イギリスの欧州連合離脱 英国国内への影響と影響予測

イギリスの欧州連合離脱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/30 08:08 UTC 版)

英国国内への影響と影響予測

英EU離脱省(DExEU)は、英国の58の産業への経済的影響に関する報告を作成した。労働党は報告の詳細について自由な情報公開を要求した、しかし離脱省は情報公表は政策形成を損なう可能性があり、「安全な場所」で政策決定をおこなう必要があるとした[293]。2017年11月1日、労働党は下院で「humble address」として知られる稀にしか使われることのない動議を発動し、情報公開を求めた。動議は全会一致で可決された。

下院院内総務アンドレア・レッドサムは、離脱交渉を害することなく情報を公表する方法を大臣が決定するには、今しばらく時間がかかると述べた[294]

移民

短期的な影響

2017年3月の公式な数字によると、EUからのイギリスへの移民は引き続き増加を続けているものの、英国外への移民と国内への移民の差(「純移住」)は過去3年間で最低となった。国民保険サービス(NHS)に登録されたEU看護師の数は2016年7月の1,304人から、2017年4月には46人に減少した[295]

長期的な影響予測

監査法人KPMGは、英国内2,000人のEU労働者を対象とした2017年の調査に基づいて、英国で働く約100万人のEU市民はイギリスでの将来の生活がどうなるかわからないと見ていると推測している。キング・カレッジ・ロンドンのエコノミスト、ジュゼッペ・フォルテとジョナサン・ポーツは2017年の論文のなかで、「将来の移民の流れはマクロ経済他の要因によって引き起こされる一方、ブレグジットと自由な移動の終わりは欧州経済領域から英国への移民の大幅な減少をもたらすだろう」と主張した[296]

2016年のポーツの調査は「離脱後の英国の入国管理政策の選択肢は依然として幅広い。しかし、もっとも妥当な結論としてはビジネス規制上の負担の増加がもたらされるだろう。未熟練労働者および熟練労働者のフローの減少、そして違法労働の増加。政策立案者にとって重要な問題は、EU加盟国に対抗することなく、統制の強化に対する国内の政治的要求に取り組む一方で、これらの悪影響を最小限に抑える方法だが、これは簡単なことではないだろう」と書いた。移民政策研究所のサマービルは、「政策と経済的確実性がない状態で、将来の移住レベルを予測することは不可能」とした上で、「英国はEUと非EU諸国から年間50万人以上の移民を受け入れ続けるだろう」と推定した[297]

欧州経済領域から移民の減少は特に英国の医療部門に悪影響を及ぼす可能性がある。ニューヨークタイムズ紙によると、ブレグジットはすでに慢性的な人員不足に苦しんでいる国民保険サービス(NHS)にとって、ヨーロッパの他の国々から看護師、助産師、および医師を採用することをより困難かつ高コストにすることは「確か」だとした[298]

経済

直接的な影響

国民投票以来、英国内での実際的な影響に関する研究によれば、国民投票の結果が英国のインフレ率を1.7パーセントポイント押し上げた。これは平均英国世帯の年間費用404ポンドにあたる[299]。別の調査では、2018年9月までの国民投票の経済コストはすでにGDPの2%にあたることがわかった[300]。シンクタンク、欧州改革センターによる2018年9月の分析によると、損失はGDPの2.5%にのぼることが示された[301]

別の分析は、離脱国民投票がのちに続く2年間の貿易額の減少を引き起こすことを指摘した[302][303]。Financial Timesによると、国民投票結果、2017年12月までに英国の国民所得は0.6% - 1.3%減少した[304]。2017年8月、カリフォルニア大学バークレー校のエコノミスト、バリー・エイチェングリーンはイギリスの消費マインドが冷え込み、消費者の支出が過去4年間で最低水準にまで落ち込んでおり、国民投票による将来への不確実性の悪影響があらわれていると述べた[305]。2017年11月、ヨーロッパ銀行は国民投票後12ヶ月間で英国関連の資産を3,500億ユーロ削減し、2019年3月の離脱期限より前にこのトレンドが拡大するとの予想を報告した[306]

スタンフォード大学とノッティンガム大学のエコノミストによる分析では、ブレグジットの不確実性が企業による投資を約6%減少させ、雇用を1.5%減少させたと推定している[307]。ケンブリッジ大学のエコノミストによる2019年の分析は、国民投票の結果生じたイギリスの将来の貿易政策に関する不確実性が、離脱投票以後のイギリスの国際貿易活動を後退させた[308][309]とした。また、2019年の分析は、英国の企業の国民投票後に欧州連合へのオフショアリングを大幅に増加させたが、欧州の企業は英国への新規投資を削減させたとの結果を発表した[310][311]

短期的な影響予測

国民投票後、イングランド銀行および他の銀行による短期的なマクロ経済予測を発表した。予測では、国民投票の結果は金融市場とビジネスに不確実性をもたらし、消費者の信頼を低下させる可能性があるとしている[312][313]

