復活の日
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概要
空気感染・致死率100パーセントのウイルスと核ミサイルの脅威により人類死滅の危機が迫る中、南極基地で生き延びようとする人々のドラマを描いた作品。バイオテクノロジーによる破滅テーマの本格SFとしては日本ではこれが
小松にとっては『日本アパッチ族』(光文社)に次ぐ長編第2作であり、ハードSFの書き下ろしとしては第1作といえる[5]。題名は当初は考えておらず[注 1]、掲載するに当たって急遽思いついたという。
SF作家の堀晃は、日本のSFのレベルを引き上げたと高く評価した[6]。評論家の石川喬司は、細菌兵器による終末テーマのSFの代表的な作品の一つとして扱っている[7]。
2009年には、新井リュウジ[注 2]による児童向けのリメイク作品として、『復活の日 人類滅亡の危機との闘い』がポプラ社から出版された(ISBN 978-4-591-11137-6)。大筋では原作のストーリーのままだが、時代を2009年以降の21世紀初頭に移しており、それに伴うものや児童向けを理由とする改変がされているほか、原作のラストからさらに数年後の出来事が追加されている。新井は「児童向けの翻訳」であるとうたっている。
2019年以降の新型コロナウイルス感染症の世界的流行の際、本作の先見性が再評価されている[8]。
小説あらすじ
196X年2月、イギリス陸軍細菌戦研究所で試験中だった猛毒の新型ウイルス「MM-88」がスパイによって持ち出される。スパイの乗った小型飛行機は吹雪に遭ってアルプス山中に墜落し、ウイルス保管容器は砕け散る。春が訪れて気温が上昇するとMM-88は大気中で増殖を始め、全世界に広まった。当初は家畜の疫病や新型インフルエンザと思われたが、心臓発作による謎の突然死が相次ぎ、おびただしい犠牲者を出してなお病原体や対抗策は見つからず、人間社会は壊滅状態に陥る。半年後、夏の終わりには35億人の人類を含む地球上の爬虫類・両生類・魚類・円口類を除く脊椎動物が、ほとんど絶滅してしまう[注 3]。
生き残ったのは、南極大陸に滞在していた各国の観測隊員約1万人と、海中を航行していたために感染をまぬがれた原子力潜水艦[注 4]のネーレイド号(アメリカ海軍)、そしてT-232号(ソ連海軍)の乗組員たちだけであった[注 5]。過酷な極寒の世界がウイルスの活動を妨げ、そこに暮らす人々を護っていたのである。南極の人々は国家の壁を越えて結成した「南極連邦委員会」のもとで再建の道を模索し、種の存続のために女性隊員16名による妊娠・出産を義務化したほか、アマチュア無線で傍受した医学者の遺言からウイルスの正体を学び、ワクチンの研究を開始する。
4年後、日本観測隊の地質学者の吉住(よしずみ)は、旧アメリカアラスカ地域への巨大地震の襲来を予測する。その地震をホワイトハウスに備わるARS(自動報復装置)が敵国の核攻撃と誤認すると、旧ソ連全土を核弾頭内蔵ICBMが爆撃することや、それを受けた旧ソ連のARSも作動し南極も爆撃される公算の高いことが判明する。吉住とカーター少佐はARSを停止するための決死隊としてワシントンへ向かい、ホワイトハウス地下の大統領危機管理センターへ侵入するが、到着寸前に地震が発生したためにARSを停止できず、その報復合戦で世界は2回目の死を迎える。しかし、幸いにも南極はソ連の攻撃対象とされておらず、中性子爆弾の爆発によってMM-88から無害な変種が生まれ、皮肉にも南極の人々を救う結果となる。
6年後、南極の人々は南米大陸南端への上陸を開始し、小さな集落を構えて北上の機会を待っていた。そこに、服が千切れて髪や髭はボサボサという、衰弱した放浪者が現れる。それは、ワシントンから生き延びて徒歩で大陸縦断を敢行してきた吉住だった。核弾頭ミサイルによる放射線照射を脳に受けたことで精神を病みながらも仲間のもとへ帰ろうとする一念で生還した吉住を、人々は歓呼で迎える。被災地に多くの文明の遺産が残っているおかげで、人類社会の再生は原始時代からのやり直しよりも遥かに迅速なものとなるという希望に満ちた見通しとともに、物語の幕は下りる。
注釈
