ニンニク 生産地

ニンニク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 12:52 UTC 版)

生産地

中国が世界のニンニク生産量の8割を占めており、安価であるため世界各国に広く普及している。

日本国内の流通においては、国産ニンニクの80%を青森県産が占め(市町村別では、十和田市[16]が最も多く生産している)、次いで香川県の出荷が多い。青森県田子町が「ニンニクの町」としてPRして[17]早くからブランド化に取り組み、独自の品種も開発している[18]。中国産と比べて香りが強く高品質であるが高価格でもある。

ニンニクを多量に用いるブラジルでは、本来冷涼な気候に適したニンニクを熱帯で栽培しているために、国産ニンニクの品質が良くなかったが、種苗会社『テクノ・プランタ』[19]カルロス・トシキにより開発された種苗により品質が大幅に向上した[20][21][22]。カルロスが開発したニンニク種苗はブラジル国内ではシェア100%を誇っており、地元では「偉大なにんにくスペシャリストの1人」として有名である[20][21][22]。カルロスは日本芸能界1986年から5年間オメガトライブ歌手として活動した後、ブラジルに帰国して知人の種苗会社就職し、国立大学でも農業を学んだという異色の経歴の持ち主である[20][21][22]

栽培

収穫後は吊して乾燥する

ニンニクは種子がとれず、鱗片を種球として植える[5]。日本においては、暖地の場合、秋に鱗片を畑地に軽く植え付け、翌年の春から初夏に収穫する[23]。食用のニンニクでも種球にでき、病虫害の心配も少ないのであまり手間がかからず[5]、ニンニクの栽培は比較的簡単なことから、畑作のほか、家庭菜園アパートマンションベランダでのプランター菜園でも栽培できる。栽培適温は5 - 15度で、植え付けは9月ごろ、収穫は翌年6月ごろが望ましく、植え付けから収穫までは9 - 10か月ほどかかる[23][24]連作障害は出にくいほうで[5]連作は可能であるが、酸性土壌を嫌う性質をもっている[23]。密植して葉にんにくとしても利用できる[23]

植え付け前の畑は堆肥などをすき込んで、平らなをつくる[5]。植え付けは、ニンニクの鱗茎の外皮を外して分球したらば、鱗片の尖ったほうを上に向けて株間20センチメートル (cm) ぐらいずつあけて1片ずつ5 cmほどの深さで畑に植える[23][5]。植え付け後1週間ほどで芽が出て生長が始まる[23]。ふつうは1箇所から1本だけ芽が出るが、2本から複数出ることもある。その場合は芽かきをして、太くて丈夫な芽を残して1箇所1本だけにする[23][5]。秋の植え付けから12月までに1回目の追肥を行い、株元に土寄せを行っておく[23][5]。翌年の春に2回目の追肥を行い、中耕して土寄せを行う[25][5]。春になると葉が勢いよく生長し、薹(とう)立ちして蕾が出てきたら、花がつかないように手で摘み取るようにする[23][5]。春先に葉が伸びるころにはニンニクの鱗茎も生長する[5]。4月中旬以降、下葉(葉の半分)が枯れ始めたころが収穫適期となる[23][5]。収穫方法は、株元を持って畑から抜き取って、根を切りとって8 - 10球ずつ束ねていく[23]。これを畑に数日おいて乾かし、さらに雨が当たらない軒下など、風通しの良いところに吊して乾燥させて貯蔵する[23][5]

病虫害にはあまりかからないほうである[23]。ニンニクには、立ち枯れ病などの病害菌を抑える微生物が共生しているため、他の作物の病虫害を防ぐコンパニオンプランツとしても利用できる[23][5]

食材

鱗茎(球根)は世界中で香味野菜として使われている[10]。日本では、主なは6 - 7月とされるが[10]、ふつう乾燥して貯蔵したものが通年流通している[4]。冬から春にかけて伸びる花茎の部分は「ニンニクの芽」とよばれ、炒め物などの食材に使われている[4]