オックスフォード大学の経済学者、サイモン・レン・ルイスは「短期のマクロ経済予測は非常に信頼性が低い」と言う。その一方で、ルイスは離脱の影響に関する長期予測には強力な経験的根拠があると指摘する[314]カリフォルニア大学バークレー校の経済学者バリー・エイチェングリーンはエコノミストは「いつ、なぜ不確実性が生じるのかを確実に予測することにほとんど成功していない」と書き[315]キングス・カレッジ・ロンドンの経済学者ジョナサンポーツは「短期的な経済予測は非常に信頼できない」とした。彼は短期の経済予測と天気予報を比較し、長期の経済予測と気候予測とを比較した[316]

長期的な影響予測

経済学者のあいだでは、離脱は中長期的に英国経済に悪影響を与えるという圧倒的な意見の一致がある。2016年に行われた経済学者への調査は、離脱が英国の1人当たりの実質所得水準を低下させる可能性が高いことを示した[317]。2017年の調査では、「長期的に見れば、離脱は貿易、海外直接投資、および移民に対する新たな障壁を生み出すことになるため、1人当たりの英国人所得1 - 10%間の範囲で英国をより貧しくするだろう」との合意に至った。もっとも、これら予測は英国が(例えば欧州経済領域に加盟することによって)欧州単一市場に留まるのか、EUと自由貿易協定を締結するのか、あるいは世界貿易機関の貿易ルールに戻るのかによっても異なる[318]。2018年1月、英国政府の離脱分析が漏洩した。分析では、英国の経済成長は、離脱シナリオにもよるものの、離脱後少なくとも15年間は2 - 8%の割合で成長が妨げることが予想されていた[319][320]。英国財務省を含むほとんどのエコノミストは、EU加盟は貿易に強いプラスの影響を及ぼしており、離脱すれば貿易は悪化するだろうと主張している。ケンブリッジ大学のエコノミストのグループによると、英国がWTOの貿易ルールにくわわる「ハード・ブレグジット」だった場合、EUへの英国からの輸出の3分の1は関税がかからないが、4分の1は高い貿易障壁に直面し、その他の輸出は1 - 10%の範囲での関税リスクに直面すると予測した[321]

2010年のデータに基づく2017年の調査では、「ほとんどすべての英国の地域が他国の地域よりもシステム的に離脱に対して脆弱であることがわかった。イギリスとの長年の貿易統合により、アイルランド地域は「離脱リスク」にさらされるレベルが高く、イギリスやスコットランド北部など、レベルの低い他の地域もその脆弱さは同様である。一方、EU内で最もリスクにさらされる地域は南ドイツにあるものの、そのリスクレベルは通常イギリスやアイルランドの半分であり、高リスクレベルの3分の1はイギリスの地域で占められている。ヨーロッパ北西部では高い離脱のリスクレベルの地域もあるが、南ヨーロッパと東ヨーロッパは、少なくとも貿易に関しては離脱の影響をほとんど受けない。全体的に見れば、英国は他のEU諸国よりもはるかに離脱リスクにさらされている」とした[322]

国民投票の後、財政研究所は報告書のなかで、「イギリスが単一市場のメンバーシップを維持しなければ、新しい貿易取引では違いを補うことが出来ず、経済成長の低下により700億ポンド失うだろう」と警告した[323]。とりわけ影響が大きい分野の1つは金融サービスであり、これは金融商品がEUの「パスポート」によって支えられていることに因る。ここには間接的に年間71,000人の雇用と100億ポンドの税金が含まれている。また一部銀行は英国外に事業を移転する計画を発表した。オックスフォード大学教授ジョン・アーマーは、「英国が単一市場に留まる「ソフト・ブレグジット」は、金融サービス会社が規制上のパスポートの権利を持つことを可能とするので、他のものよりもリスクの低い選択肢となる」とした[324]

一方で、2017年の研究は、「既存の文献を使用した成長と賃金への影響の経験的な推定」に基づいて、離脱は一人当たりGDPと低技能サービスの賃金にわずかにプラスの影響を与える」と主張した[325]。貿易と外国投資の変化が入国管理とどのように相互作用するかは不透明だが、これらの変化は重要な意味をもつ可能性がある。イングランド銀行元総裁マーヴィン・キングは、EUを離脱に関する経済的な警告は誇張されており、英国はより多くの機会を得るために単一市場と関税同盟を離れるべきであると述べた[326]

金融部門

カリフォルニア大学バークレー校の経済学者バリー・エイチェングリーンによると、ロンドンの国際金融センターとしての将来は、英国が英国の銀行に対するパスポートの権利を欧州連合から取得できるかどうかにかかっている。英国にある銀行がパスポートの権利を取得できない場合、彼らはEU内の金融センターに移転するという強いインセンティブがあるとした[327]

2020年に離脱協定を結んだがイギリスはパスポートの権利を得ることは出来ず個別の事案がEUのルールと同等であると判断された場合にのみ市場にアクセス出来ることなった。イギリスの金融機関は人員と資産をイギリスからEU移動させた[328]

