タヌキ 生態

タヌキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/11 06:24 UTC 版)

生態

森林のほか、農業地帯や都市部にも生息する[23]。湖などの水辺で、下生えの深い環境を好む[2][4]シベリアの例では河川や小さい湖の周辺にある沼地や草原・藪地・広葉樹林などを好み、タイガは避ける[2]夜行性だが、人間の影響がない環境では昼間でも活動する[4]。属名Nyctereutesは、古代ギリシャ語で「夜」の意があるnyctosと「探す」の意があるereunaに由来する[2]。交尾時期から子育てを終えるまでの間は、ペアを形成して行動する[19]

行動圏は地域・季節などによって非常に変異が大きい[2]。巣穴は自分で掘らず[19]、自然に開いた穴やアナグマ類キツネ類の穴を利用し、積み廃屋などの人工物を利用することもある[4]

本種には複数の個体が特定の場所にをする「ため糞(ふん)」という習性がある[24]。1頭のタヌキの行動範囲の中には、約10か所のため糞場があり、1晩の餌場巡回で、そのうちの2、3か所を使う。ため糞場には、大きいところになると、直径50cm、高さ20cmもの糞が積もっているという。ため糞は、そのにおいによって、地域の個体同士の情報交換に役立っていると思われる。

死んだふり、寝たふりをするという意味の「たぬき寝入り」は、猟師猟銃を撃った時、その銃声が刺激となってタヌキは「擬死」の状態に入り、猟師が獲物をしとめたと思って持ち去ろうと油断すると、その間に擬死が解けて逃げ去る状況を表す[11]。同様の習性を持つことから、擬死を指す表現として英語圏では fox sleep(キツネ寝入り)、それよりさらに一般的なものとして playing possumポッサムのまねをする)という言いまわしがある[25]。「タヌキ」という言葉は、この「たぬき寝入り」を「タマヌキ(魂の抜けた状態)」と呼んだのが語源であるという説がある[26]

長い剛毛と密生した柔毛の組み合わせで、湿地の茂みの中も自由に行動でき、水生昆虫魚介類など水生動物も捕食する。足の指の間の皮膜は、泥地の歩行や遊泳など水辺での活動を容易にする。

温暖な地域に生息する個体に冬眠の習性はないが、秋になると冬に備えて脂肪を蓄え、体重を50%ほども増加させる。積雪の多い寒冷地では、冬期に穴ごもりする[27]ことが多い。タヌキのずんぐりしたイメージは、冬毛の長い上毛による部分も大きく、夏毛のタヌキは意外にスリムである。

食性は雑食で、齧歯類鳥類やその卵、両生類魚類昆虫多足類甲殻類軟体動物、動物の死骸、植物(果実・堅果・漿果・種子)などを食べる[2][4]。ヒトには悪臭とされるイチョウの種子(ギンナン)も好んで採食する[23]。イヌ科の動物としては珍しく、あまり上手くないが木に登る習性があり、木に登ってカキやビワの果実を食べたりする。人家近くで残飯を漁ったりすることもある[4]。捕食者はオオカミイヌオオヤマネコクズリイヌワシオオワシワシミミズクなどが挙げられる[2]

繁殖様式は胎生発情期は1 - 3月[2][4]。1頭のメスへ3 - 4頭のオスが集まり、ペアが形成されると周囲や互いに尿をかけて臭いをつける[4]。陰茎がメスの膣内で膨張して射精するまで抜けなくなり、尻合わせのような姿勢で交尾(交尾結合、タイ)を行う[4]。妊娠期間は59 - 64日[2][4]。5 - 7頭の幼獣を産むが、最大19頭の幼獣を産んだ例もある[2][4]。授乳期間は1か月半から2か月[4]。生後9 - 11か月で性成熟するが、繁殖を開始するのは生後2 - 3年以降が多い[4]


  1. ^ a b c Kauhala, K. & Saeki, M. 2016. Nyctereutes procyonoides. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T14925A85658776. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T14925A85658776.en. Downloaded on 04 July 2018.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v Oscar G. Ward & Doris H. Wurstar-Hill, "Nyctereutes procyonoides," Mammalian Species No. 358, American Society of Mammalogists, 1990, Pages 1-5.
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  5. ^ Nyctereutes procyonoides (ASM Mammal Diversity Database #1005961) fetched 13/03/2023. Mammal Diversity Database. 2023. https://www.mammaldiversity.org/explore.html#genus=Nyctereutes&species=procyonoides&id=1005961
  6. ^ a b c Kelly Carr, 2004. "Nyctereutes procyonoides" (On-line), Animal Diversity Web. Accessed March 09, 2021.
  7. ^ 谷戸崇・岡部晋也・池田悠吾・本川雅治Illustrated Checklist of the Mammals of the Worldにおける日本産哺乳類の種分類の検討」『タクサ:日本動物分類学会誌』第53巻(号)、日本動物分類学会、2022年、31-47頁。
  8. ^ a b c d e f Kim, Sang-In; Oshida, Tatsuo; Lee, Hang; Min, Mi-Sook; Kimura, Junpei (2015). “Evolutionary and biogeographical implications of variation in skull morphology of raccoon dogs (Nyctereutes procyonoides, Mammalia: Carnivora)” (英語). Biological Journal of the Linnean Society 116 (4): 856–872. doi:10.1111/bij.12629. ISSN 1095-8312. 
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  11. ^ a b c d e f "タヌキ". 日本大百科全書(ニッポニカ), ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典, 防府市歴史用語集. コトバンクより2022年4月19日閲覧
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  13. ^ 『毛皮用動物全講』成美堂書店、1936年1月5日、12頁。 
  14. ^ 『改訂増補版 最新養狸法研究』仙臺養狸組合、1939年、27-28頁。 
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  16. ^ 木暮正夫 2002, p. 40
  17. ^ 熊谷さとし (2020年2月12日). “学名はおもしろい! 再び共に生きるために…対馬のカワウソの生態調査を行いたい!カワウソ研究会”. readyfor.jp. 2022年12月4日閲覧。
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