クスノキ 名称

クスノキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/14 07:21 UTC 版)

名称

和名クスノキの由来は諸説あり、はっきりしないが、香り高く、寿命が長い「奇(くす)しい木」という意味で名付けられたという説や、南方語由来とする説などがある[3]。一般的にクスノキに使われる「楠」という字は本来は中国タブノキを指す字である。

クスノキの枝葉を蒸留して得られる無色透明の固体で、防虫剤医薬品等に使用されるカンフルから、英語でカンファー・ツリー(camphor tree) やカンファーウッド(camphorwood)、カンファー・ローレル(camphor laurel)と呼ばれる。各部に樟脳の香りがあり、ちぎったり傷つけたりすると強く香る。学名では、属名がシナモン(肉桂)を意味する Cinnamomum 、種小名は樟脳を意味する camphora になっている[4]。中国名は、樟(しょう)[5]または樟樹という[1]

春の若葉のころに、全体的に赤っぽく見えるクスのことを特にアカグスと呼び、青っぽく見える方をアオグスと呼ぶ場合がある[4]

クスノキの花言葉を、「芳香」[6]とする文献がある。

分布・生育地

蒲生のクス、幹周24m
国指定の特別天然記念物で日本で最も太い木

世界的には、台湾中国、朝鮮の済州島ベトナムといった暖地に分布し[7][6]、それらの地域から日本に進出した(史前帰化植物)。

日本では、主に関東地方南部以西から本州の太平洋側、四国九州沖縄に広く見られるが[3][4]、特に九州に多く、生息域は内陸部にまで広がっている。生息割合は、東海・東南海地方、四国、九州の順に8%、12%、80%である。暖地の常緑樹林に生えるが自生かどうかは不明で[8]、人の手の入らない森林では見かけることが少なく、人里近くに多い。かつては天然樟脳を採取するため、日本各地にクスノキが植林されてきたが、合成樟脳ができるようになってからは、植林樹が放置されて野生化している[9]

神木樟樹公(台湾)

古くから寺や神社の境内にもよく植えられており[10]、特に神社林ではしばしば大木が見られ、ご神木として人々の信仰の対象とされるものもある。日本最大のクスノキは、鹿児島県蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」(幹周24.2 m)で、確認されている中で、幹周の上では全樹種を通じて日本最大の巨木である[11][9]。また、徳島県三好郡東みよし町には、1956年7月19日、文化財保護法により特別天然記念物に指定された大クスがあり、これは樹齢数千余年と推定され、根回り19メートル (m) 、目通りの周囲約13 m、枝張りは東西経45 m、南北経40 m、高さ約25 mである[12]

他に、特にクスノキが多い神社として、福岡県宇美八幡宮(国指定2本/県指定25本、幹周5 - 9.9 m 9本、10 - 14.9 m 1本、15 m以上 2本)、愛媛県大山祇神社(国指定38本/県指定1本、幹周5 - 9.9 m 10本超、10 - 14.9 m 2本、15 m以上 1本)が挙げられる。

台湾には、神木樟樹公中国語版(和社神木とも)という世界最大級のクスノキがあり、幹周16.2 m、樹高44 mを測る。この樹は太い主幹が20 m以上も立ち上がる他にあまりない樹形をしている。

形態・生態

常緑広葉樹[13]大高木で高さは8 - 25メートル (m) ほどになり[14]、幹回りが3 m以上になる巨木が多い[6]。生長スピードは速く[15]、暖地で特によく生育し[4]、大きなものは高さ30 m以上、目通りの周囲22 m以上、樹齢約800年という巨樹になる個体もある[3]。樹冠もゆったりと広がって大きくなり[4]、単木ではこんもりとした樹形をなす。樹皮は茶褐色から暗褐色で、縦に細く短冊状に裂ける[10][8]。若枝は無毛で、黄緑色をしている[8]

互生し、表面は緑色でつやがあり、裏面は灰緑色[2]。葉身は革質で、長さ5 - 11センチメートル (cm) の先の尖った卵形から楕円形で[10][2]、表裏面とも無毛[13]葉縁は全縁で波打つ[16]。主脈の根本近くから左右に一対のやや太い側脈が出る三行脈である[8]。その三行脈の分岐点には1ミリメートル (mm) ほどの一対の小さな膨らみがあり、この内部に空洞があって葉の裏側で開口している[8][16]。これをダニ室という(後述[14]。春の芽吹きの若葉は、はじめ赤くやがて明るい緑色になり[17]葉柄が赤色のものと緑色のものがあり、赤いものが多いと全体として視覚的に赤っぽく感じられ目につく[4]。葉の寿命はほぼ1年で、春(4月末 - 5月上旬)に新しい葉が出るときに、古い葉が赤く紅葉して一斉に落葉する[18][2]