欧州医薬品庁・欧州銀行監督局

離脱は現在ロンドンを拠点としている欧州医薬品庁および欧州銀行監督局のオフィスとスタッフの移転を要求している[329]。これらの機関は合わせて1,000人以上の従業員を雇用し、それぞれアムステルダムとパリに移転する予定である。またEUはユーロ建て取引の清算をユーロ圏の管轄区域に制限することを検討しており、これがロンドンのこの分野における優位性を終わらせることになる[330]

エネルギー

エクセター大学チャタムハウスの研究者による2017年の調査によれば、英国が欧州のエネルギー市場に統合されることにはさまざまな利点がある。

研究は、「英国がより統合される欧州の電力市場の経済的利益を享受したいのであれば、欧州の法律は現在起草されており、EUレベルでまとめられた法律や規制を受け入れることにより自治を放棄する必要があるだけでなく、その意思決定プロセスで発言権の多くを失い、事実上規制をつくる側ではなく、規制を受ける側に回ることになる」と述べた[331]

漁業

イギリスの漁船。

EU漁船団は年間約600万トンの魚を水揚げし、そのうち約300万トンは英国の周辺水域からのものとなっている[332][333]。このうち英国は75万トンにすぎない[334]。この割合は、1964年のロンドン漁業条約およびEUの共同漁業政策によって決定されている。英国政府は2017年7月、2019年に1964年からのこれら慣習を終了すると発表した。英国の水域へのアクセスの喪失は特にアイルランドの漁業に影響を及ぼす。そこでの漁獲量は全体の3分の1にものぼる[335]

ヴァーヘニンゲン大学研究者の分析によれば、「離脱によって、英国は海産物の大部分の輸入を余儀なくされるため、消費者価格を上げることになる。英国の漁師はより多くの魚をとることができるが、水揚げする魚の価格は下落する。その結果、英国とEUの消費者と漁業の双方が「負け―負け状態(lose-lose situation)」となることが判明した[336]

2018年の調査によれば、「ブレグジットはヨーロッパの漁業管理の安定に大きな課題を投げかけている。これまで近隣のEU加盟国はイギリス周辺の海の生物資源の恵みを共有してきた。英国の排他的経済水域は長年の関係を切断し、共有魚種資源の回復と将来の持続可能性を危険にさらす可能性がある」とした[337]

高等教育および学術研究

オックスフォード大学名誉教授ケン・メイヒューによる2016年の調査によれば、ブレグジットは高等教育に対して次のような脅威をもたらす。

「EUの財源からの研究資金の喪失、他のEU諸国からの学生の喪失、EU諸国からの学術スタッフ採用への影響、および英国の学生の海外留学への影響[338]

英国の大学は支出よりも10%強多くの研究資金をEUから享受している[339]。大学を含むEUからの純受益者への資金は、2016年8月に英国政府によって保証されることになった[340]。資金調達発表前、新聞の調査は(英国の)資金調達の不確実性のため、研究プロジェクトがイギリスの研究者を含めることに消極的になっていると報告した[341]

現在、イギリスはEUの研究組織の一部であり、イギリスはそのメンバーに残りたいと思う可能性もある[342]

スコットランドの反応

スコットランドのニコラ・スタージョン首相。イギリスがEUから独立したいのと同様、スコットランドがUK(イギリス)から独立したい、という欲求はくすぶり続けている。

2016年6月の国民投票では、英国全体で「離脱票」が52%で多数派だったのに対し、スコットランドでは62%が「残留」を支持していた。スコットランド多数派の「残留」支持とイングランドの「離脱」支持は民意として相対するものとなった。国民投票の結果を踏まえ、スコットランドのニコラ・スタージョン自治政府首相は「スコットランドの未来はEUの一部となることだ」と発言し、英国からの独立をあらためて目指す可能性を示唆した。スタージョンは「スコットランドは62%がEU残留に投票した。明確かつ断固とした答えだ」と語った[343]

スコットランド人の多数派にとっては、彼らにとって傲慢に映るイングランド人に振り回され、自らの意にそぐわない欧州離脱を強要されるなら、離脱を機に英国という国家体制から独立し、独立国としてEUに加盟、そのメリットを享受しつつ、国家運営をした方が得策だとされる。

2017年3月、スコットランド国民党とニコラ・スタージョン首相は、2018年または2019年(イギリスのEU離脱前)のスコットランド独立国民投票を要求した[344][345]。。

英国首相は要求された時期をただちに棄却したが、国民投票自体は否定しなかった。2017年3月28日、国民投票はスコットランド議会によって承認された[346]。スタージョン首相は独立したスコットランドのEUへの「段階的帰還」を求めた。離脱決定ののち、スコットランド首相は、スコットランドがEU離脱のために必要な法案に対する同意を拒否するかもしれないと示唆した[347]が、スコットランドは英国の離脱を阻止できないと主張する弁護士もいる[348]


注釈

  1. ^ 実際には、英国内でも「ブレグジット」([ˈbrɛɡzɪt])と「ブレクシット」([ˈbrɛksɪt])の2通りの発音が聞かれ、Brexitは発音においても国を二分している[43]
  2. ^ 英国首相の別荘のこと。
  3. ^ 英国議会HPでは、12月30日12.30am[282]とあるが、午後12時以降は翌日なのでそのように記載する。

出典

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