles 2:4) は、Bible American Standard (改訂標準訳聖書、1901年)では the Holy Spirit と the Spirit、Bible King James (欽定訳聖書ジェイムズ王訳、1611年)では the Holy Ghost, the Spirit となっている。一同は聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、いろいろの他国の言葉で語り出した。 — 使徒行伝2:4、『口語新約聖書』日本聖書協会、1954年 - ^ 神は霊であるから、礼拝をする者も、霊とまこととをもって礼拝すべきである。 — ヨハネによる福音書4:24、『口語新約聖書』日本聖書協会、1954年
.God is a Spirit: and they that worship him must worship in spirit and truth. — John 4:24, Bible American Standard, 1901 - ^ Online Etymology Dictionary でも spiritualty は14世紀後半に用例があるとしている[82]。
- ^ なお、聖書で「霊の体」と訳される英語 Spiritual body とは異なる。コリントの信徒への手紙一15:42-44での「霊の体」の英語表記はティンダル訳聖書(1526年)では a spretuall body、1611年の欽定訳聖書で a spiritual body とされて以降は、1901年のアメリカ標準訳聖書(American Standard Version)およびその改訂 World English Bible (1997-2000年) でも引き継がれている。
- ^ OEDにはEllis, Orignal Letters.Series.ii.I.61とある[84]。 Ellis, Henry, Sir, Original letters, illustrative of English history,Published 1824-1846.
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- ^ a1500(?c1425) Spec.Sacer.(Add 36791) 105/13: There ben thre kyndis of pouerte..pouerte of necessite..an-other is of simylacion..and a-nother is of spiritualite, and þat is in the good men.[90]
- ^ (1417) Let.in Ellis Orig.Let.ser.2.1 ,61: In witness..wee..the gardeins of the spirituallities of Ardmaghe..have put our Seales.この用例はOEDのSpiritualityの2bの用例と同じ例文で、MEDではgardeinの初出としても紹介してある。この他MEDではc1450 Dives & P.(Lchf 35) 1.44: Fyue cases in which it is leeful to ȝeue ȝiftes in matere of spyrytualytee.c1450 3 KCol.(2) (Add 31042) 533: By comon will þay ordayne..The person þat were fonden acceptable Þay scholde obey, and subiectes to hym be Als semande were in spirytualite.c1500(1463) Ashby Pris.(Trin-C R.3.19) 7/182: Yef thow be set in temporalyte, Thy lust ys in spyrytualyte.が例文としてあげられている。
- ^ a1550 Lament Duch.Glo.(Bal 354) p.207: I come before the spiritualite; Two cardynals and byshoppis fyve..amened me of alle my lyffe.[90]
- ^ (a1470) Malory Wks.(Win-C) 1036/4: Bors lat bury hym..by sir Galahad in the spiritualites.[90]
出典
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