- ^ 小松は題名を考えずに小説を書く。小松は後に、自身が題名を考えずに小説を書いたために時空がゆがんでしまうという内容のSF長編『題未定』を発表している。
- ^ 本作がペンネームを「あらいりゅうじ」から変更して初の作品である。
- ^ ただし、ごく一部の哺乳類・鳥類といった温血動物(クジラ・アザラシ・オットセイなどの海棲哺乳類・一部の陸棲哺乳類〈齧歯類の一部など〉、ペンギンなどの一部の海棲鳥類と一部の陸棲鳥類〈一部の野鳥のみ〉)はほとんど生き残った。
- ^ 原子力潜水艦は通常の潜水艦と異なり、艦内の空気を長期間自己完結させるほか、海水電解で空気を精製させることができる。詳細は原子力潜水艦#長期間の連続潜航を参照。
- ^ 『復活の日 人類滅亡の危機との闘い』では、ネーレイド号とT-232号が連続潜航時間の試験中に今回の事態に巻き込まれた描写がある。またT-232号はロシア海軍所属となっている。
- ^ 小説発表時には空想上の病原体に過ぎなかったが、後年には高等植物に感染するウイロイドや細菌に感染するプラスミドなどの「増殖・感染する核酸」の実在が知られるようになった。
- ^ 小説では、この症状が「ポックリ病」と呼ばれており、交通機関は運転士の急死による事故を防ぐため必ず2人以上で減速した状態での操業を余儀なくされる描写がある。
- ^ 映画では「イタリア風邪(Italian flu)」と呼ばれている。『復活の日 人類滅亡の危機との闘い』では、欧米で「悪魔風邪」、アジアで「イタリア・チベット風邪」と別々の病気とされたため、対策が遅れる描写がある。
- ^ 映画版ではワクチンとして扱われている。
- ^ 『復活の日 人類滅亡の危機との闘い』では1980年代の元大統領となっており、ガーランドの死後にARSは存在すら忘れられかけていたと言及されている。
- ^ 原作では、「ケネディの選んだ道を強引に引き返した」とされ、保守的な軍人でさえも「アメリカの後進性に絶望」した。観測隊員には、「20世紀のアッティラ」「ホワイトハウスのネロ」とまで評されている。
- ^ 細部が異なるが「自動報復装置」として実在する。死の手を参照。
- ^ 映画ではネレイド号が通信によって作動を確認し、マクラウド艦長が不審に思ったと語っている。
出典
- ^ 小松左京『SFへの遺言』光文社、1997年、124頁。ISBN 4334971423。
- ^ 小松左京『小松左京のSFセミナー』集英社〈集英社文庫〉、1982年、221頁。
- ^ 小松左京 2008, pp. 63, 130-134
- ^ 福島正実『未踏の時代』早川書房、1977年、136-145頁。
- ^ 小松左京 1998, p. 439, 巻末インタビュー
- ^ 「堀晃「復活の日 作者と作品」」『世界のSF文学・総解説』(増補版)自由国民社、1992年、246-247頁。ISBN 4426611059。
- ^ 石川喬司『IFの世界』毎日新聞社、1978年、201頁。
- ^ “「復活の日」がコロナで注目 小松左京、樋口真嗣が語る”. 朝日新聞. (2020年5月9日) 2022年6月25日閲覧。
- ^ JK1FNL (2012年10月26日). “WA5PS”. PaperDXers. 2017年9月24日閲覧。
- ^ 「小松左京マガジン第45巻」(角川春樹事務所発売、2012年4月発行、ISBN 978-4-7584-1196-7)に取得に関する[9]が掲載されている。
- ^ a b 『昭和55年 写真生活』ダイアプレス〈DIA Collection〉、2017年、38頁。ISBN 978-4802302524。
- ^ a b 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P155
- ^ 1980年配給収入10億円以上番組 - 日本映画製作者連盟
- ^ a b 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P156
- ^ 日野康一 編 編「永塚敏「'80日本映画界トピックス」『シネアルバム 1981 1980年日本公開外国映画+TVシリーズ全集』芳賀書店〈シネアルバム 83〉、1981年、189頁。ISBN 4826100833。