食材としての活用

左・中央はニンニクの鱗茎・鱗片。右はみじん切りにされたニンニク。
一片種の外観と断面

の臭みを消し、料理に食欲をそそる香味を付与する。香味野菜の代名詞的存在であり、中国料理朝鮮料理イタリア料理フランス料理インド料理ブラジル料理など様々な料理に用いられる。中でも、味のインパクトが強い料理に多く用いられる。

和食と各国の食文化が融合した現代の日本料理では、他の食材を併せて調理される。また、日本式餃子の具としても多く使用され、他にも香辛料として焼肉のタレ、鰹のタタキの薬味に使用する事も多い。さらに、ラーメンの具やトッピングとしてもポピュラーであるほか、皮付きのまま丸ごと揚げたり焼いたりして提供されることもある。高知県の一部地域では葉ニンニクも使われている。

中国では日本の餃子のようにニンニクのみじん切りは入れないが、食堂などで生の皮付きニンニクが無料で提供されそれをむきながら食べたり、ニンニクの砂糖漬けが供される場合もある。これは餃子を食べるときに限らず麵やスープを食する場合にも提供される。

ニンニクを調理する際は、鱗片の中央にある芽の部分が消化されにくく、くさい臭いの原因になるので取り除いて使う[11]。鱗茎の1片に包丁の腹をのせて上から押しつぶしたりして使うと、細胞が壊れてアリシン由来の香り成分が多く発生し、料理の仕上がりの香ばしさがより良く引き立つ[10][4]。炒め物の香りづけや薬味には、薄切りやみじん切りにしたものが使われる[4]。中華料理・イタリア料理などでは、調理油でまず最初にニンニクのみじん切りを炒め、油に香りを移す調理法が多用される。炒めるときに低温のうちに入れないと焦げやすくなり、苦味のもととなってしまう[11]

漬物にも利用され(ニンニク漬)、塩蔵ニンニクのほか、塩蔵ニンニクに調味を施した蜂蜜ニンニク、味噌カツオニンニク、南高梅ニンニクなどがある[26]

中華料理では、球根のみならず葉(葉ニンニク)や茎(いわゆる「ニンニクの芽」)も香味野菜として利用される。皮をむいたニンニクの球根を乾燥させ、粉末状にした「ガーリックパウダー」もある。乾燥させることで生よりも臭気を抑えられることもあり、ガーリックトーストをはじめとする各種料理に用いられている。ガーリックパウダーは吸湿性が高く、開封後は乾燥状態を保持できる環境で保管する必要がある。逆に、わざと少量の水分を加えて、摺り下ろしニンニク代わりに使う例もある。

サプリメント健康食品にも加工される。ニンニクを高温多湿な環境で1ヶ月ほど熟成させると一部の成分が変化し黒く変色した「黒ニンニク」になる[27]。青森県で2004年に商品化され、2010年代にはフランスなどヨーロッパで生産されたり、日本から輸入されたりしている[28]エムケー精工により家庭用の黒ニンニク加工機も開発されている[29]

保存方法

丸のままのニンニク(鱗茎部)は水気に弱いため、ネットなどの網袋などに入れて風通しの良い涼しい場所に吊しておく。この方法で、数か月は保存ができる[10][11]。このような保存方法がとれない場合は、湿気を避けて、通気性の良い紙袋に入れて冷暗所に保存する[10]

切ったニンニクの場合、粗くみじん切りなどにして、保存ビンに入れて全体が被るぐらいのオリーブ油を注いでおくと、常温で1か月ほど保存できる[10]。ニンニクが常に油に浸かっていないとカビが発生しやすいため、オリーブ油を継ぎ足してニンニク表面が油に浸かった状態を維持する[10]

球根の緑変

酢漬けで緑に変色したニンニク

ニンニクの球根を摺り下ろしたり漬けにしたりすると、乳白色から緑色に変色する場合がある[30]。この変色はニンニクに含まれるアリインと、低温(3℃)貯蔵中に生成されるイソアリインとが反応した場合に起こる[31]。ニンニクは気温が下がると発芽準備に伴いイソアリインを蓄積するため、特に冬から春にかけて収穫されたニンニクは緑変しやすい。逆に25℃以上の環境ではイソアリインがシクロアリインへと代謝されるため、夏季に収穫されたものはこの反応を起こしにくい[32]。緑変したものを食べても人体には影響はない。なお一度緑変したニンニクは、1か月ほど放置すると緑色が目立たなくなる。


