アセトアルデヒド 化学的性質

アセトアルデヒド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 06:44 UTC 版)

化学的性質

低温では無色透明の液体で、ベンゼンジエチルエーテルエタノールなどと任意に混じり合う。沸点は 21 ℃と低い。容易に揮発し、特徴的な青臭い刺激臭があるが、充分希薄にすると果実臭と感じられる。燃焼範囲がきわめて広く、引火点は - 39 ℃ と非常に引火しやすい。

アセトアルデヒドにはケト-エノール互変異性があり、ビニルアルコール平衡状態にあるが、常温における平衡定数は 6 × 10−5であり、ほとんどがケト(アルデヒド)型となっている[3]

アセトアルデヒドの互変異性

製造

アセトアルデヒドはエチレンからワッカー酸化によって製造される。

ワッカー法以前には、水銀触媒を用いてアセチレンを水和し、ビニルアルコール経由で合成する方法が用いられていた[4]。日本ではかつてこの過程で生成されたメチル水銀が無処理で排出され、水俣病の原因になった。

エタノールを酸化して製造する方法もあり、規模は小さいながらも実施されている。

アセトアルデヒドの2016年度日本国内生産量は 87,066 t、工業消費量は 37,313 t である[5]。世界における年間製造量は 100 トン(2003年)である[6]

生化学

肺や消化管などから吸収され、血液、肝臓、脾臓、心臓、筋肉に分布する。飲酒後の血中においては、赤血球に存在する濃度が血漿の濃度の約10倍で、ほとんどが赤血球に存在した[7]

肝臓では、アルコール脱水素酵素がエタノールを酸化してアセトアルデヒドを生じ、これがアセトアルデヒド脱水素酵素によって、酢酸へと代謝される。この2つの酸化反応は NAD+NADH への還元と共役している。 しかしでは、アルコール脱水素酵素の寄与は小さく、代わりにカタラーゼがエタノールからアセトアルデヒドへの酸化を担っている[8]。アセトアルデヒドは呼気や皮膚ガスとして放散され、体臭の原因となる。

この体内でのアセトアルデヒドの代謝は、人種・体質によって生まれつき差異がある。(ALDH2の項参照)抗酒癖剤ジスルフィラムはアセトアルデヒド脱水素酵素を阻害し、ひどい二日酔いに似た症状を引き起こす。そこで慢性アルコール中毒の患者に対して飲酒抑止をもたらす目的で処方されることがある。

細菌植物酵母などでは、アルコール発酵の最終段階としてピルビン酸脱炭酸酵素によりピルビン酸からアセトアルデヒドが合成され、それがエタノールへと変換される。この最後の反応にもアルコール脱水素酵素が逆反応の形で寄与している。


  1. ^ SciFinderScholar (accessed Nov 4, 2009). Acetaldehyde (75-07-0) Substance Detail.
  2. ^ a b c Online Sigma Catalogue , accessdate: March 17, 2022.[リンク切れ]
  3. ^ March, J. “Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structures” J. Wiley, New York: 1992. ISBN 0-471-58148-8.
  4. ^ Dmitry A. Ponomarev and Sergey M. Shevchenko (2007). “Hydration of Acetylene: A 125th Anniversary”. J. Chem. Ed. 84 (10): 1725. doi:10.1021/ed084p1725. http://jchemed.chem.wisc.edu/HS/Journal/Issues/2007/OctACS/ACSSub/p1725.pdf. 
  5. ^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
  6. ^ Marc Eckert, Gerald Fleischmann, Reinhard Jira, Hermann M. Bolt, Klaus Golka “Acetaldehyde” in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2006, Wiley-VCH, Weinheim. doi:10.1002/14356007.a01_031.pub2.
  7. ^ アセトアルデヒドに係る健康リスク評価について 著:中央環境審議会大気・騒音振動部会、有害大気汚染物質健康リスク評価等専門委員会 サイト:環境省
  8. ^ Hipolito, L.; Sanchez, M. J.; Polache, A.; Granero, L. Brain metabolism of ethanol and alcoholism: An update. Curr. Drug Metab. 2007, 8, 716-727.
  9. ^ 室内環境学会編・関根嘉香監修「住まいの化学物質-リスクとベネフィット―」東京電機大学出版局(2015)シックハウス症候群
  10. ^ Nicotine's addictive hold increases when combined with other tobacco smoke chemicals, UCI study finds Archived 2011年2月9日, at the Wayback Machine.
  11. ^ フィリップ・J・ヒルツ 著、小林薫 訳「10章 宣誓の上で」『タバコ・ウォーズ: 米タバコ帝国の栄光と崩壊』早川書房、1998年。ISBN 978-4-15-208183-4 (元B&W社研究部長ウィガンド博士の証言)
  12. ^ Syrjänen K, Eronen K, Hendolin P, etal (2017). “Slow-release L-Cysteine (Acetium) Lozenge Is an Effective New Method in Smoking Cessation. A Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Intervention”. Anticancer Res. 37 (7): 3639–3648. doi:10.21873/anticanres.11734. PMID 28668855. http://ar.iiarjournals.org/content/37/7/3639.long. 
  13. ^ アセトアルデヒド”. e-ヘルスネット 情報提供. 2022年8月20日閲覧。
  14. ^ International Agency for Research on Cancer (1999). “Acetaldehyde” (PDF). Re-evaluation of Some Organic Chemicals, Hydrazine and Hydrogen Peroxide. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. 71. http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol71/mono71-11.pdf 
  15. ^ International Agency for Research on Cancer (2010). “Consumption of Alcoholic Beverages” (PDF). Alcohol Consumption and Ethyl Carbamate. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. 96. pp. 1278-1279. http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol96/mono96-6F.pdf 


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