- ^ a b c 生江有二「阿修羅を見たか 角川春樹と日本映画の20年 第8回 白夜の中で」『週刊ポスト』1998年5月22日号、小学館、159頁。
- ^ 「邦画新作情報」『キネマ旬報』1979年5月下旬号、キネマ旬報社、180頁。
- ^ a b 小松左京 1998, pp. 442–443
- ^ a b 小松左京 2006, p. 141
- ^ 「『東京湾炎上』撮影秘話-特別編- 東宝映像の大作路線」『東宝特撮映画大全集』執筆:元山掌 松野本和弘 浅井和康 鈴木宣孝 加藤まさし、ヴィレッジブックス、2012年9月28日、190頁。ISBN 978-4-86491-013-2。
- ^ 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P133
- ^ 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P79
- ^ 角川春樹『試写室の椅子』角川書店、1985年、126,137頁。ISBN 4048831895。
- ^ 小松左京 2006, p. 159
- ^ 角川 & 清水 2016, p. 105
- ^ 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P96
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- ^ 「FRONT INTERVIEW NO.157 角川春樹」『キネマ旬報』2008年6月下旬号、キネマ旬報社、6頁。
- ^ 木村大作、金澤誠『誰かが行かねば、道はできない 木村大作と映画の映像』キネマ旬報社、2009年、78-79頁。ISBN 978-4873763132。
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- ^ 生江有二「阿修羅を見たか 角川春樹と日本映画の20年 第8回 白夜の中で」『週刊ポスト』1998年5月22日号、小学館、160頁。
- ^ 金澤誠(聞き手・文)「「風にふかれて気のむくままに 木村大作「劔岳 点の記」への道、」第5回「復活の日」篇1」『キネマ旬報』2009年1月上旬号、キネマ旬報社、[要ページ番号]。
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- ^ a b 角川 & 清水 2016, pp. 110–111
- ^ 木原, 浩勝、志水, 俊文、中村, 哲 編「富山省吾「プロデューサー・田中友幸の思い出」」『ゴジラ 東宝特撮未発表資料アーカイヴ プロデューサー・田中友幸とその時代』角川書店、2010年、134頁。ISBN 978-4048544658。
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- ^ “1980年配給収入10億円以上番組”. 日本映画製作者連盟. 2016年11月30日閲覧。
- ^ 樋口尚文『『砂の器』と『日本沈没』70年代日本の超大作映画』筑摩書房、2004年、223-230頁。ISBN 4480873430。
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- ^ 「磯田勉「角川映画のアイドル戦略」」『アイドル映画30年史』洋泉社〈別冊映画秘宝VOL.2〉、2003年、97頁。ISBN 4896917642。
- ^ 角川 & 清水 2016, pp. 116–117
- ^ 小松左京 2008, p. 330
- ^ 小松左京 2006, p. 148
- ^ 井筒和幸『ガキ以上、愚連隊未満。』ダイヤモンド社、2010年、78頁。ISBN 978-4478013533。
- ^ 小松左京 ほか『完全読本 さよなら小松左京』徳間書店、2011年、279頁。ISBN 978-4198633035。
- ^ 福山雅治 『ガリレオ』シリーズに夢中になる小学生に感じた、在りし日の自分と同じ匂い
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