注釈

  1. ^ 最新のAPG体系での分類はヒガンバナ科であるが、古いクロンキスト体系新エングラー体系ではユリ科に分類された[2]
  2. ^ 体中からアリルメルカプタンの臭いを消し去る効果的な方法は発見されていない。

出典

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium sativum L. 'Nipponicum' ニンニク(狭義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月11日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium sativum L. ニンニク(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年11月12日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium sativum L. var. japonicum Kitam. ニンニク(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年11月12日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 168.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 金子美登 2012, p. 214.
  6. ^ a b 木村秀次・黒澤弘光『大修館現代漢和辞典』大修館出版、1996年12月10日発行(436ページ)
  7. ^ 中国語-日本語 人肉”. www.peoplechina.com.cn. 人民中国. 2022年4月17日閲覧。
  8. ^ にんにくたっぷり!定番&変わり種「スタミナ炒め」はいかが?毎日新聞クックパッドニュース(2018年7月27日)2018年11月27日閲覧。
  9. ^ ニンニクの芽(茎にんにく):特徴と旬の時期や産地フーズリンク 旬の食材百科(2018年11月27日閲覧)。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 主婦の友社編 2011, p. 250.
  11. ^ a b c d e f g h i j k l 講談社編 2013, p. 110.
  12. ^ 日本テレビ放送網株式会社. “まさかアレの食べすぎで体調不良”. 日本テレビ. 2021年12月4日閲覧。
  13. ^ 豆知識”. www.kanazawa-market.or.jp. 2021年12月4日閲覧。
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  16. ^ 東北農政局 青森県内にんにく生産ベスト5市町村(平成21年)”. 2012年3月21日閲覧。
  17. ^ にんにくについて” (PDF). 田子町. 2010年1月26日閲覧。
  18. ^ 新品種「たっこ1号」愛称決定【美六姫】(みろくひめ)田子町(2019年12月29日閲覧)
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  20. ^ a b c カルロス・トシキ、ブラジルで“ニンニク王”に 種苗会社で球種開発/デイリースポーツ online”. デイリースポーツ online. 2021年12月4日閲覧。
  21. ^ a b c 帰国後は経営者として成功、カルロス・トシキが懐かしむ「1986年からの5年間」 : 音楽 : エンタメ・文化 : ニュース”. 読売新聞オンライン (2021年4月3日). 2021年12月4日閲覧。
  22. ^ a b c INC, SANKEI DIGITAL (2017年3月9日). “カルロス・トシキさん、現在はブラジルでにんにくを作っていた!”. イザ!. 2021年12月4日閲覧。
  23. ^ a b c d e f g h i j k l m n 主婦の友社編 2011, p. 251.
  24. ^ 【家庭菜園のプロ監修】ニンニク栽培のコツとは?プランターで育てる方法も! | AGRI PICK”. 農業・ガーデニング・園芸・家庭菜園マガジン[AGRI PICK]. 2021年1月17日閲覧。
  25. ^ 主婦の友社編 2011, p. 254.
  26. ^ 漬物の製造法”. 全日本漬物協同組合連合会. 2022年4月8日閲覧。
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  28. ^ 「黒にんにく 仏で新境地」『日本経済新聞』朝刊2019年12月8日(NIKKEI The STYLE)14面
  29. ^ エムケー精工、「黒にんにくメーカー」自宅で熟成、臭いも軽減『日本経済新聞』朝刊2019年6月1日(長野経済面)2019年12月29日閲覧
  30. ^ 「国産のニンニクを生の状態ですりおろし、すぐに冷凍凍結させると緑色に変色するケース、変色しないで乳白色のままのケースがある。緑に変色させる物質が何なのか、どう処理すると変色を防ぐことができるのかを知りたい。」(国立国会図書館支部農林水産省図書館農林水産技術会議事務局つくば分館) - レファレンス協同データベース(2019年12月29日閲覧)
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