催馬楽 催馬楽の概要

催馬楽

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/25 05:01 UTC 版)

鍋島本「催馬楽曲譜」

概要

催馬楽は、平安時代初期、庶民のあいだで歌われた民謡や風俗歌の歌詞に、外来の楽器を伴奏楽器として用い、新しい旋律の掛け合い、音楽を発足させたもので[1]、9世紀から10世紀にかけて隆盛した[2]

隆盛の例としては、醍醐天皇の時期(897-930)に、催馬楽と管絃を合わせた音楽体系が一定の様式に定まり、天皇公卿殿上人が演奏者として合奏唱歌を楽しむ「御遊(ぎょゆう)」が宮廷で催されるようになったことである[1]

もともと一般庶民のあいだで歌われていた歌謡であることから、特に旋律は定まっていなかったが、貴族により雅楽風に編曲され、「大歌」として宮廷に取り入れられて雅楽器の伴奏で歌われるようになると宮廷音楽として流行した。催馬楽は、雅楽として組み込まれてから何度か譜の選定がおこなわれ、平安時代中期には、「」および「」の2種類の旋法が定まった。

歌詞は、古代の素朴な恋愛など民衆の生活感情を歌ったものが多く、4句切れの旋頭歌など様々な歌詞の形体をなしている[4]

催馬楽の歌い方は流派によって異なるが、伴奏に笏拍子琵琶(楽琵琶)、(そう)、(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛大和笛(神楽笛)など管楽器弦楽器が用いられ、はともなわない[5]。また、和琴が加わることもあった。

室町時代には衰退したが、現存のものは17世紀に古譜より復元されたものである[2][5]

資料

催馬楽の歌詞を収載している文献には、以下のようなものがある。

語源

「催馬楽」の語源については、さまざまな説があるが、列挙すれば、

  • 諸国から朝廷に貢物を運搬するときにうたった歌で、ウマを催す意
  • 「いで我が駒早く行きこそ」というウマを催す意の歌が初めにあるから生じた名
  • 大嘗会に神馬を牽(ひ)くさいにうたった歌
  • 神がウマとなってあらわれることを催す意
  • 神楽の前張の拍子でうたったからその名をとった
  • 唐楽に催馬楽(あるいは催花楽)があり、その拍子にあわせた歌であるからその名を取った
  • 薩摩に催馬楽村があり、その付近では都曇答蝋、鼓川、轟小路などの地名があり、ここに住んでいた楽人がうたいはじめた歌謡
  • 馬士唄の意

がある。賀茂真淵は神楽の前張を好事家が催馬楽と書いたことによるとしている[6][7]。また、折口信夫は催馬楽は直接には、神楽歌の「前張(さいばり)」歌群を母胎として発生したものであるとしている[8]

演奏

(現行の)催馬楽の演奏は、句頭(ソリスト)が笏拍子を打ちながら独唱し、それにつづいて全員で斉唱し、伴奏も、旋律部分を奏するかたちで進行する[5][9]。このとき伴奏楽器(付物)は拍節的なリズムによって加わる[9]

律の催馬楽(律歌)が平調E、ミ)の音の主音(「宮(きゅう)」と称する)にとって歌われるのに対し、呂の催馬楽(呂歌)では主音は双調G、ソ)にとられる。それゆえ、律歌に先だっては、その主音が属する平調の音取(ねとり)を、呂歌に際しては双調の音取を奏することとなっている[9]


注釈

  1. ^ そのために、風俗歌が荷前の貢進にともなった東歌の系統に属するのに対し、催馬楽は大嘗祭における稲穂の貢進にともなった風俗歌の系統であるとする推定が生まれている。西村(1966)p.90
  2. ^ 一説には一条雅信(源雅信)によって律呂の譜が定められたといわれている(『奥義抄』など)。

参照

  1. ^ a b c 秋澤(2010)p.65
  2. ^ a b c 増本(1990)p.108
  3. ^ 吉川(1990)p.78
  4. ^ a b c d e f g h i 多田(2004)
  5. ^ a b c 声楽(日本辞典)
  6. ^ 賀茂真淵、賀茂百樹増訂「神楽歌考 - 前張」『賀茂真淵全集』第10巻、吉川弘文館、1930年10月、160頁。 
  7. ^ 賀茂真淵、賀茂百樹増訂「催馬楽考 - 催馬楽」『賀茂真淵全集』第10巻、吉川弘文館、1930年10月、174頁。 
  8. ^ a b 西村(1966)pp.90-91。原出典は『折口信夫全集 第14巻』p.185
  9. ^ a b c 増本(1990)p.109
  10. ^ 西村(1966)pp.89-90
  11. ^ 西村(1966)p.90。原出典は藤田『日本文学大辞典』「催馬楽」の項
  12. ^ 西村(1966)p.90
  13. ^ 豊永聡美「平安時代における天皇と音楽」(初出:『東京音楽大学研究紀要』25号(2004年)/改題所収:豊永「鎌倉期以前の天皇と音楽」『中世の天皇と音楽』(吉川弘文館、2006年) ISBN 4-642-02860-9 P31)


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