九二式歩兵砲 運用

九二式歩兵砲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/17 03:26 UTC 版)

運用

アメリカ軍鹵獲された九二式歩兵砲と弾薬筒、および属品である弾薬箱・用具

移動時は駄馬1頭で牽引するか、砲架・砲身・車輪等に分解して駄馬3頭で運搬可能であった。さらには、兵士10人で分解して担いで移動することも可能だった。車輪はサスペンションを持たない鋼鉄製車輪で自動車牽引は出来ず、このためトラックの荷台か牽引用のトレーラーに搭載する。

弾薬は5発入りの弾薬箱に収められ重量は30kgあり、兵士1人が1箱を担いで運ぶか駄馬1頭で4箱を運んだ。また専用の砲弾輸送車の開発も進められ、大阪工廠が1931年から1932年にかけて車両を試作し、完成した1両を陸軍歩兵学校に委託して意見を求めた。続く1933年(昭和8年)には北満州での実地試験と各師団の意見に基づき修正を加え、翌1934年(昭和9年)2月に九二式歩兵砲弾薬車として制式化された。[5]これは弾薬箱5箱(計25発)を収容可能な前車と後車から成り、駄馬1頭により牽引された。また前車と後車をそれぞれ人員によって牽引することも可能であり、この場合は車軸両端に曳索を取り付けて牽引の補助とした。全長は4.259m、50発分の弾薬箱を含めた全備重量は512kgであった。

通常の運用では1門につき即応弾として20発が砲と共に前進し、続く弾薬分隊20人とあわせて弾薬定数144発を運んだ。砲本体204kgに対して弾薬870kgと重かったが、わずかな駄馬のほかは多くの場合は徒歩で背負って運んでいた。野砲・榴弾砲・山砲・騎砲加農高射砲などを運用する砲兵連隊等の砲兵部隊はトラック・砲兵トラクター・輓馬・駄馬など、比較的恵まれた装備を擁していたが、末端の歩兵部隊(歩兵砲隊)は一部の優良装備部隊を除き弾薬輸送を駄馬および人力に頼らざるを得ないため、日本軍は弾薬分隊の人数が欧米にくらべて突出して多い。なお、弾薬分隊に配属される人材は兵役検査で低い評価を受けた体格が良くない者ばかりであったため、兵士の苦労は大きかった。

第二次世界大戦時、弾薬輸送にトラックが使用されていたアメリカ軍・イギリス軍であれば、1個大隊分(砲2門と弾薬)でも3tトラック1台分の荷物にすぎないが、日本軍には負担であった。日本軍が弾薬貧乏と言われ無駄弾を厳しく禁止した背景には、(軍事力以前に国力の低さのため)この程度の小型火砲ですら弾薬輸送の負担に耐えかねていたという問題があった。




  1. ^ a b 「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」78頁。
  2. ^ 「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」79頁。
  3. ^ a b c d 「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」52-53頁。
  4. ^ a b 「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」51頁。
  5. ^ 「九二式歩兵砲弾薬車仮制式制定の件」。
  6. ^ Lai, Benjamin (18 Oct 2018). Chinese Soldier vs Japanese Soldier: China 1937–38. Combat 37. p. 22. ISBN 9781472828200 
  7. ^ Ott, David Ewing (1995). Field artillery, 1954-1973. Vietnam studies. Washington, D.C. : Dept. of the Army: United States Department of the Army. p. 13. https://history.army.mil/html/books/090/90-12/CMH_Pub_90-12.pdf 
  8. ^ 「92式歩兵砲取扱上ノ参考」。
  9. ^ a b 「九四式7糎戦車砲弾薬仮制式制定の件」。
  10. ^ 「九二式歩兵砲弾薬九五式照明弾弾薬筒仮制式制定の件」。
  11. ^ 「九二式歩兵砲弾薬九七式鋼製銑榴弾々薬筒(甲)仮制式制定の件」。
  12. ^ 「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」39-40頁。
  13. ^ 「日本陸軍の火砲 歩兵砲 対戦車砲 他」45-50頁。






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