花期は初夏(5 - 6月)で、葉の付け根から円錐花序を直立させて、直径5 mmほどの小さなが多数咲く[7][10][2]。花色は、はじめは白色であるが、あとに黄緑色を帯びる[13]花被片は6個ある[10]

果期は秋(10 - 11月)。果実は直径7 - 9ミリメートル (mm) 程度の球形の液果で、はじめは淡緑色だか11 - 12月になると黒色に熟す[7][10][13]。果皮の中には、直径5 - 6 mm程度の種子が一つ入っている[13]が食べて種子散布に与るが、人間の食用には適さない。

冬芽は赤褐色をした長卵形で、先端は尖り、多数の芽鱗に包まれている[8]

葉や木の各部にほのかに甘い芳香があり、樟脳の材料になる[2]

ダニ室

葉脈の3分岐点にあるのがダニ室

クスノキの葉に2つずつ存在するダニ室には2形があり、入り口の大きいものと小さいものがある。入り口の大きい方にはケボソナガヒシダニという捕食性のダニが住み込んでおり、これがクスノキの葉を害する植食性のダニを捕食することでクスノキを守っていると考えられる。他方で入り口の小さい方には植食性のフシダニの一種が生息している。これはもちろんクスノキから栄養を吸収するものの、それ以上の害を与えることはない。ダニ室で増殖したフシダニは少しずつダニ室の外に溢れ、これをダニ室には侵入できないサイズの捕食性のダニが捕食することでクスノキの樹上には常にフシダニ捕食性のダニが一定密度で維持されている。特にコウズケカブリダニがこれに働いているらしい。このダニ室を人為的に塞いでダニ室のフシダニやコウズケカブリダニを排除すると、クスノキにとって有害な虫えいを形成するフシダニが増殖し、多くの葉がこぶだらけになることが知られている。従って、クスノキの葉のダニ室はクスノキに病変を引き起こすフシダニの天敵の維持に役立っていると考えられている。それも片方では捕食性ダニのシェルターを提供することで、もう片方では捕食性ダニの餌になる植食性ダニを育て捕食性ダニを常駐させることでこれを行っているとみられる。この後者の方法はクスノキの研究で初めて発見されたものである[19]


  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cinnamomum camphora (L.) J.Presl”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年5月31日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 田中潔 2011, p. 66.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 田中孝治 1995, p. 137.
  4. ^ a b c d e f 辻井達一 1995, p. 162.
  5. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 157.
  6. ^ a b c 田中潔 2011, p. 67.
  7. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 65.
  8. ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 234.
  9. ^ a b 林将之 2008a, p. 77.
  10. ^ a b c d e f g 西田尚道監修 学習研究社編 2000, p. 44.
  11. ^ 辻井達一 1995, pp. 163–164.
  12. ^ 執筆委員会・監修 金沢治『三加茂町史 復刻版』三加茂町、1973年、1277頁
  13. ^ a b c d e f 山﨑誠子 2019, p. 44.
  14. ^ a b 林将之 2008a, p. 76.
  15. ^ a b 山﨑誠子 2019, p. 45.
  16. ^ a b 林将之 2011, p. 30.
  17. ^ a b c d e 正木覚 2012, p. 53.
  18. ^ 林将之 2008b, p. 26.
  19. ^ 笠井 (2006) なお、この時点ではフシダニの種名は確定していないらしく、ダニ室内外の種をそれぞれフシダニsp.1、フシダニsp.2と記するのみである。
  20. ^ a b 辻井達一 1995, p. 164.
  21. ^ 林将之 2011, p. 31.
  22. ^ 森脇竜雄、今泉英一「がいろじゅ」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p76 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行
  23. ^ 「針葉樹 都会では枯死 明治神宮、クスの森に」『朝日新聞』昭和48年(1973年)1月4日朝刊
  24. ^ 香田徹也「昭和15年(1940年)林政・民有林」『日本近代林政年表 1867-2009』p420 日本林業調査会 2011年 全国書誌番号:22018608





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